
ソニー生命保険株式会社が全国の中高生1000人に対象に、「中高生が思い描く将来についての意識調査」を行なった。そのなかで、昨年まで「将来なりたい職業」で男子中学生の1位だった“YouTuberなどの動画投稿者”が3位に転落。
「あくまで見る物であってなる物ではないって思います」
ソニー生命が全国の中高生1000人に対して行なった「中高生が思い描く将来についての意識調査」によると、「将来なりたい職業」の質問では女子中学生で芸能人が1位を獲得するも、男子中高生、女子高生では公務員が1位となった。
しかし、昨年まで「将来なりたい職業」の質問で男子中学生の1位だった“YouTuberなどの動画投稿者”が9ポイント数字を落として14%となり、順位も3位に転落した。いったいなぜこのような結果になったのだろうか。
若者文化の発信地として人気の渋谷で若者100人に「職業:YouTuber」についての印象を聞いた。
20歳の男子大学生はYouTuberのイメージを次のように話す。
「YouTuberいいじゃないですか! だって“好きなことで、生きていく”職業ですよ(『好きなことで、生きていく』は2014年からYouTube Japan公式チャンネル内で放送された、日本のトップYouTuberたちが出演するCMで使われたキャッチフレーズ)!
好きなことをやって、いっぱい稼いでブランド物とか着たいですよ。なんでYouTuberになりたいと思う子どもが減ったのか気になりますよね。絶対楽しい仕事なのに」
27歳のカフェ店員の女性は『魅力的だからこそなりたいとは思わない』という。
「私は結構YouTuberの方を参考に服を選んだりメイクを勉強したりするのですが、そういう動画を見ていると『素敵だな』とか『いろいろ買えて羨ましいな』と思います。ですが、だからこそ自分がなれるとは思わないですね。
やっぱすごく可愛い方やスタイルがいい方も多いですし。
このように「YouTuberという職業を魅力的だと感じる」と答える若者がいるいっぽう、「魅力的ではない」という回答をする若者も。そこには一部のクリエイターに対する負のイメージと、自らを世界に公開することへのリスクがあるようだった。
別の20歳の男子大学生が冷静に分析する。
「シンプルに不祥事多くないですか? 裁判やったり不倫したり失言したり。それで炎上したらスーツで謝罪動画を出して活動休止して、ほとぼりが冷めたら戻ってくる。顔を出して活動していることをわきまえた方がいいと思う人が何人もいますよ」
見られる立場としての自覚が足りず、週刊誌などを騒がせていることに冷ややかな視線を送る彼は、今のYouTuber業界についても以下のように続ける。
「正直、今から有名になるって無理じゃないですか? YouTubeのトレンドも今では『〇〇してみた』というシンプルなものよりも、視聴者に受け入れられるような動画でないとバズるのは難しいと思います。
あとコンプラも厳しくなっていますよね。何か既存のYouTuberに比べて新しさがないと飽きられるでしょうし、新しく始めて成功を収めるのは難しいと思いますよ」
待ち合わせをしていた22歳の男子大学生も、同様の見解を示した。
「YouTubeで何かを検索すると、すでにそれについての専門チャンネルみたいなものが複数出てくるんですよ。ゲームも旅行もサッカーもラーメンも。どの分野にも有名な人がいるなかで、新たに何かを開拓することって相当難しいんじゃないですかね?」
若者の間でYouTuberというのはすでに新規参入が難しいレッドオーシャンという認識が広まっているのかもしれない。
参入ハードルが低いライブ配信に流行は移りつつある
「流行の最先端はショート動画とライブ配信ですよね」と27歳のマーケティング職の女性は語る。
「最近ではYouTubeの長尺動画よりも、ショート動画やライブ配信が流行っていますよね。TikTokやSHOWROOMなどのライブ配信アプリの流行で、一般人でも芸能人みたいな配信ができるようになっているように感じます。わざわざ企画をイチから考えるYouTuberと違って、『ダンスを覚えること』や『コスプレ衣装を買うこと』は簡単じゃないですか。
あと今はただ動画を出すという一方通行のコミュニケーションよりも、視聴者とコメントを通じて会話をするという双方向性のコミュニケーションが求められているように思うし、ライブ配信などの方がYouTuberより参入のハードルが低くなっているので、流行も移りつつあるのかもしれないですね」
しかし、ハードルの低さゆえの危険も存在すると女性は続ける。
「私の友人は会社に内緒で配信業をやっているのですが、変なコメントも多いと聞きますよ。高額の有料ギフトを送って来た方が配信を終えた後にDMで「(直接)会えないか」と送ってきたこともあるそうです。
ただ現在、毎月平均で20万円そこそこ配信だけで稼げているそうなので、変なリスナーにも我慢していると言っていました。でも、実際ライバーの方がリスナーに殺される事件も起きているじゃないですか。なので私としてはちょっと心配している部分もあります」
アパレルショップで働く24歳の女性も顔を出しての配信ということに危機感を覚えている。
「私の働いている店でもシーズンごとに新作が出ると、お客様に紹介するためにお店のアカウントでライブ配信をやるんです。女性向けのお店なんですが、他の店舗で以前そのライブに男性らしき名前のリスナーが『似合ってるね』とか『かわいい』みたいなコメントを飛ばしてくることがあったそうです。
本人は『配信者でもないのに変なファンがついたのかな』なんて気にも留めていない様子で言っていましたが、私は怖いなって思いましたよ。やっぱり一般人とはいえ、世間に顔をさらすことってリスクもあるなと」
そして、「YouTuberなどの動画投稿者」の代わりに男子中学生がなりたい職業の1位になったのは、公務員だ。25歳の男性は家族から以下のように言われたという。
「現在転職活動中なのですが、お盆に帰省した時に祖父から『公務員試験を受けろ』と何度も言われました。『カレンダー通りの休みで給料も安定しているし、普通に働いていたらクビになることもないから』って。両親も地元の市役所で働いているんですが、『安定してるしいいと思うけどね』と言っていました。両親や祖父母の世代には、公務員は給料面も労働時間も休暇も安定した素晴らしい仕事という認識が根強くあるんでしょうね」
自己発信のリスクと生活の安定性の観点から、今の社会で“好きなことで、生きていく”ことが難しくなっていることを子どもたちは敏感に感じとっているのかもしれない。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班