〈新種発表〉ダンゴムシかと思ったらヤツだった! Gが好きすぎる昆虫館若手研究者があらたなマルいGを発見! 
〈新種発表〉ダンゴムシかと思ったらヤツだった! Gが好きすぎる昆虫館若手研究者があらたなマルいGを発見! 

虫の中で一番嫌われていて、誰しもが煙たがる存在であるゴキブリ。夏に活動が活発化することで、水回りなどに黒い姿を見せることが当たり前になっている。

黒い姿は脂光りして、すばしっこいイメージがあるが、7月30日にダンゴムシのように丸くなるヒメマルゴキブリの1種が新種として発表された。発表した研究チームの一人はゴキブリが好きすぎる若手研究者、磐田市竜洋昆虫自然観察公園(静岡県)の柳澤静磨副館長(30)だ。さっそく話を聞いてみた。

ゴキブリ嫌いの世界観を変えた出会い

柳澤静磨副館長は「磐田市竜洋昆虫自然観察公園」で約100種類のゴキブリを飼育していて、その数は数万匹に上るという。

ゴキブリというと、台所やお手洗いに現れる体長4センチ程度のクロゴキブリを想像する人がほとんどだろう。自らを「ゴキブリスト」と名乗り、ゴキブリの魅力を伝える啓発・研究活動を行っている柳澤氏も、昔はクロゴキブリが大嫌いだったと話す。

「昆虫が好きで、昆虫館の職員になったほど虫が好きでした。ただ、ゴキブリはとても苦手でしたね。見たくもないし、もちろん触りたくもなかった。

昆虫館の職員になり、2017年に沖縄県の西表島(いりおもてじま)へ出張に行くことがありました。そこで今回新種として発表したヒメマルゴキブリと出会い、僕の世界観を変えてくれました。

彼らはダンゴムシのように丸くなるんですよね。ゴキブリって意外にも多様性があって、僕が知っているゴキブリだけではないんだと気づきました。

そこから、調べていったら面白くなってですね。気づいたらハマっていました」

柳澤氏の心をつかんだヒメマルゴキブリはダンゴムシのように丸くはなるものの、脚は6本で、ダンゴムシの14本と比べて少ない。体長は1センチ程度で、木の上に生息するという。鹿児島県から台湾にかけて生息している。

ヒメマルゴキブリはこれまで1種と思われていたものの、柳澤氏らの研究チームによって形態の比較とDNA解析を進めたところ、2種が混在していることが判明。

新たに見つかった種を「ペリスファエルス・ホライアヌス(学名)」と新種記載し、7月30日に発表した。和名はこれまで使用されていた「ヒメマルゴキブリ」を対応させている。

「まさかゴキブリを好きになったきっかけの種が実は未記載種で、新種として発表することになるとは思ってもみませんでした。

丸くなるのは主に防衛のためと考えられます。触角など噛みつかれやすい部分を全部隠すことができますから。襲われる相手として、例えば、アリ。実は、ゴキブリにとって恐ろしい相手なんですね。

アリはゴキブリの脚や触角を噛んで攻撃します」

ゴキブリは人間の生活を支えている?

ほかにもゴキブリの天敵は多いという。柳澤氏は「ゴキブリは色々な生物から襲われる存在。そのためゴキブリがいなくなれば、ゴキブリを利用して生きている生物たちに影響がある」と指摘する。

「よく見るクロゴキブリも他の昆虫やクモ、トカゲなどの爬虫(はちゅう)類などに襲われます。日本にいる最大のゴキブリである体長5センチのヤエヤママダラゴキブリですら、彼らに食べられているのをよく見ます。

ゴキブリの役割と言えば、他の生き物に食べられるほか、雑食性なことから『分解者』という役割を担っています。森のなかで落ち葉や動物のフンなどを食べ、そして分解することで、土に還します。いわば、森の新陳代謝機能として生態系を支えているのです。

そのため、ゴキブリは絶滅しろ!と言う人がいますが、彼らがいなくなるとさまざまな影響が出てしまい、人間も恐らく生きられないでしょう」

柳澤氏はゴキブリの役割について、「増えやすく雑食性なことから、さまざまな実験にも活用されている存在なんです」とも付け加えた。

意外にも我々の生活を支えてくれているゴキブリ。その生態やゴキブリの“面白さ”を解明すべく、柳澤氏は出張に出かけることも多々ある。

「もちろん研究室で机の上だけではわからないことがあるので、ゴキブリが数多く生息する南西諸島へ出張に行くこともしばしば。一週間かけて、たった1種の調査や採集を行うこともあります。

ちなみに日本においてゴキブリが一番多い島は、西表島です。日本には現在66種のゴキブリがいて、西表島にはその約半分の30種以上のゴキブリが生息しています。

研究は、色々な地域の人と組んで行なっています。今回のヒメマルゴキブリについては、台湾の方たちとの共同研究でした」

ゴキブリの魅力を知ってほしい 

今年でゴキブリの研究歴は8年になり、ゴキブリに関わる38本の論文や短報を発表してきた。執筆に携わった著書は9冊となる。柳澤氏は著書内でゴキブリの面白さをまとめるほか、都市伝説をいくつか否定してきた。

「1匹見つかると100匹いるとか、攻撃力が強い、人間に向かって飛んでくるとか、恐怖を助長する都市伝説が横行していますよね。

『1匹見つかると100匹いる』というのはそうとも限らないが結論で、ゴキブリがその家屋で繁殖しているのであれば100匹以上のケースもありますが、たまたま1匹だけ部屋に入ってきた可能性も十分にあります。

また、死ぬ直前に卵を産むことはありません。腹部の先端で保持していた卵が複数入った鞘(卵鞘)が腹部から外れたことで、そう見えたということだと思います。

またゴキブリは人間に襲い掛かってくることはありません。攻撃してくるは誤解です」

ゴキブリのイメージについて、「ゴキブリのことを知らず嫌いしている方が多いのではないか」と語る柳澤氏は、自らゴキブリ展を企画し開催している。

ゴキブリ展ではただ展示するだけではなく、48種のゴキブリから好きなゴキブリに投票できる「GKB48総選挙」のイベントを実施するなど、企画を通して魅力の発信に努めている。

ゴキブリは嫌われている昆虫ではあるが、嫌いゆえに興味を持っている方は多く、解説を行うと面白がってくれる方が多いという。「昆虫の入り口としてのゴキブリという存在に期待している」と柳澤氏は最後にそう語った。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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