<戦後最大の輸出事案>豪州版新型「もがみ」はどこまで“戦える”のか⁉ 日豪タッグで中国の南下を阻止へ
<戦後最大の輸出事案>豪州版新型「もがみ」はどこまで“戦える”のか⁉ 日豪タッグで中国の南下を阻止へ

海上自衛隊の護衛艦「FFM」(もがみ型)をベースとした艦艇を、オーストラリア政府が海軍の新型艦に導入すると発表した。日本側と共同開発・生産し、2029年の納入開始を見込む。

日本の大型装備品が輸出されるのは初めてで、武器輸出の是非も問われるが、日豪協力の背景には、海洋進出や強める中国への対抗がある。

初の大型装備品輸出

オーストラリア海軍が次期汎用フリゲートとして、三菱重工業が提案した護衛艦「もがみ能力向上型」を採用すると今月発表した。

日本が2015年に売り込みをかけ、安倍政権下で潜水艦「そうりゅう」が大本命と言われながらも、翌年、同国海軍に採用されたのはフランス製だった(航続距離などの作戦行動の点で最終的には米英の原潜に変更)。

その時の“商機”を逸してから約10年。日本の大型装備品が輸出されるのは初めてで、歴史的なマイルストーンである。

フリゲートとは、帆船時代からあった小型の艦のカテゴリー。第2次世界大戦までにはこのクラスがなくなり、戦後、英国で駆逐艦より小型で対潜能力などを持ち、航続距離がある多用途艦として復活した(我が国では戦前からこのような区分はなく、「駆逐艦」「巡洋艦」「空母」のように日本語化されないまま、戦後の自衛隊ではすべての艦艇が「護衛艦」と呼称するようになったため聞き慣れないジャンルだ)。

しかるに最近の世界の潮流ではフリゲートは大型化しており、駆逐艦どころか巡洋艦クラスのものもある。今回もライバル艦はドイツ、韓国、スペインなどが提案したフリゲートで、最後までドイツ艦と競り合った末、日本が勝利した。

軍事評論家の毒島刀也氏は次のように解説する。

「ドイツMEKO A-200、スペインAlfa3000、韓国・大邱級バッチII/IIIが候補に上がっていました。けれどもスペインと韓国はオーストラリアの要求(作戦期間、サポート)に合わないから最初に脱落。

前の艦の経験があるからドイツのサポートは安心できるものの、その代わり昨今のヨーロッパ造船では納期&品質が怪しいし、欧州製コンポーネントで組み上げた艦だとアメリカ製ミサイルのインテグレート(組み込み)に時間が掛かるのはわかっています。

その点、日本製は建造費は高いが、維持費は安い。装備、運用がアメリカ軍と親和性が高いから装備の変更が少ないし、また最初の3隻は日本で製造し、納期を守るということから採用に至ったわけです」

今回の計画では10年間で100億オーストラリアドル(日本円で約9600億円)をかけて11隻が建造される予定。前述のように最初の3番艦までは日本国内で建造され、1番艦は2029年に納入され30年に運用を開始する。

コンロイ豪国防産業相は「コスト、性能、納期の順守の面で『もがみ』型が明らかな勝者だった」と述べ、今後の両国関係のさらなる発展を願っている。

「もがみ能力向上型」の実力

では、どんな船が誕生するのか? 海自では現在の「もがみ」型(FFM)12隻に加え、「もがみ能力向上型」(新型FFM)は23隻建造予定。この工程の中からオーストラリア向けの艦を建造する。

今年5月、シンガポールで開かれた海軍装備の展示会「IMDEX Asia 2025」では世界中の海軍関係者の前で、各国のメーカーが実際の艦艇と艦載装備品を披露した。海上自衛隊も昨年就航したばかりの護衛艦「やはぎ」を寄港させ、「もがみ型」5番艦としてPR。

その現場を取材したカメラマンの布留川司氏がこうコメントする。

「『やはぎ』はレーダーに見えにくいステルス性を考慮して、全体がフラットな特徴的な外見をしています。その見た目から現地では注目を集めていたようですね。

また『やはぎ』は5500トンですが、『もがみ能力向上型』は排水量が増え約6200トン(満載時)となります。全長も133mから142mに拡大されるのでオーストラリア海軍のものもこれに準拠します。

兵装は新型になり従来の倍のMk41 VLS(縦型発射装置)32セルを搭載し、海上自衛隊では国産のミサイルを搭載予定ですが、コンロイ国防産業相はトマホーク巡航ミサイルの運用を示唆するコメントをしています。

推進・操艦はCODAG(ガスタービン+2基のディーゼル機関)方式で30ノット以上の高速航行が可能。航続距離は約1万海里(1海里は1.852km)となります。人員効率は高度な自動化により、必要乗員は約90名。豪海軍現行のアンザック級(約120名)より少なく、人員削減はあちらにとっても重要なポイントだといえます。

多目的性が重視され対潜・対空・対水上などオールラウンドに対応できる艦ですが、オーストラリアへの輸出では、相手国の独自の要件(通信・電子戦装備、異なる兵器への対応)への対応が焦点となっていくでしょう」

このように今回の日本の国産新型フリゲート輸出は、あくまでも「オーストラリアとの共同開発」という形をとっている点だ。

武器輸出の是非は

日本には1967年の佐藤内閣の国会答弁での原則「武器輸出三原則」があり、今まで共産圏諸国や紛争当事国などに武器(兵器)、製造技術、転用可能な物品の輸出は原則禁じられてきた。

時代は流れ、この「三原則」は、安全保障環境に適合させるべく第2次安倍政権の2014年に「防衛装備移転三原則」という名称に変わり、日本の安全保障に役立つ条件を満たせば、上記の当事国以外は輸出や共同開発を認めるようにした。

完成装備品は運用指針として「救難」「輸送」「警戒」「監視」「掃海」、および「共同開発」であれば輸出可能になったのである。今回のオーストラリアへ輸出する「もがみ能力向上型」はこの「共同開発」という範疇に入る。

ここで世界各国の防衛予算と武器輸出の関係を考えてみたい。

右肩上がりの世界の軍事費を比較すると、言うまでもなく米露中の軍事大国が1、2、3位を占めるが、日本は第10位の約553億ドル(日本円で約8兆7000億円)、同じような規模として第9位は約646億ドルのフランスだ。

興味深いのはそのフランスが、戦闘機や空母、潜水艦、ミサイルといった必要な武器システムを自国の防衛産業で開発・製造して生産能力を高め、国家として戦略的に自立していることだ。

そのために重要なのは外貨獲得であり、世界中に多角的にセールスをかけ武器輸出で年間受注額として約3兆円を稼いでいる。

同国のルコルニュ国防相は「フランスにとって武器輸出は、主権の前提条件で防衛産業や技術基盤を発展させ、防衛収支や雇用創出に不可欠だ」と言い切っている。

さらに仏防衛産業界にも「納税者の金を目当てにするな。リスクを取れ」と発破をかけている。これはマクロン大統領も同じ考えだ。

もちろんフランスのモデルケースがすべて我が国にあてはまるわけではないが、世界情勢が緊迫し、大国の「力こそ正義」と言わんばかりの“横暴さ”が世の中に蔓延している以上、我が国も自立していくために覚悟を持って今後の防衛指針を、外貨獲得も含め考慮しなければならないだろう。

対中国向けに日本のフリゲート導入か

今回のオーストラリアの日本のフリゲート導入の背景には、中国の海洋進出がどんどん南下し、かなりの脅威になっていることがある。

太平洋のソロモン諸島やパプアニューギニアなどの国々が親中派になり、オーストラリアの北側まで中国が進出し、次々と拠点をつくっている。

これは自国防衛のために東シナ海で中国と対峙する日本と置かれた状況は同じである。ここで日豪が強いタッグを組まないと太平洋で取り返しのつかない事態が生じるだろう。

皮肉なことに中国は研究に研究を重ね、日本の太平洋戦争から戦略を学んでいるとされる。だとすれば戦時中、ガダルカナル島をめぐるソロモン海戦で、かつては艦隊決戦を繰り広げた日vs豪(連合軍)が、今度は同盟国として同じ艦で構成された艦隊で、中国の南下を“阻止”するというのは歴史的に見ても因果を感じる。

今回のフリゲート輸出は単なる武器輸出ビジネスではなく、同じ価値観を持つ日豪の、互いの国家の自立をかけた戦略であることは間違いない。

文/世良光弘

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