
スマホやタブレットを子どもに長時間与えてしまいがちな夏休み。そこで気になるのが目への影響だ。
1日に2~3人はスマホ内斜視の患者が来院
文部科学省のGIGAスクール構想により、全国の小中学生に1人1台タブレットが支給されている昨今。学校の授業ではタブレットを使用し、自宅では親や自分のスマホを使って時間を潰す。子どもたちの目は大人並みに酷使されている。そんな現代において、新しい目の病が増加しているという。
「気をつけてほしいのが『スマホ内斜視』です。他の内斜視のように体質が原因ではなく、環境が発症のきっかけと考えられる後天的な斜視(後天性内斜視)のこと。スマホやタブレット、PCの画面を近距離で見続けることで寄り目にする筋肉のバランスが強くなり、その寄り目が戻らなくなってしまうのです。発症すると遠くが二重に見える特徴があります」(宇井牧子氏、以下同)
このスマホ内斜視。宇井氏のクリニックでも近年、患者数が増えているという。
「後天性内斜視はもともとまれな病気で、10年以上前は病院でも年間で1~2人診断する程度でした。しかしスマホが普及し始めた10年くらい前から患者数は年々増え続けており、今では1日に2~3人もスマホ内斜視の診断をしています」
患者数急増のきっかけはコロナ禍の影響も大きかったと続ける。
「特にコロナ禍以降、スマホを長時間見ることが習慣化されたのか患者数の増加率が倍増した感覚があります。もちろん小学生の患者数も増えてしまっています」
小学生のスマホ内斜視増加にはこんな背景も。
「やはりスマホなどのデジタル機器の影響もあり、小学生の近視が増えています。近視で遠くが見えないためどんどん近くで物を見るようになり、スマホ内斜視が進行するという悪循環も生まれているんです」
未就学児や産後の母親も要注意
小学生にスマホ内斜視が増えているということは、さらに幼い未就学児や赤ちゃんはどうなのだろうか? 育児中に手が離せない時、ついついスマホやタブレットで動画を見せてあやすこともあるだろう。
「赤ちゃんや未就学児の内斜視の場合、体質的なものなのかスマホが原因の後天的なものなのか判断が困難。従ってスマホ内斜視の診断はつけづらいんです。
しかも、未就学児のうちに内斜視になると片目を使わずにもう一方の目だけで物を見る癖がつくので『二重に物が見える』という症状自体も出ないんですよ」
ただし、だからといって未就学児や赤ちゃんならスマホを長時間見せても良い、ということではもちろんない。
「『二重に物が見える』という症状がでないからこそ、その訴えがないまま成長し、気がついたらスマホ内斜視になっていた、ということもあり得ます。
また、体質的な内斜視がスマホの見過ぎで加速することも。私のクリニックでも4歳児の患者様がスマホが原因で内斜視が進行した、というパターンがありました。
未就学児は視覚が急速に発達する時期。スマホやタブレットは与えないに越したことはありません」
気をつけなければならないのは、幼い子どもを育てる親も同様だ。
「意外と授乳中のママさんのスマホ内斜視も多いです。
遠くから我が子を見た時、目の焦点がズレていたら危険
では、親から見て子どものスマホ内斜視に気が付くポイントはどこだろうか。
「『授業中、先生が二重に見える』などの発言は症状が進行している可能性がかなり高いです。また、遠くから我が子を見た時に視線が定まっていないと感じたら要注意。
自撮りや近距離だと焦点が合うため気づきにくいので、遠くから見たり写真を撮ったりした時の視線に気をつけてください」
もしも我が子がスマホ内斜視だった場合、どのような治療があるのだろうか?
「発症初期であれば、スマホの利用制限で改善することもあります。ただ、スマホ内斜視の早期発見は難しいのも事実。発症初期は、物が二重に見えても、寝たら回復してしまうこともあります。そもそも近視の場合は常に遠くがボヤけており、二重に見えていることにも気づきにくいもの。
早期発見ができないと症状が固定してしまい、手術で治療するしかありません。12歳以降でしたらボトックスでの治療も可能です」
スマホの使用時間は、短ければ短いほど良い
ちなみに、「スマホ内斜視」という名の通り、画面が大きなタブレット端末やPCであったらそこまで神経質に気にしなくてもよいのだろうか。
「そんなことはありません! 『画面との距離が近いこと』が、スマホ内斜視が進行する原因なので、画面が大きかったとしても危険です。特に子どもは腕が短いので、どうしても画面との距離が近くなりがち。
また、子どもはピント調整力が優れているため『目が疲れる』という感覚を感じにくいんです。
では、スマホ内斜視にならないための、適切なスマホの使用方法とは?
「『30・30・30の法則』と言われており、デジタル機器を見る時は、画面を30cm離して、30分に1回、30秒屋外の遠くを見ることが推奨されています。ちなみに30cmは、大体A4サイズの縦の長さ。ノートやクリアファイルなどで示せば、子どもにもわかりやすいのではないでしょうか。
もちろん、スマホを見る時間は短ければ短いほど良いです。未就学児は、1日最大30分間。小学生はどんなに長くても1時間の使用に留めて。大人もせいぜい3時間が目安です」
今や育児に欠かせないアイテムになりつつあるスマホをはじめとしたデジタル機器。この夏は親子で使い方を見直してみよう。
取材・文/菱山恵巳子