
7月20日、投開票が行なわれた第27回参院選では、「日本人ファースト」を掲げた参政党が選挙区7、比例代表7で合計14議席を獲得した。非改選の1議席と合わせ、参議院で予算を伴わない法案の提出が可能となる11議席を突破する躍進を遂げた。
圧倒的なスピードで有権者の支持を取り付けた背景のひとつには、争点に「外国人問題」を掲げたことがある。一部メディアは差別的などと報じたが、こうした状況がむしろ参政党にとって有利な状況となった。躍進の背景には何が潜んでいるのか?
決め手に欠ける与野党を脇目に…
れいわ新選組の代表・山本太郎氏は公式チャンネルの「【生中継】参院選2025 れいわ新選組 開票特番!」の冒頭の挨拶で、「マスコミの選挙の争点の逸らし方がひどい」とし、「選挙で何が問われるべきかというときに、“外国人ガー”というもので席巻されてしまった」とメディアに対して批判的な態度を示した。
コロナ禍によって中小企業を取り巻く商環境が激変したことに加え、物価高に見舞われる今の日本において、「経済政策」以外が争点になったことを憂いての発言だ。
しかし、経済政策と物価高対策である「給付金」「減税」の対立軸を打ち出した与野党の議論が選挙期間中に深まらなかったのも事実だ。
帝国データバンクは選挙前に「物価高対策(現金給付・消費税減税)に関する企業アンケート」を行なっており、「日本経済にとって“より効果的”な物価高対策」という質問において、給付でも減税でもない「どちらともいえない」という回答は34.0%を占めていた。
企業の場合は商品・サービスへの支払額が減って消費拡大につながる可能性が高いため、減税効果がもたらす恩恵は大きい。それでも消費減税を支持するのは5割ほどであり、3割は決めかねていたのだ。
一方で、決断を下せない有権者の心をつかんだのが「日本人ファースト」を掲げた参政党だった。外国人総合政策庁を新設し、外国人による保険利用と生活保護支給の見直し、不動産購入の制限、不法滞在する移民の取り締まり強化などを掲げた。経済とは別のメッセージ性の強いテーマで攻め込んだのだ。
経済対策だけではない国民の不信感
選挙戦略として巧みとも言うべきか、選挙前はさまざまな場面で外国人問題が表面化していた。
5月19日の参院予算委員会では日本維新の会の柳ケ瀬裕文氏が、新宿区における外国人の国民健康保険の滞納率が56%にのぼることに言及している。一方で、日本人の滞納率は8%にも届いていない。
5月18日にはペルー国籍の男性による新名神高速道路での逆走車の映像が世間を賑わせた。さらに5月14日には中国籍の男性が小学生のひき逃げ事件を起こしている。これらの動画はニュースやSNSで繰り返し流れていた。
また、埼玉県川口市ではクルド人がゴミ出しのルールを守らないなどの迷惑行為が問題視され、住民との間で軋轢が生じていた。2024年9月には無免許で自動車を運転していたクルド人が、10代の男性2人を死傷させ、その場から逃走するという痛ましい事故も起こっている。任意保険による賠償が見込まれず、被害者側への謝罪もないという。
外国人富裕層が住宅価格をつり上げているという別の問題もある。23区内のタワーマンションは中古でも億を超えるようになったが、価格高騰の要因のひとつに挙げられているのが外国人による投機を目的とする購入だ。
こうした状況をふまえて、住環境に不安を感じる国民感情が透けて見える。参政党はそこに目を付けた。
ヨーロッパでは極右政党が拡大しているが…
政府は7月に入って矢継ぎ早に問題の解決策を打ち出した。
外国人による不動産の取得については、国民民主党が7月2日に追加公約を発表し、外国人による居住目的ではない投機目的の不動産取得に対して、追加の税負担を求める空室税の導入を掲げた。議論が活発化すれば、日本の緩い外国人の不動産購入規制が変化する可能性もある。
参政党がこうした世の流れにあったことは確かだ。
すでにヨーロッパでは、極右の排他的な政党の躍進は広がっているが、2025年2月に行なわれたドイツの総選挙では、極右政党の「ドイツのための選択肢(AfD)」が第2党となった。
この党はメルケル政権の移民政策やギリシャの救済措置に不満を抱く学者によって結成されており、移民・難民問題にスポットを当て、反イスラム主義で支持を拡大した。AfDはSNSを使って若年層の支持を取り付けているが、参政党と非常によく似ている。
れいわ新選組代表・山本太郎氏は、メディアが選挙の争点を外国人問題に転換したと批判したが、有権者の中に湧き上がる思いを、参政党が「日本人ファースト」というわかりやすいメッセージで言語化したという意味合いの方が大きいのではないか。
そもそも、参政党を支持する若年層の間ではマスメディアに対する不信感が根強い。TBSの「報道特集」が選挙前に特集企画「外国人政策も争点に急浮上~参院選総力取材」にて、参政党をネガティブに扱ったことで炎上したが、SNSではTBSの偏向報道だとのコメントが多く、結果として参政党の主張を際立たせる結果となった。
マスメディアが世論形成に力を持っていることは間違いない。しかし、今や若年層を巻き込むほどの力強さには欠けているのも事実だ。
再生の道の代表・石丸伸二氏は議席が獲得できなかった要因のひとつとして、地上波の党首討論に呼ばれなかったことを挙げたが、有権者の中で優先度が低いといわれる「教育」を最優先にしたことが主な敗因なのではないか。
選挙戦略においてはより多くの有権者に刺さる、わかりやすいテーマが必要なのだろう。
SNSに親しむ若者は、心の声や不満を代弁する力強いリーダーを求めていた。参政党の神谷宗幣代表は、「投票したい政党がない」という有権者の心を巧みにつかんだ。
選挙戦において党員の「核武装」発言など、多くの賛否を巻き起こし、今回の参院選の台風の目となった参政党。今後の国会での動向が注目される。
取材・文/不破聡