ただの乗り鉄じゃない…旅費だけで100万円以上かけて「北海道4000km」路線乗り継いだRTA走者が踏破して気づいたこと
ただの乗り鉄じゃない…旅費だけで100万円以上かけて「北海道4000km」路線乗り継いだRTA走者が踏破して気づいたこと

ゲームクリアまでの実時間の早さを競う遊び方の一つ、RTA(リアル・タイム・アタック)の大型イベント「RTA in Japan Summer 2025」が8月9日から15日まで開催されている。前回のイベントでは、とんでもないチャレンジャーが登場した。

 

それが「昭和58年に実在した北海道の国鉄路線4000kmを乗り潰す」という、知る人ぞ知るPC用ゲームを携えて参戦したバス運転士VTuber・常陸秋子さんだ。ゲームの世界を飛び出し、現実の北海道で「RTAしてみた」という常陸氏の挑戦は、鉄道を愛しすぎていた。

北海道にあった国鉄全路線の踏破が目的

RTA(リアル・タイム・アタック)というゲームの遊び方がある。ゲームをスタートしてからクリアするまで、実際に経過した時間を競い合う。

オンラインとオフラインのハイブリッドで行われるRTAイベントとしては国内最大級を誇る「RTA in Japan」。年代・ジャンル問わずさまざまなゲームのRTAが披露される。ときには「えっ、そんなゲームがあるの?」という発見もある。

バス運転士VTuber・常陸秋子氏による、「昭和58年に実在した北海道の国鉄路線に乗り続ける」というゲームのRTAもそのひとつ。そんな常陸さんに話を聞いた。

――常陸さんがRTAを行なった「新・北海道4000km」はどういうゲームなんですか?

常陸秋子さん(以下、同) 2021年に発売されたPC用のゲームで、昭和58年(1983年)夏の北海道を舞台に、当時の北海道にあった国鉄全路線の踏破を目的としています。長さにして、4000km。

――日本列島の全長(南北で約3000km)より長い距離じゃないですか。ただ乗るだけなのですか?

駅ごとに記念写真の撮影やスタンプラリーなどのミッションがあり、条件を達成して軍資金を稼ぎながら乗り潰していくことになります。

このゲームには健康度というパラメータがあるのですが、お金は乗車賃のほか、食事や宿泊をして健康度を維持するために使います。

もしお金が尽きて無賃乗車になった場合や、健康度がゼロになったらゲームオーバーになります。限られた予算でいかに効率よく北海道を回りきるかがカギのゲームです。

このゲームのすごいところは実際の時刻表をもとにしているところですね。どの時間の電車でどの方向に向かい、どうやって乗り換えするか。これを考えるのがもう楽しいわけです。

ちなみに有志が作った攻略本もあるのですが、よくあるゲームの攻略本のように各種テクニックや攻略法が書いてあるわけではなくて、大半が各駅の時刻表で占められています。攻略本というか、ただの時刻表ですね。

――なかなかマニアックなお話ですが、やはり昔から電車がお好きだったんですか?

そうですね。小さいころから電車に乗るのが好きでした。4~5歳のころには茨城の水戸駅から祖母の家の最寄り駅まで、電車で30~40分程度の道のりを一人旅していたそうです。

小学生になると、茨城から仙台や新潟に日帰りで行くこともありました。

当時は全然観光に興味がなくて、ひたすら電車に乗っているだけという感じでしたね。

いわゆる「乗り鉄(鉄道に乗ることを主な趣味とする鉄道ファンのこと)」にあたると思います。ただぼーっと、知らない景色が流れていくのを見るのが好きなんですよね。

――今はどのようなお仕事を?

地元で路線バスと高速バスの運転手をする傍ら、バス運転士VTuberとして活動しています。

――バス運転士VTuber?

週に1回程度、交通系ゲームを中心に配信をしています。北海道を舞台にしたシリーズが多いですが、鉄道関連のゲーム(運転・経営両方)や、GeoGuessrなど地理や旅行に関する作品も扱ってますね。

――本当に乗り物がお好きなんですね

そうですね。バス運転士になる前も運送に関わっており、なんだかんだずっとハンドルを握る仕事に就いてます(笑)

ゲーム時間の9割は時刻表とにらめっこ

――このRTAで大変なことって何ですか?

チャート(攻略手順)を考えることですね。手がかりは時刻表だけなのですが、どの駅に、何時の電車で向かうのか、それこそ無限の可能性があるので大変です。どのルートが最速なのか、いまだに解明されていませんからね。

「ここで乗り換えたら早いんじゃないか……」「ここ、普通列車が特急に追い越されているから待ちそう」など、RTAに費やす時間の9割は時刻表とにらめっこしています。

例えば、旭川を13時14分に出発する急行列車がありまして、一方で11時51分に出る普通列車を見ると遠軽駅で1時間も停車している。その間に急行が追い越していくので、旭川でグズグズしていても途中の遠軽駅で先に出発した列車に追いつけるな……みたいな。



――パズルみたいですね。

乗り継ぎが上手い具合に見つかると気持ちがいいですよ。1978年に刊行された宮脇俊三の『時刻表2万キロ』という本に乗り鉄のことが書かれているのですが、「時刻表を読むのが大好き」「効率がいいと気持ちがいい」「実際に試したくなる」というようなことが書いてあって、いつの時代も乗り鉄の考えは一緒なんだな、と感慨深くなったことがあります。

――タイムを縮めるために工夫されていることはありますか?

タイム短縮に直接つながったというわけではないのですが、当時の時刻表を手に入れるために千葉県の図書館に行ったことがあります。
乗り継ぎは閃きの勝負なので、なにがタイム短縮になるか分かりません。もしかしたら……という期待を込めて、まずは当時の全国版時刻表が収蔵されている千葉の図書館に行ったこともあります。

ただ、時刻表っていろいろ種類があって、書かれている駅の情報も微妙に違う場合があるんです。北海道には仮乗降場といって、駅に満たないただ乗り降りするだけの場所があるのですが、そのデータは全国版にはなく、道内時刻表にしかないんです。

――どうでした?

残念ながら、千葉の図書館で手に入れた資料は攻略本の時刻表とたいした違いがありませんでした。なので、道内時刻表や各種資料の収蔵されている北海道まで探しに行きました。

現地の図書館なら、ヒントになる資料が転がっているかな……と。まあ、結果は似たようなものでしたけどね。

旅費だけで100万円以上

――RTAしていて、リアルの生活に変化はありましたか?

変化というわけではないのですが、北海道に通うようになりました。毎年夏と冬、もう4年くらいになりますかね。ゲームに出てくる路線や駅へ、実際に行ってみたくて。
 

――どれくらい踏破されたんですか?

6月に行って、ようやく9割くらいは巡りました。いやー、長かったですね。たぶん旅費だけで100万円以上はかかっていると思います。とはいえ、廃線・廃駅になっている箇所も多いので、電車で行けないところは車なり徒歩なりで。

そういえば、2022年にはリアル「新・北海道4000km」にも挑戦したんですよ。現実世界でもRTAをやってみたんです。先ほどもお話ししたとおり、廃線も多いので全部が全部ゲームどおりにはいきませんが、それでも2000kmはありましたかね。

結局、7日間で全路線乗りきったのですが、やっぱり現実はゲームと違いますね。ゲームの電車は時刻表通りに来るのですが、そのときは電車が鹿を轢いてしまって遅れたり、最終日に寝坊して電車に乗り遅れるという特大のタイムロスをかましたり……。



宿に着くのが0時、6時に起床してすぐ始発に乗車というような旅程だったのが敗因かもしれません。

――現実の世界ならではですね。

あと、旅行に行くときについ駅舎の写真を撮ってしまう癖がつきました。ゲーム内だと、駅舎の写真やスタンプラリーがお金になるので必須行動となるのですが、そんなの関係がないリアルの旅行でも、やっておかないと落ち着かないんですよね。

取材・文/笠木渉太

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