〈中国人オーナーになって家賃爆上げのマンション〉エレベーターを停められ電話をすると「アルバイトなのでわかりません」オーナーはTVの直撃に「爆上げは普通のこと」…住民たちの闘い140日
〈中国人オーナーになって家賃爆上げのマンション〉エレベーターを停められ電話をすると「アルバイトなのでわかりません」オーナーはTVの直撃に「爆上げは普通のこと」…住民たちの闘い140日

中国系の合同会社がオーナー(所有者)になった途端、“家賃爆上げ”の通知が届いた東京・板橋区の7階建て賃貸マンションの住人たち。家賃の爆上げだけでなく民泊のヤミ営業などの“嫌がらせ”をしても出ていかない住民に対し、オーナーはエレベーター使用禁止の暴挙にでた。

今年3月、「集英社オンライン」がこの問題を報じ、その後テレビ各局がマンションの状況を続々と報じた。その反響の大きさからかオーナー側は家賃値上げの取り消しに至った。家賃爆上げの通知から4カ月半、住人たちの“闘い”をあらためて振り返る。 

住人たちがLINEのグループを立ち上げた 

今年1月23日に中国系の合同会社がオーナー(所有者)になった途端、突然家賃が3倍に爆上げするという通知が届いた板橋区内のマンションには、男女の単身者、夫婦、母娘など20世帯が入居している。10年、20年住んでいる住人もいたが、これまで交流はほとんどなかった。

家賃値上げの通知が投函された後、住人同士が廊下などで会えば、値上げへの対応などを話すようになったが、連携には至らなかった。

70代後半の女性は住人に声を掛け、連絡先を聞いて、輪を広げようとした。しかし多くの住人が日中は働いており、集まる機会がなかなか作れなかった。住人が連携できたのは、値上げ通知から3カ月半後、エレベーターが停止された時だった。

「LINEのグループを作る準備をしていましたが、住人全員の了解がなかなか取れませんでした。しかしエレベーターが停止されるに及んだため、見切り発車でLINEのグループを立ち上げたのです。それまで皆さん個々に動いていましたが、情報が回るようになり、色々なことが分かり始めました。

また、それまで名前も知らなかった住人同士が、下の名前で呼べるようになり、結束が高まりました。

LINEのグループは、引っ越しされた人も含めて14名になりました。もっと早く連携できていれば、引っ越してしまう方もいなかったかもしれないと思います」(50代の男性)

だが新たな問題が起きる。1月末、O社がマンションのオーナーになった時、前所有者の大手不動産系列の管理会社がマンション管理を続けたが、家賃の値上げ通知も民泊も何も認識できていなかった。

3月初旬、民泊にも関わったと見られる池袋のS商事が「貸主代理人」となったが、民泊の阻止と共に、再び、大手不動産系列の管理会社が管理に就いた。

だが5月の連休明けにはこの管理会社が消え、O社の自主管理の形となった。自主管理になると、マンションの廊下など共用部の清掃や、可燃・不燃などそれぞれの日のゴミ出しが行われなくなり、住人がやるしかなくなったのだ。

ベントレーに乗った“オーナー”との相対 

エレベーターが止まった3日後の5月16日、住人の引っ越しに際し、オーナー側と住人たちが相対した。

「引っ越し作業の時にエレベーターが動かなければ困るため、オーナーに電話しました。電話に出たのはタチバナを名乗る男性で、日本語がたどたどしく、『僕はアルバイトなので分かりません』と言い出す始末でしたが、ショートメールでやり取りして、引っ越しの日はエレベーターが動くという回答が来たのです」(30代の女性)

しかし当日、エレベーターの運転は再開されなかった。引っ越し業者は、急きょ、1人増員して4人体制で5階から階段を使って荷物を運び出した。

その間に再びオーナーに電話すると、また別の男が出て「タチバナは辞めた。立ち合いには行く」と言い出したが、誰が来るのか分からなかった。連携を果たしていた住人たちは立ち合いが来るのを待ち構えていたが、現れたのは2月に7階の女性住人に退去を迫った「中村」と名乗る男だった。

女性の住人が、何か起きた時の証拠とするためにカメラを回していた。中村が退去した部屋の立ち合いを行なう時、カメラを持って一緒に入ると、中村はカメラに気づいて「肖像権の侵害だ!」と大声で怒鳴り始めた。そして中村は110番通報するが、その時は「キョウ(姜)」を名乗ったという。中村も、そして住人達も警察署へ行ったが、中村は警察署でもギャーギャー喚いていたという。

70代後半の女性は「(中村は)ボロボロのTシャツでやってきて……」と漏らしたが、実は海外ブランドの高級品で1着2万円のTシャツだった。この時、マンションの近くに白色と金色の2台の英国製高級車ベントレーが停められ、辞めたはずのタチバナがウロウロしていた姿が目撃されている。1台は中村が、もう1台はタチバナが運転して来たものだった。

テレビ朝日が“事実上のオーナー”を直撃

6月に入ると、テレビ各局がこの問題を続々と報じ、反響が大きくなった。

「集英社オンラインが報じた時は、住人たちはバラバラで、事情もよく分からず、記事を見て、初めて知ったこともあったぐらいでした。住人でLINEのグループを作り、テレビや新聞にも働きかけようというコンセンサスができて、5月末までに、知っている限りのマスコミに情報を提供したのです」(50代の男性)

6月4日、また別の住人が引っ越す際には、退去の立ち合いに来る“オーナー”をテレビ各局が待ち構えた。

「来たのは中村でした。当初、7階の部屋を回ってオーナーを名乗っていた男ですが、テレビ局が直撃すると『私はオーナーじゃない』と言い出し、逃げ回った末にベントレーを置いて行ってしまったのです」(70代後半の女性)

テレビ朝日は中国に住む“事実上のオーナー”への取材に成功し、6月9日の日曜日、午後8時56分からの「有働Times」(テレビ朝日)で、その様子が放送された。

オーナーであるO社は、2人の中国人が代表として登記されていた。

住所を板橋区としている中国人は、テレビ朝日の取材に「私は名義を貸しているだけ」と答え、マンションを購入したことも知らず、事実上のオーナーは中国に住む中国人だと話した。

中国の遼寧省を住所とする“事実上のオーナー”は、テレビ朝日の取材に対し、香港などで不動産投資を行なっており、家賃の大幅値上げは「普通のこと」と答えたが、「反発が大きいと聞いたので、家賃の値上げはやめます、来週月曜日(9日)にも通知を出します」と話したのだ。

家賃値上げの取り消しへ

6月10日の朝、ほぼ1か月ぶりにエレベーターが動くようになっていた。各階のドアに貼られていた「使用停止のお知らせ」ははがされ、1階に貼られていた「関係者以外立ち入り禁止」の大きなステッカーは無造作に捨てられていた。

「深夜2時頃に人の声を聞いた住人がいますし、夜中にこっそりと来て、エレベーターを再開したのでしょう。建築基準法施行令では、有資格者がエレベーターの運転再開をできるとされているので、施行令に違反する行為だと思います」(50代の男性)

放送3日後の6月11日夕方、「家賃値上げ通知の取り消しについて」と題された1枚の書面が、郵便書留で各戸に配達された。

「オーナーはテレビ朝日の取材に、『住民と接触する機会があれば、大変申し訳ない、と伝えて下さい』と言っていました。しかし届いたのは書面1枚で、謝罪とはとても受け取れない文言でした。しかもO社の住所として記載されていたのは、移転前の住所。住人は皆、改めて怒り心頭に発しています」(50代の男性住人)

次は何が起きるのか…… 

中国人が代表を務めるO社がマンションのオーナーになって4 カ月半。何より、住人がオーナー側に連絡が取れないことが最大の問題だった。

O社は本社所在地を転々としており、しかも所在地はレンタルオフィスで電話番号もなかった。様々な通知に書かれた連絡先は携帯電話番号で、しかも番号が次から次へと替わった。

当初、7階の部屋を訪ねてきた“オーナー”は「中村」を名乗り、住民と相対して110番通報するなど、最も頻繁に出てきた男だ。中村は、渋谷区の美容品会社の社長も務めていることが分かった。「タチバナ」を名乗る若い男は「辞めた」と言われつつ、マンション周辺で目撃されている。ほかに「李」を名乗る人物が電話に出たこともあった。

本当のオーナーは住人の前に姿を現さず、中村とタチバナと李は、それが本名かどうかも分からないのだ。

マンションの住人は、改めて売却の経緯にも疑念を覚える。このマンションは、地元の信用金庫が長く所有していたが、昨年11月29日、大手不動産会社に売却された。しかしこの大手不動産会社は、1カ月も経たない年明け1月17日に、O社に転売してしまったのだ。

「このマンションの土地と建物の価格は、家賃収入を想定すれば3億円程度だと思いますが、O社は7~8億円出したとの話があります。大手不動産会社としては、それだけ出してくれればボロ儲けで、現金を積まれれば正体不明の会社にだって売る、ということなのでしょう」(不動産業者)

50代の男性住人はこう話す。

「これまで通り平穏無事に暮らしていきたい。私たちの望みは、ただそれだけなのです」

残って闘うことを決めた住人たちは、4カ月半かけて家賃値上げの取り消しを勝ち取った。

しかしO社がオーナーである限り、次に何が起きるか分からない状況でもある。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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