得をするのは事業者だけ? 現役世代も生活困窮者も得をしない「消費減税の正体」… 自民党が頑なに減税を拒否する本当の理由
得をするのは事業者だけ? 現役世代も生活困窮者も得をしない「消費減税の正体」… 自民党が頑なに減税を拒否する本当の理由

今夏の参院選の争点が「消費減税」になりそうだ。立憲民主党は1年限定で食料品のみ0%、国民民主党は時限的に一律5%引き下げ、日本維新の会は2年間0%にする案を主張している。

一方、自民党は引き下げに対して慎重な立場を堅持しており、党内でもくすぶる減税論を抑え込もうと必死だ。 

消費減税は財源論が先行しがちだが、そもそも減税の効果が見えづらいという最大の問題がある。 

付加価値税の引き下げで失敗したフランス 

消費税引き下げ議論の活発化は、国民に歓迎されているようだ。共同通信社が5月17日、18日に実施した全国電話世論調査では、消費税を「食料品のみ減税するべきだ」「すべて減税するべきだ」「廃止するべきだ」との回答は計73.2%にのぼっている。

一方、石破内閣の支持率は前回4月の調査から5.2ポイント減り、27.4%だった。発足以来、最低だった3月の27.6%をさらに下回っている。これは消費減税に踏み込まなかったことが背景にありそうだ。

野党の消費減税論に心を動かされている有権者は多い。しかし、重要なのは減税を何のために行なうかということであり、期待できるその効果を見定めることだ。現在は主に2つの視点で語られている。

立憲民主党の主張の背景にあるのは、「物価高に苦しむ国民を守るため」というものだ。立憲は食料品の消費税0%が実施されるまでの間は給付を行なうとの案も掲げている。

一方で、国民民主党の主張は景気対策の色合いが強い。

玉木雄一郎代表は5月17日、出席した党会合で連合神奈川の林克己会長から消費減税に懐疑的な意見を出されたことに対し、減税は内需刺激効果があると訴えている。玉木氏は、アメリカの自動車関税で輸出産業が打撃を受けることを見越し、経済を活性化させることが念頭にあるようだ。

物価高で疲弊した国民からすれば、減税で物価が下がり、内需が回復して手取りアップも望めるかのような言説には諸手を挙げて賛成したいはずだ。しかし、それほど単純にものごとが進むだろうか? 特に「国民の負担軽減という物価高対策」には疑問符がつく。海外の失敗例があるからだ。

フランスではリーマンショック時の景気後退により、深刻な外食控えが起こった。レストランへの呼び戻しを目的とし、フランス政府は2009年7月から12月までの限定措置として、付加価値税を19.6%から5.5%に引き下げた。しかし、税率が大幅に引き下げられても、価格転嫁率はわずか5.6%に留まったのだ。

その後、付加価値税は2012年1月に1.5%引き上げられた。すると、なんと当時の価格転嫁率は2.0倍になったのである。減税によって利益を得たのは消費者ではなく、事業者のほうだったというわけだ。

「物価が下がった」という幻想を持つだけになる可能性も 

これはレストランの例だが、スーパーなどの小売店も同じだろう。消費税を一時的にカットしたからといって、価格が確実に安くなるとは限らない。

さらにスーパーの店頭に並ぶような食料品は天候や輸送状況、調達価格、競合の動向などによって目まぐるしく価格が変化しており、価格の変化を消費者が把握し続けることなど不可能に近い。

例えば、消費税8%が課税されている時期に鶏のモモ肉が100グラム88円(税別)で売られていたとする。320グラムでパッケージされていれば、販売価格は304円(税込)だ。この鶏肉が消費税0%適用後に100グラム95円(税別)で販売されていれば、消費税がかからなくても320グラムの販売価格は304円(税別)である。

スーパーで買い物をしていて、この価格差を見分けられる末端の消費者がどれだけいるだろうか?

せいぜい、「304円で買えたこの鶏肉は8%の消費税がかかっていれば328円であり、20円以上安く買うことができたんだ」などと、お得に買えたという幻想を消費者が持つだけだ。負担軽減になどなっていない。

すでにスーパーは過度な値下げ戦略を改めており、安売りをするという意識が薄くなっている。背景には価格転嫁が進んで収益力が高まったことがあるだろう。2024年のスーパーの平均営業利益率は1.39%だった(「スーパーマーケット年次統計調査」)。前年から0.4%も向上している。水道光熱費、人件費が高騰したにもかかわらずだ。

インフレをバネに稼ぐ力を高めたスーパーが、鶏肉の例のように消費減税分の価格調整を行なうことも十分考えられるのではないか。

これは何も消費者を騙そうとするものではなく、値上げ余地を利用するのが「商売の鉄則」だからだ。

スーパーの値下げに対するインセンティブが弱まる中で、期間限定消費税0%の効果がどれだけあるのか疑問である。

景気刺激策の効果はどれほどか? 

それでは、国民民主が主張するような消費減税による内需刺激効果はあるのだろうか。

野村総合研究所は消費減税の景気効果を試算している(「自民党が消費税に関する勉強会:政府・自民党が消費税減税を見送る方針を固めたとの報道も」)。国民民主が掲げる5%の消費減税により、実質GDPを1.07%押し上げる効果があるという。

一定の効果はあるように見えるが、5%の引き下げで12兆円程度の税収減である。財政危機のリスクに見合う経済効果はないというのが、この中で導き出された結論だ。

国民民主代表の玉木氏は消費減税によって自動車の販売が好調になるかのような主張をしている。しかし、税率10%で330万円だった自動車が、減税措置で315万円に下がったからといって、本当に販売が促進されるだろうか。10%の税率が5%になると車の買い替えや新規購入需要が活発化するなどとは到底思えない。

自動車を購入する人の大部分は、必要に迫られるか、欲しいから買うという単純な動機に動かされている。消費税のようなわずかな金額のせいで買えなかったという人はほとんどいない。

自動車価格が予算を上回った人の多くは、オプション変更などによって価格調整を行なっているのだ。そして購入者の4割は自動車ローンを使っており、高額な金利を支払っても購入する決断をしている。

各党の主張は、まるで消費減税が国民のあらゆる悩みを解決する魔法の杖であるかのようなものだ。自民党の森山幹事長がポピュリズムとの批判をするのも納得ができる。自民党は責任政党としての使命を果たすべきだろう。

取材・文/不破聡  写真/shutterstock

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