学内に秘密の軍事研究施設? 葉加瀬太郎も探したことのある藝大、筑波大、学芸大学に伝わる“秘密の地下通路”の謎とは
学内に秘密の軍事研究施設? 葉加瀬太郎も探したことのある藝大、筑波大、学芸大学に伝わる“秘密の地下通路”の謎とは

「学校の怪談」といえば、小学校をイメージする人が多いのではないだろうか。だが、都市伝説の一ジャンルである学校怪談は、個性的な話が収集できる「大学怪談」もまたおもしろいと、怪談に造詣の深い吉田悠軌氏はいう。

そのいくつかを紹介する。

 

『よみがえる「学校の怪談」』より、一部抜粋・再構成してお届けする。

大学怪談には「秘密の地下」にまつわる伝説が多い

「学校の怪談」は大学怪談から始まった。だとすれば、近年における大学怪談の事例も無視すべきではないだろう。では、いくつかの具体的事例を挙げていくことにする。

筑波大学は、そこにまつわる怪談・都市伝説の多さで全国トップに挙がるだろう。

窓から空を眺めているように見えた女性が実は首を吊っていた……という「星を見る少女」。学生寮を走るマラソン選手の幽霊をゴールテープを使って成仏させる「ランニング幽霊」。もはや全国的に周知された定番怪談だが、これらの現場が同校の平砂学生宿舎であるとは、昔からよく言及されている。

また校内敷地ではないものの、「姉さんビル」も有名だ。大学近隣にある公務員官舎の壁のヒビが「姉さん」と読めるというもの。姉を慕う弟がその棟から飛び降り自殺した、または交通事故で激突したためにできたヒビで、いくら塗りなおしても消えないのだという噂が囁かれていた。該当するヒビ割れは実在していたが、90年代半ばの補修工事によってあっさり消えたようである。



これらは大学内の怪談という範囲を飛び越え、都市伝説として世間に広まりすぎてしまった。ほとんどの読者に知られた話ばかりだろうから、むしろ本章では扱い難い。

とはいえ「第四学群」の噂だけは紹介させてもらおう。筑波大学では2006年まで、第一~第三学群といった学問分野のグループ分けが行われていた。だが実は秘密の第四学群も存在し、その研究施設が地下に隠されているのだという。

第四学群では日夜、外部には公表できない軍事研究やバイオテクノロジー研究が積み重ねられているのだ。もちろん一般学生の立ち入りは禁じられているため、もし地下施設に入ったことが当局に知られればたちまち除籍処分となってしまう……といったものだ。

ちなみに「人面犬」が流行した時にも、人面犬とは第四学群での開発中に逃げた実験体だったとの噂まで語られた。

この噂について検証した『筑波大学新聞』2018年7月17日号を参照すると、「地下の巨大空間の噂のもとは、地下5メートルにある全長約14キロメートルの共同溝と考えられる」とのこと。

電気ガス水道などの配管を設置するスペースらしく、「約10年前に学生が共同溝に勝手に侵入した事例はあるが、厳重注意で除籍にはなっていない」そうだ。

ことほどさように、大学怪談には「秘密の地下」にまつわる伝説が多い。世間から隔絶した研究空間というイメージから、隠された地下のような幻想が託されやすいのだろう。

東京藝術大学在学中にも地下通路が…

東京藝術大学にも謎の地下通路についての噂が存在する。そして有名バイオリニストである葉加瀬太郎も在学中、その地下通路を探検したことがあるらしいのだ。

学友たちとこの噂を探っていた葉加瀬氏は、音楽科のとある建物から地下に通じるルートを発見した。その暗く狭い通路をおそるおそる進んでいくと、辿り着いた先は、突然の行き止まり。ただ奇妙なことに袋小路の壁には、神社にあるような、ずらりと幣束が付いたしめ縄が飾られていたのだという。

二十数年前、パーソナリティを務めるFMラジオで語ったエピソードらしい。私はそのラジオ番組を聴取したわけではないので、あくまでネット上の噂に過ぎないのかもしれない。とはいえ完全に創作されたネタとも思えない。

行き止まりの壁に掲げられた御幣というのが、なにやら伝奇ロマンめいた不気味さを感じさせる。

藝大は上野公園に隣接しており、江戸時代には寛永寺の敷地だった。江戸城の鬼門封じのため、天海が開山したという寛永寺。そうした土地の来歴にまつわる呪術めいた儀式が、藝大地下に存続していたとしたら興味深いのだが……。

先日、まったく別のラジオ番組にて、私と葉加瀬氏とが共演する機会があった。

思わぬ好機を生かそうと、葉加瀬氏に藝大地下の件について訊ねてみたのだが。

「そんなこともあったかなあ」と否定も肯定もされないまま、話題は終わってしまった。

学芸大の地下伝説

東京学芸大学の例も紹介しておこう。

同校は1964年に世田谷から現在の小金井市へと移転。敷地は戦前、「陸軍技術研究所」が設置されていた関係から、いまだ秘密の施設が残されているとの憶測が飛んでいる。

いや、ただの憶測と片付けてよいのかどうか。実際に私の元に、卒業生からの情報が投稿されてきたこともある。学芸大学出身の男性A氏が、先輩から聞いた話だという。
 
——90年代半ば、その先輩たちはとある噂を耳にした。サークル棟近くのマンホールが陸軍研究所時代の地下施設への入り口になっている、というものだ。

そこである夜、先輩たちはライトを持ち寄って潜入作戦を実行してみた。サークル棟入り口脇にある、少し不自然なマンホール。その蓋を開け、地下へと下りていく。



内部は下水道ではなく、建物の通路のようになっていた。古い鉄扉を開くと、その先には埃まみれの廊下が続いている。廊下は入り組んでおり、机や椅子の残骸だらけの小部屋がちらほらあったという。

地上の建物各棟の地下階へと入る扉もあったようだ。しかし地上と地下施設との構造は微妙に異なっていた。地上では接続していない各棟の地下部分が、通路で繋がっていたりもしたらしい。そんな探検を続けるうち、先輩たちは明らかにどの棟にも繋がらない方向、サークル棟の北側へ延びる通路を進んでいった。

それは学芸大学敷地から北大通りを越えた先、サレジオ学園および小中学校の敷地手前で行き止まりとなった。コンクリート壁の様子を見るに、おそらく戦後になって塗り固められたのだろう。

壁には「1988マイルスデイヴィス来日記念」など、過去に訪れたらしき学生たちの落書きが残されていた。

その通路はまだ先へと延びているはずだ。行き着く先は小金井公園ではないか……。
というのが、先輩の推察である。平成当時の明仁天皇(現上皇)が戦後に数年滞在された「御仮寓所」が設置されていたのが、まさに小金井公園だったからだ。

……というのが、A氏から聞いた先輩のエピソードである。ディテールが細かく、なかなか信憑性のある体験談に聞こえる。

私も2019年6月にこの投稿者A氏とともに、学芸大学構内を取材してみた。確かにキャンパス内のあちこちから、地下と繋がっている通風孔が出ているのが印象的だ。

また学生たちに聞き取り調査したところ、この噂がいまだ現役で囁かれていることも確認できた。「講義中の世間話として、色々な先生からよく聞いている」。古株の教授からは「都市伝説でもなんでもなく、陸軍の研究施設だったのだから地下通路があって当然だろう」とも言われているのだとか。

そんな地下通路への入り口とされる、サークル棟脇のマンホールを確認してみた。言われてみれば、確かに不自然な形状をしている。昔はもっと大きな穴だったがコンクリートを流しこみ、新たにマンホール孔を設置したような具合だ。

これが本当に地下施設への入り口なのかはともかく、噂の元となっているのは確かだ。

いくつもの状況証拠がそろった「学芸大の地下伝説」は、なかなか信憑性の高い大学怪談ではないだろうか。

文/吉田悠軌

よみがえる「学校の怪談」

吉田 悠軌
学内に秘密の軍事研究施設? 葉加瀬太郎も探したことのある藝大、筑波大、学芸大学に伝わる“秘密の地下通路”の謎とは
よみがえる「学校の怪談」
2025年7月4日発売1,540円(税込)新書判/256ページISBN: 978-4-08-788121-9

恐怖が生まれ増殖する場所は、いつも「学校」だった――。
繰り返しながら進化する「学校の怪談」をめぐる論考集。

90年代にシリーズの刊行が始まり、一躍ベストセラーとなった『学校の怪談』。
コミカライズやアニメ化、映画化を経て、無数の学校の怪談が社会へと広がっていった。
ブームから30年、その血脈は日本のホラーシーンにどのように受け継がれているのか。
学校は、子どもたちは、今どのように語りの場を形成しているのか。
教育学、民俗学、漫画、文芸……あらゆる視点から「学校の怪談」を再照射する一冊。 

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