〈独自・ずさんすぎる食品衛生管理〉「山梨県では講習も受けていない人が衛生指導」抜き打ち検査はザルとも…厚労省“最大”外郭団体のありえない飲食店チェック体制を内部告発
〈独自・ずさんすぎる食品衛生管理〉「山梨県では講習も受けていない人が衛生指導」抜き打ち検査はザルとも…厚労省“最大”外郭団体のありえない飲食店チェック体制を内部告発

「食品衛生指導員」という人たちをご存じだろうか。保健所業務を補佐し、飲食店を回って食中毒の危険がある不潔な環境で調理がなされていないかをチェックする役割を担う。

厚生労働省の外郭団体が飲食店経営者の中から候補者を決め、養成をしている。ところが山梨県内では指導員の養成講習が長年、規定通り行われず、店舗点検時の細菌検査も実施されてこなかった疑いがあることが関係者の証言でわかった。食の安全は大丈夫なのか。 

「ずさんな態勢だから食中毒を予防するための外部の目は機能していないんです」

「冬場にこんなことが起きたのが異常です。暖かくなり、これから食中毒が増える可能性もある。山梨の飲食店の衛生状態はどうなっているのかと思われるでしょう」

そう危機感をあらわにするのは、県内の飲食店が会員となって運営する「山梨県食品衛生協会」の内部事情を知るAさんだ。

甲府市では今年2月13日から22日の間に飲食店と学生寮の3か所で計47人が下痢や嘔吐を訴える食中毒事故が発生。いずれの厨房からもノロウイルスが検出された。寒い時期に食中毒が連続発生した山梨の状況をAさんが告発する。

「保健所は何をやっているんだと普通の人は思うでしょう。保健所の責任は当然あります。でも飲食店の衛生管理は実は、同業者の中から選ばれた食品衛生指導員が担う部分が大きいんです。

指導員は山梨県食協による衛生知識の講習を受けて委嘱され、担当する地域の飲食店を巡回して指導を行なうことになっています。

山梨県ではおおむね各店に年に2回、抜き打ちで検査に入り、厨房の衛生状態を調べ、不備があれば改善を指導するシステムです。

ところが山梨では相当昔から、山梨県食協による指導員養成講習が行なわれず、基本的な細菌検査の技術を持たない人が巡回をしてきました。こんなずさんな体制だから食中毒を予防する外部の目は機能していないんです」(Aさん)

こ事実なら食の安全の信頼を揺るがしかねない証言だ。これが事実かどうかを確かめる前に食品衛生管理の仕組みを確認したい。

「細菌検査の技術を持つ人はおらず検査は今も行なわれていません」 

飲食業界では1947年に食品衛生法が制定され、翌年に「行政に協力し自主衛生管理を実施する」ことを目的にした日本食品衛生協会(日食協、現在は公益社団法人)が設立された。厚生労働省の外郭団体で最大の業界団体だ。

日食協には支部として都道府県や大規模市ごとに59の一般社団法人の食品衛生協会が置かれている。山梨県食協はその一つだ。さらにその下に各保健所単位で任意団体の地区食品衛生協会が全国で700弱存在する。

組織構造としては、上から日食協ー県食協ー地区食協という形だ。

この巨大なピラミッド型組織は全国130万余りの飲食関係の事業者の会費や事業収入で運営されている。日食協や各都道府県は山梨県食協など各県食協に補助金を出し、県食協から地区食協にも補助金が支給されている。

その日食協が「食品衛生協会活動の中核」と位置付ける根幹事業が、1960年に制度が作られた食品衛生指導員による衛生管理だ。

指導員は日食協の定めるカリキュラムによる指導員養成研修(講習)を受講した人に委嘱され、現行の講習は関係法令や食中毒事例の紹介など5科目計4時間の講習と、細菌や異物検出検査など3項目の実習を定めている。

「以前は講習は2日間にわたって行なわれました。でも、それだと時間がかかり負担が大きいとの声があったために簡素化され、今は1日で終わります」(日食協の担当者)

Aさんが言う、まともに行なわれなかった養成講習とはこれを指す。

「講習はいつから行なわれていないのかもわかりません。そんななか、昨年1月と2月に2回の講習が実施されました。でもその時も肝心の検査実習はなく、以前からの指導員はその講習も受けていません。ですから店舗巡回時の細菌検査の技術を持つ人はおらず、検査は今も行われていません」(Aさん)

養成講習の実態は「わからない」…

証言の真偽について、山梨県食協のX専務理事にたずねた。X氏からは「わからない」という答えが返ってきた。

「保健所ごとにある(地区の)食品衛生協会に指導員の委嘱を任せていたので実際の実務は私どもはわからないんです。ノータッチでした。

その方式を変え、昨年の1月と2月に県食協自身が講習を行いました。各地区協会から『(負担が大きくて)とても日食協が決めているカリキュラムができない』と聞き、じゃあ私ども(県食協)の方でやりましょう、となったのです」(X氏)

集英社オンラインの取材ではこの説明には疑問があることがわかってきたが、それは後述する。

まず、X氏が長年養成講習を任せていたと主張した地区食協側はどう説明するのか。

県東部の地区食協で長年会長を務めたB氏に「養成講習を開いてきましたか?」とたずねると、「ちゃんとしてます」と返答があった。だが詳しく聞くと辻褄が合わなくなってきた。

「ちゃんと講習してます。2年にいっぺん。用事があって来られないのか、受けない人はいます。そういう人にはなるべく参加するよう呼び掛けています」(B氏)

指導員になる前に受ける養成講習は一度だけだ。B氏がいう「2年にいっぺん」の講習とは何なのか。告発者のAさんは「指導員の委嘱は2年に1度更新されるのでその時に受ける座学研修のことでしょう。参加義務はなく、保健所職員らが1時間ほど講演するだけ。実習もなく、養成講習とは全く違います。あまりに長い間養成講習を行ってなかったので、この研修と養成講習の違いがわからない職員や幹部もいるのです」と話す。

 

B氏も養成講習と更新時の研修を区別できていなかった。

「養成講習に参加していない人に指導員を委嘱したことはないか?」ともB氏に問うと、「そこまでは私にはわからないなあ」との返答だった。

別の地区食協所属で20年以上の指導員活動が表彰されたC氏も、検査の実習は「受けたことがない」と証言し、養成講習と委嘱更新時の研修の違いも「わからない」と答えた。

結局、県食協が「地区食協に任せていた」と主張する養成講習は、少なくとも一部の地区食協では行なわれてきた形跡はない。それだけではない。県食協は、講習が開かれていないことを把握し、容認してきた可能性があることも浮上した。(#2につづく)

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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