〈山梨県食品衛生協会〉「研修旅行はコンパニオンとカラオケつき」食品衛生指導員のなり手不足訴える一方で、指導員水増しか…問われる倫理観と食の安全
〈山梨県食品衛生協会〉「研修旅行はコンパニオンとカラオケつき」食品衛生指導員のなり手不足訴える一方で、指導員水増しか…問われる倫理観と食の安全

山梨県食品衛生協会が食品衛生指導員の養成講習を長期間行なってこなかった疑惑に絡み、指導員のなり手が年々減っていることが背景にあると訴える声が聞かれた。しかし、本人に無断で指導員に登録し指導員数を水増していた疑いが浮上。

さらに、補助金の入る地方組織でコンパニオン付き研修旅行が催されたとの証言も出てきた。 

「なり手不足もあって講習が“簡素化”された」

日本食品衛生協会が定めた要綱では、食品衛生指導員になるには都道府県単位の地区食品衛生協会の会長が「指導員としての資質が十分あると認める者」が養成講習を受けた上で、地域ごとに委嘱を受ける。

だが山梨県内の地区食品衛生協会で長年幹部を務め指導員活動をしてきたD氏は候補者探しの苦労を話す。

「もう話が逆なんですよ。指導員は今、高齢や体を悪くして抜けた人の埋め合わせができないんです。探して(引き受けるよう)お願いをして、一応、食協がみてから、よければ大体委嘱するんですよ」(D氏)

山梨県食協のX専務理事は、指導員の委嘱は地区の食協に任せていたので実態は「わからない」と説明した(♯1)。だが、なり手不足もあって講習が“簡素化”された可能性は認めた。

「日食協から(講習は)『できる範囲でいい』って聞いてるんです。指導員のなり手がないんで、逆に言うと、ぜひなっていただきたいというのが正直なところです」(X氏)

日食協によると全国の指導員は約4万人で、10年前から1万人減っている。山梨県内では約500人が登録されているが、これは「10年前の半分」(X専務理事)だという。5つあった県内の地区食協の一つは昨年解散した。ただ、山梨県内では10年よりもはるかに昔から養成講習が行なわれなくなっていたとみられている。

特にカリキュラムにある細菌を検出する「簡易検査実務研修」など3種類の実習が行なわれたという証言は、20年以上指導員を経験した人からも出てこない。

X専務理事は「日食協から『巡回指導の時にすればいい』って教えてもらったんで、巡回指導で先輩と行けば教わったでしょっていうスタンスでやってきたと理解しています」と説明する。

だが検査実習を受けた指導員自体がいないため、巡回指導の現場で後輩に教えることもできないはずだ。

指導員には検査技術が本当に必要なのか。技術を持たないと実害があるのか。日食協は検査技術を習得する必要性をこう説明する。

「指導員たるや、せめてこのくらいのこと(検査)はできるようにしておこうということです。(検査をした)その場で(細菌の)数値が出るので(飲食店の衛生管理の)意識づけには有効だと聞いています」(日食協担当者) 

指導員が死亡するとその日を退任日とし、同じ日付で息子を後任者として登録

「当然身に着けるべき技術がない。無免許運転と同じです。そうした人たちが飲食店を巡回してきたわけです」

この問題を告発した山梨県食協の内部事情を知るAさんはそう話した上で、なり手不足との口実が通らない別の問題も告発した。

「私自身が知らない間に、私の名前が指導員として登録されていたんです。指導員数を増やすためです。登録された何年も後に気づきました」

Aさんによると、県食協関係者には指導員活動をしないのに登録されている人が他にもいるという。さらに「指導員が死亡すれば店を継いだ息子さんらを後任者として登録することも起きていました」と続けた。

この指摘をX専務理事に問うと「わからない」との返答だった。D氏は「そんなことはないと思う」と否定した。だが集英社オンラインが確認した内部資料には確かにAさんの名が指導員として記載されている。また、県東部の地区食協では保健所職員2人を指導員として登録していたことも発覚している。(♯2)

なぜ指導員数を水増しするのか。日食協によると、昨年2月、ある新聞社から「本人が知らない間に指導員になっていた人がいるらしい。補助金を実際より多く受け取るためではないか」との問い合わせがきたという。

この疑念に日食協担当者は、「日食協から各都道府県食協への補助金額は指導員数にはリンクせず、前年度の活動実績で決まります。そのため指導員数を水増しする理由はわかりません」と、補助金狙いで指導員を増やす図式は成立しないと否定、新聞社にもそう答えたと話した。

新聞社は結局、問い合わせた内容に絡む記事を報じていない。

 だが問題は、山梨県食協からさらに下部組織に支給される補助金だと県食協関係者は証言した。

「例えば2023年度には当時5つあった各地区食協に計約400万円の補助金が県食協から入っており、他に県からの補助金もあります。

これら補助金の地区食協ごとの配分額は、所属の指導員数が反映されます。

各地区食協が受けた補助金の一部はさらにその下部組織の『支部』に分配されますが、ここでも支部の指導員の数が多いほど額は増えます。そして、ある地区食協では支部に補助金を配っても、領収証も使途の報告も求めてきませんでした」(山梨県食協関係者)

「東京の有名劇場で観劇をして表彰式を開きます」

食品衛生指導員が巡回指導を行なう報酬は微々たるものでボランティアに近いが、組織は補助金の恩恵を受けるのだとこの関係者は指摘する。

「地区食協は指導員の研修旅行も定例で開いてきました。旅費の一部は地区食協が出していましたが、これが研修かという内容もありました」(同関係者)

集英社オンラインは2015年11月にある地区食協が1泊2日で開催した研修旅行の日程表を入手。静岡県内でお茶工場の研修をした後、観光地を巡り、夕食時には「コンパニオン3名、カラオケ付」と書かれていた。

「おかしいことはほかにもあります。日食協は毎年、指導員を長年務めた功労者らを全国から東京の有名劇場に集めて表彰式を行い、観劇もします。

山梨からも毎年数人が選ばれますが、山梨では定められた講習はなく、現場での検査も行われてこなかった。表彰される人は指導員としての活動をしてきたとしても、そもそもの資格が問われかねないんです。このような体制が続いていいのでしょうか」(Aさん)

問題のある運用は果たして山梨県だけなのか。なり手不足も顕在化した現行の飲食店の衛生管理制度はこの先も続けていくことができるのだろうか。

改めて「食の安全」を考える時期がきているのではないか。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班                    

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