
大阪・関西万博を運営する日本国際博覧会協会は今月、来場客数2200万人が運営費の黒字ラインとの見通しを示した。開幕から78日目を迎えた6月29日に累計来場者数は1000万人を突破するなど客足は好調に見えるが、採算ラインを突破できるかは不透明だ。
ギネス記録認定の盆踊りも猛暑には勝てず…
万博協会がいう、運営費の採算ラインである2200万人の達成には通期で1日平均12万人のチケット来場者が必要だ。
7月20日から26日までの1週間で関係者を含む来場者数は99万8000人。チケット来場者数は87万人で、1日当たりの平均来場者数は12万5000人。黒字化に手が届くかどうかは予断を許さない状況だ。
ここまで順調に見えた来場者数だが、7月に入って日を重ねるにつれ、勢いを失いつつある。19日土曜日のチケット来場者数は13万8000人だったが、26日土曜日は12万6000人、と1万人以上減少した。
26日は来場者が盆踊りを一斉に踊り、参加者数と国籍数でギネス世界記録に挑む大がかりなイベントが行なわれた。
吉村洋文大阪府知事やタレントの宮川大輔さんが会場に駆けつけており、万博のオフィシャルテーマソングに合わせた盆踊りは見事ギネス世界記録に認定されたものの、来場者数は振るわなかった。
背景の一つにあるのが猛烈な暑さだ。26日当日は大阪市で35℃を超える猛暑に見舞われていた。
万博会場は日差しを遮るものが少なく、行き交う人は日傘に冷感タオル、携帯扇風機を持ち歩く人がほとんどだ。大屋根リングの下で休憩しようにも、疲れた表情を浮かべる人々でごった返している。
会場内には80台以上の無料給水器が設けられているが、そこにも長蛇の列ができている有様だ。運営側は給水ポイントを増やしているが、異常な暑さに追いついていない。自動販売機はキャッシュレスのみで、不便を感じている人も多いようだ。
ウェザーニュースは2025年の夏の暑さの見通しを発表しており、7月末から8月前半にかけての暑さのピークが予想されている。35℃を超える猛暑日が継続し、地域によっては40℃を超える酷暑日もあるという。
これは太平洋高気圧とチベット高気圧が同時に張り出す「ダブル高気圧」が日本を覆っていることが主要因だ。9月に入っても厳しい残暑が続くと見られているが、万博にとっては悪材料でしかない。
万博は本当に開幕前の“ネガティブムード”を吹き飛ばしたのか?
しかも、1日平均のチケット来場者数12万人というのは黒字化の採算ラインに乗るという目標の下限に過ぎない。万博協会は最終的な来場者数の目標を2820万人としている。開催期間の折り返しを過ぎた7月26日時点の累計来場者数は1366万人で、半分にも届いていない。
目標到達には、今後は1日平均18万人以上を集めなければならない計算だ。直近1週間の1日の平均は関係者を含めても14万人だった。
万博の公式ホームページには、「日本、大阪・関西で開催する万博の多彩な魅力」として、「約2兆円の経済波及効果が見込まれる」とある。
来場者の消費がおよそ1兆4000億円、運営・イベントが6800億円との見込みを出していた。この試算の前提条件にあったのが、想定来場者数2820万人というもの。この数字をクリアしなければ、万博開催の大義名分を失うことになるのではないか。
万博は1日当たりの来場者数が、「東京ディズニーランド」(TDL)を上回るペースになっていることでも話題になったが、経済産業省も、「TDL を遙かに上回る人員を動員しつつ、課題も機動的に解決されていることに敬意を表したい」とその功績をべた褒めしている。
来場者の満足度も高く、開催前のネガティブムードを払拭した実力は確かに優れたものだ。
しかし、7月26日時点で想定来場者数は半分にも届いていないのが事実であり、会期後半から終盤に最終的な目標達成に向けて、粛々と打ち手を繰り出すのが筋だろう。
なお、2005年の愛知万博は目標としていた1500万人を大幅に超過し、最終的に2200万人を突破した。運営費はおよそ600億円で、129億円ほどの黒字を出している。大阪万博の運営費は愛知万博の約2倍となる1160億円だ。
大屋根リングの8割は粉砕されて燃料に? SDGsとは…
来場者数以外にも課題は多い。万博の開催目的の一つに「持続可能な開発目標(SDGs)達成への貢献」が掲げられているが、大屋根リングの再利用計画は進んでいないのが実状だ。
部材の一部はモニュメントやベンチ、バス停、手すりなどとして再利用する案が出ていた。しかし、2万7000㎥のうち、確実に引き取りが見込めると判断した量は2200㎥であり、全体の8%程度に過ぎない。
現在の場所に一部を残すとしても、全体の8割は木材チップとして粉砕し、燃料として使われる可能性が高いという。なお、大屋根リングの建設には344億円が投じられた。
また、解体に必要な費用をどうするのかという問題もある。100㎥当たりの解体費用は1.1億円かかると見られており、ベンチなどとしての使用を想定しているのであれば、引き取り側が負担するのは現実的ではない。解体費用は会場建設費などで負担することになるのではないか。
海外パビリオンの工事代金が未払いになっていることも問題だ。一次請けが下請けに支払えず、連鎖的な未払い問題へと発展している。当事者間で解決すべき問題ではあるものの、万博が日本や関西経済の活性化を目指す中で、中小企業が未払い問題に巻き込まれて苦しむのでは本末転倒だ。
万博は本来のあるべき目標来場者数にスポットを当てつつ、目の前にある課題を一つ一つ丁寧に解決する努力を重ねる必要がある。
文/不破聡 撮影/集英社オンライン編集部