
ネットニュースの見出しには「釣り見出し」と呼ばれる事実を誇張した見出しが並ぶことがある。だが共同通信社のWEB媒体「47NEWS」の部長を務める斉藤友彦氏は、自身の経験も交えて、釣り見出しでは読者の信用を得ることはできないと説く。
書籍『新聞記者がネット記事をバズらせるために考えたこと』より一部を抜粋・再構成し、ネットニュースの適切な見出しについて考察する。
「他人事」では読まれない
最初にZ世代に話を聞いた際、ニュースに興味がない理由として挙がっていたのが「自分には関係がないから」「人生にどう関わってくるのか分からないから」だった。つまり、「ニュースを他人事としか思えないから、見ない、読まない」と言い換えることができる。
共感とは、他人が経験したことを、まるで自分が経験したことであるかのように、あるいは自分の家族など近しい人が経験したことであるかのように感じられることである。であるなら、他人事ではなく、最近よく聞く言い回しの「自分事」の記事にできれば、もっとよく読まれるようになるのではないか。
この仮説、というか思いつきをもう少し掘り下げて考えてみた。
誰かが経験した出来事について読者に共感してもらうためには、それを追体験してもらえればいい。そのためには、登場人物がその出来事に行き着くまでの経緯をできるだけ詳しく、情景描写や気持ちを入れながら、しかも可能な限り分かりやすく、「読む」ストレスを感じさせることのないように書けばいい。
そしてその経緯を分かりやすくするには、時制を行ったり来たりさせることなく、できるだけ過去から現在へという流れで、つまり時系列で書いていけばいい。時系列で書いていくうちに、その記事の主要テーマにたどり着く。そこまでの展開は、分析時に分類した5要素のうちの一つ「ストーリー性」を意識すればいいのではないか。
新聞見出しからの脱却
記事の組み立てをどうすべきかは、大体見えてきた。ごく簡単に言えば「週刊誌+共感」であり、そのためには本文を説明文ではなくストーリーにすることだ。
ただ、本文以外にもう一つ考えなければならない点が残されている。見出しの付け方だ。PVという観点だけなら、デジタル記事では本文と同じぐらい大切かもしれない。「ネットで読まれるかどうかは見出し次第」と言い切ってしまう人もいる。
どう見出しを付けるべきか、プラットフォームに並ぶ記事を眺めてみる。まず気付くのが、PV数が多い記事には、大げさな見出しが付いていることが多い点だ。
扇情的だったり、おどろおどろしかったり、エロを連想させたり……見出しを眺めていると、傾向はなんとなく見えてくる。
たとえば、日本のスポーツ選手が海外で評価されていると、「絶賛」という見出しが付きやすい。だが、記事本文をよく読んでみても、多少褒められてはいても絶賛とはほど遠い。裏切られたような気持ちになるが、それでもこうした記事を出す側にとっては、本文に誘い込めた段階で、成功と考えているのだろう。
それでも、「褒められたこと」を「絶賛」と書くのであればまだましなのかもしれない。「SNSで称賛相次ぐ」というある記事には、カギカッコ付きで称賛が並んでいたものの、実際にSNSで検索をかけると賛否両論が入り交じっていた。
現実と記事、見出しがかけはなれており、記事の信用性そのものが疑わしくなる。それ以外にも、おどろおどろしい見出しと裏腹に本文は平凡という記事もある。本文との整合性が取れないこうした見出しは、「釣り見出し」と呼ばれている。
まねようと思えばある程度はまねられると思ったが、こんな形でPVを稼いでも、トータルではマイナスではないかと感じた。実際、私もあるメディアの釣り見出しを2回ほど、文字通り釣られてタップしたことがある。
本文を読んで「引っかかった」と思い、だまされたような感覚に陥った。その後は、見出しに惹かれてもそのメディアの名前があると、決して開かないようになった。
「釣り見出し」を付けるようなメディアは、1、2本の記事でPVを稼ぐことができたとしても、長い目で見れば信頼性、ブランドを損なうことにつながりかねないだろう。
12文字の限界
しかしだからといって、今のまま、新聞的な見出しのままでデジタルに出すのをよいとは思わない。
新聞の見出しは5W1Hの中から「何がニュースか」という視点で付けられている。さらに難しいのは、12字以内という短さで表現しなくてはならないことだ。大きなニュースであれば、12字の見出しを3行~4行付けることもある。
こう言うと、12×4=48字も見出しに使えると誤解されるかもしれないが、そういうことではない。
たとえば、共同通信が新聞用に配信した、ある記事の見出しを例に挙げてみる。
自民裏金39人処分 塩谷、世耕氏離党勧告 安倍派3人も党員資格停止 首相と二階氏は見送り(共同通信社、2024年4月4日配信)
4本の見出しすべてが12字以内になっている。助詞は一つか多くて二つ。ほかは句読点やカギカッコを使いがちになり、結果的に漢字が増える。
この見出しは、2024年4月5日の朝刊用に配信された記事のものだ。自民党の議員39人が裏金問題で処分されたことが最も大きなニュースだと判断され、1本目の見出しになっている。
この見出しだけでニュースの要点が一目で分かる。朝刊の1面トップに並べることが想定された、簡潔で美しい、新聞らしい見出しだとも思う。
ただ、この見出しでデジタルプラットフォームのニュースサイトに載せたら、果たしてどうだろうか。各新聞社・テレビ局が同じニュースを報じる中で、共同通信のこの見出しは読者に選ばれるだろうか。
直感的に、このままでは選ばれないと想像できる。
さらに、客観的な事実が端的に羅列されただけの見出しでは、多くの人が見にこない=PVが増えないことが、経験的に分かってきた。
見出しについても、新聞的な考えから脱却しなければ、デジタル記事は読まれない。記事が読まれなければ時間と手間をかけて取材した記者たちのモチベーションに関わる。
悩んだ挙げ句、「やりすぎない」範囲内で、少しでも多くの読者に届ける方法を模索することになった。PV至上主義ではなく、読者が興味を持ってくれるように工夫する、そのために絶対に釣り見出しにはせず、何について書かれた記事かを明示する、というあいまいな道を探し求めた。
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新聞記者がネット記事をバズらせるために考えたこと
斉藤 友彦
共同通信社が配信するウェブ「47NEWS」でオンライン記事を作成し、これまで300万以上のPVを数々叩き出してきた著者が、アナログの紙面とはまったく異なるデジタル時代の文章術を指南する。
これは報道記者だけではなく、オンラインで文章を発表するあらゆる書き手にとって有用なノウハウであり、記事事例をふんだんに使って解説する。
また、これまでの試行錯誤と結果を出していくプロセスを伝えながら、ネット時代における新聞をはじめとしたジャーナリズムの生き残り方までを考察していく一冊。
◆目次◆
第1章 新聞が「最も優れた書き方」と信じていた記者時代
第2章 新聞スタイルの限界
第3章 デジタル記事の書き方
第4章 説明文からストーリーへ――読者が変われば伝え方も変わる
第5章 メディア離れが進むと社会はどうなる?