
梅雨シーズンに突入したのも束の間、全国では晴天が続き、連日30℃を超える真夏日が記録されている。そんななかで特に注意すべきは、命に関わる熱中症だ。
熱中症死亡者の約8割が65歳以上
梅雨入りしたばかりにもかかわらず、全国各地では真夏のような暑さと強い日差しが続いている。
気象庁によると、6月19日には今年最多となる全国592地点で、最高気温30℃以上の「真夏日」を観測。現在、沖縄を除く奄美・九州から北海道にかけて「高温に関する早期天候情報」が発表されており、6月25日頃からは「10年に1度」レベルの異常高温が予想されている。
すでに35℃を超える猛暑日も出ているなか、特に注意が必要なのが熱中症だ。炎天下での外出をなるべく控えるのはもちろん、自宅でも“室内熱中症”のリスクがあるため、エアコンの適切な使用やこまめな水分補給など、日常的な対策が欠かせない。
しかし、室内での対策が不十分なまま、高齢者が熱中症で亡くなるケースが後を絶たない。こうした現状について、厚生労働省の健康・生活衛生局健康課の担当者は次のように話す。
「熱中症は室内や夜間にも多く発生しています。令和3年夏、東京都23区で熱中症により亡くなった方の約8割が65歳以上の高齢者でした。さらに、そのうち屋内で亡くなった方の約9割は、エアコンを使用していなかったことが明らかになっています。
高齢者が熱中症になりやすい主な理由は3つあります。第一に、体内の水分量が若年層よりも少なく、尿を排出する際にも多くの水分を必要とするため、脱水になりやすいこと。第二に、加齢によって暑さへの感覚が鈍くなっていること。そして第三に、体温調節機能の低下により、体内に熱がこもりやすく、循環器系への負担が大きくなることです。
扇風機でもある程度は体温を下げられますが、猛暑日にはクーラーで室温を下げるのがもっとも効果的です。また、厚生労働省のホームページでは熱中症対策のリーフレットも公開しており、ご高齢の家族がいるご家庭では、それを使って対策を共有するのも有効です」(厚生労働省 健康・生活衛生局 健康課の担当者)
自宅でエアコンをつける? 高齢者のリアルな本音
このように厚生労働省も注意喚起を続けているが、果たして高齢者の耳には本当に届いているのだろうか。そこで、“おばあちゃんの原宿”とも呼ばれる東京・巣鴨にて、70代以上の高齢者(男女)を対象に街頭アンケートを実施。自宅でエアコンを利用しているのか、リアルな声を集めてみた。
まずは、「自宅でエアコンをつける派」の声だ。
「3年前の猛暑で倒れかけた経験があり、医師にも『夜の冷房は必要』と言われました。一人暮らしでまた体調を崩したら困るので、それ以来、夜間も冷房を使っています。設定温度は28度、3時間のタイマーをかけていますが、起きたらもう一度つけ直すこともあります」(70代・男性)
「眠る環境を快適に保つために、一晩中つけています。
「年齢的に暑さがこたえるようになってきて、エアコンなしでは寝られなくなりました。夜間に体調を崩すことが続き、娘にも強くすすめられて、3年ほど前から毎晩使っています。設定温度は29度、風向きを天井に向けて直接風が当たらないようにしています。扇風機も回していますね」(80代・男性)
続いて、「エアコンをつけない派」の意見はどうなのか。
「寝るときにクーラーは使っていません。夫も冷房が苦手なので、扇風機と氷枕、水分補給で乗り切っています。冷房は寒すぎるし、風が身体に当たる感じがどうしても苦手で……。暑くて目が覚めることもありますが、また眠れるのであまり気にしていません」(70代・女性)
「私はつけません。喉が乾燥しやすくなってしまうし、自然の風が好きなんです。日中はエアコンを使いますが、夜は窓を開けているので熱中症はあまり心配していません。
「夜に体が冷えすぎて、翌朝だるくなるのが嫌で、エアコンは使いません。扇風機はつけていますし、それで大丈夫だと思っています。夜中に何度か起きるのも、もう慣れました」(70代・女性)
「冷房をつけると寝つきが悪くなるんです。それに、電気代がもったいなくて……」(80代・女性)
高齢の親を持つ世代「聞き入れてくれない」
このように、自宅でエアコンを使わない高齢者はいまだ多く見受けられる。背景には体質や習慣、経済的な不安などさまざまな理由があるが、離れて暮らす家族にとっては、深刻な懸念材料だ。実際、そうした高齢の親を持つ30~40代からは、心配の声が数多く寄せられている。
「母(67歳)は冷え性で、夜は扇風機しか使っていません。寝るときにエアコンを使わないので、正直すごく心配です。電話で何度も『エアコンつけてね』って言っているんですが、聞き入れてくれなくて…」(30代・女性)
「父(70歳)は寝るときに絶対エアコンをつけません。頑固な性格で、『つけろ』って口酸っぱく言っているんですけど…。こっそり遠隔操作したいと思うくらい、すごく心配です」(30代・男性)
「母(69歳)は『扇風機を回しているから大丈夫』って言うんですけど、高齢者って自覚のないまま脱水になることがあるじゃないですか。本当に不安です」(40代・女性)
「うちの母(72歳)は、去年から使い始めました。
「私自身も電気代が気になってあまり使っていないのですが、離れて暮らす母(70歳)もエアコンはつけていません。母の世代は『エアコン=ぜいたく品』という意識が根強くて、説得するのがなかなか難しいですね」(40代・女性)
街頭インタビューを続けていると、約10年前に祖父を熱中症で亡くしたという40代の男性に出会った。「もっと強く言えばよかった」と語りながら、当時のエピソードを静かに振り返ってくれた。
「祖父が熱中症になったのは、30度を超えようかという8月の熱帯夜でした。部屋にはエアコンがあったのに、まったく使おうとしなかったんです。昔から『エアコンは身体によくない』と言っていて、夜もそのまま。家族は何度も『夜はつけたほうがいい』と伝えていたんですが、聞く耳を持ちませんでした。
祖父は家族と同居していましたが、誰が言っても『平気だ』の一点張りで。暑さに対する感覚も鈍っていたのか、『暑くない』ともよく言っていました。エアコンをつけないことで身体にどれだけ負担がかかっているか、自分ではまったく気づいていなかったと思います。
熱中症になった後、一人で歩けなくなるくらい衰弱して、うまく物が食べられなくなり、1か月後に誤嚥性肺炎で帰らぬ人となりました。
今思えば、もっと強く言っていればよかった。
今でも『エアコンは身体に悪い』と言って使わない高齢者は多いと思います。でも、今の夏は本当に危険です。エアコンを使わないほうが、むしろに身体に悪い。本人にも、そしてその周りの人にも、もっとその現実を伝えていくべきだと思います」(40代・男性)
すでに連日、強い日差しと厳しい暑さが続いており、今年の夏も昨年同様、過酷な暑さが予想される。エアコンの使用をためらう高齢者が身近にいる場合は、その危険性を軽視せず、日頃から根気強く伝えていきたいところだ。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班