「一流」とされる組織ほど内向き「論理的に相手を説得できる人材」より「空気を読んで、円満な人間関係を築ける人材」を重視する奇妙な日本企業
「一流」とされる組織ほど内向き「論理的に相手を説得できる人材」より「空気を読んで、円満な人間関係を築ける人材」を重視する奇妙な日本企業

「空気を読んで、円満な人間関係を築くことのできる人材」。確かに聞こえはいい。

ほかの社員と協力してどんどんタスクをこなしてくれそうだ。だが、そのような人物は、組織内で行われるパワハラや不正を、自身の評価を省みることなく、積極的に外部に告発するだろうか?

書籍『日本型組織のドミノ崩壊はなぜ始まったのか』より一部を抜粋・再構成し終わりを迎えつつある、日本型組織の崩壊について解説する。

「一流」の組織ほど内向きになる理由

ところで不祥事を起こしてマスコミで報道され、世間を騒がせる組織の多くには、共通点がある。

それは視聴者の関心を引き、批判の目が集まるくらい有名な組織、あるいは世間でエリートと目されるような人たちの集団だという点である。そこに不祥事を見過ごすリスクが隠れている。

一般に一流企業や独占状態にある組織は、給与面その他の待遇がよく、安定していてつぶれる心配がない。ちなみにダイハツ、東芝、旧ジャニーズなどの組織でさえ、その大半が大きな不祥事を起こした後も何らかの形で生き残っており、組織のメンバーが職を失い生活に窮しているといった話は聞かれない。

さらにメンバーがその組織の一員であることを誇れるようなブランドバリューもある(不祥事が明るみに出るまでは)。

要するに世間一般と比べると、待遇や名声に格段の開きがあるのだ。いわゆる組織の「内外格差」が大きいためメンバーにとっては組織を去ることの損失が大きく、よほどのことがないかぎり組織に留まり、上司や周囲の期待に応えようとする。

上司から無理な要求をされても受け入れてしまうし、多少の理不尽も堪え忍ぶ。

また、組織の不正や上司・同僚のパワハラに気づいても「見て見ぬふり」をする。

いずれにしても共同体のメンバーは既得権益を守ろうと特殊利益(その集団に属することによって得られる利益)にしがみつくため、内側から共同体を改革する動きはなかなか生まれない。

その意味では、番組への出演を拒否されることを恐れるテレビ局が、タレントや芸能事務所の不祥事追及に及び腰になったり、政権から情報をもらう大手マスコミの政権批判が鋭さを欠いたりするのも同じである。

もしかすると、それがテレビの地上波離れ、新聞の部数凋落といった長期のトレンドと関係しているのかもしれないが。

共同体の一体感を演出する一種の儀式

組織が「利益共同体」となってメンバーの既得権益を守ろうとする意識が強まると、そこに自浄作用が働くどころか、積極的に異分子や反逆者を排除するようになる。

たとえば内部告発者に対して人間関係のネットワークから排除するとか、あいまいな評価制度や人事の広範な裁量権を逆手にとるなど、目に見えない報復が行われるケースもある。

他社へ転職するとき、すなわち共同体から離脱するときに罵倒されたという人も少なくなく、実際に塩を撒かれたという人もいる。

これらは共同体の一体感を演出する一種の儀式といえるかもしれない。

ちなみに共同体から離れると恐ろしい目に遭い、不幸になるという「出離」のタブーは明治時代から語られており(吉本隆明『共同幻想論』角川学芸出版、1982年)、恐怖を用いた囲い込み体質は今日まで受け継がれていることがうかがえる。

空気が読める人材を採用したい日本企業

大きな問題は、このように空洞化した共同体は、とりあえず権力者や体制側にとって都合がよいというところにある。自ら返り血を浴びるリスクなく強権を行使したり、ルールや慣行を盾に無理難題を押しつけたりできるからである。

しかもメンバーの従順さや忖度、メンバーどうしによる異端者・反逆者の排除といった行動は、権力者にとって心地よいだけに自戒の精神を鈍らせる。

注目すべき調査結果がある。

早稲田大学教授の吉田文は、新卒総合職の採用面接経験がある企業人を対象として、2014年10月にウェブ調査の結果(有効回答者2470人)を分析している。

それによると、「どちらの人材を採用したいか?」という質問に対する、「空気を読んで、円満な人間関係を築くことのできる人材」に近いという回答は外資系企業では事務系:30.4%、技術系:34.0%だったのに対し、日系非グローバル企業では事務系:60.6%、技術系:52.7%と大きく上回っている。

逆に「論理的に相手を説得できる人材」に近いという回答は外資系企業では事務系:69.6%、技術系:66.0%だったのに対し、日系非グローバル企業では事務系:39.4%、技術系:47.3%と顕著に少ない(2019年7月15日付「日本経済新聞」)。

先に紹介した働く人の意識調査の結果では、同僚として「積極的にチャレンジする人」より「周りとの調和を大事にする人」のほうを好む人が圧倒的に多かったが、企業側の本音もそれと符合している。

つまり、そこに均衡状態が存在しているわけである。「自治」機能を失うという共同体の空洞化が生じているにもかかわらず、均衡状態が存在するというのは何とも奇妙だ。

しかし、実はそこに落とし穴がある。

写真/shutterstock

日本型組織のドミノ崩壊はなぜ始まったか

太田 肇
「一流」とされる組織ほど内向き「論理的に相手を説得できる人材」より「空気を読んで、円満な人間関係を築ける人材」を重視する奇妙な日本企業
日本型組織のドミノ崩壊はなぜ始まったか
2025年3月17日発売1,012円(税込)新書判/224ページISBN: 978-4-08-721354-6

旧ジャニーズ事務所の性加害事件や、ダイハツ、ビッグモーター、三菱電機、東芝などの企業不祥事、自民党の裏金問題、宝塚、大相撲のパワハラ、日大アメフト部の解散、そしてフジテレビ…、近年、日本の名だたる組織が次々と崩壊の危機に直面した。

そこには共通点がある。「目的集団」であるはずの組織が、日本の場合は同時に「共同体」でもあったことだ。

この日本型組織はなぜ今、一斉におかしくなってしまったのか? 日本の組織を改善させる方法はあるのか? 

組織論研究の第一人者が崩壊の原因を分析し、現代に合った組織「新生」の方法を提言する。

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