“カンペの進次郎”でも安定飛行、重鎮たちからも手厚いバックアップ、持論は封印もこのまま論戦を乗り切れるか〈自民党総裁選〉
“カンペの進次郎”でも安定飛行、重鎮たちからも手厚いバックアップ、持論は封印もこのまま論戦を乗り切れるか〈自民党総裁選〉

“ポスト石破”の座を争う、自民党総裁選が9月22日に告示された。最有力候補の一人である小泉進次郎農相(44)は、幅広い支持を得るために、解雇規制の緩和や選択的夫婦別姓制度といった昨年の総裁選で訴えた持論を封印。

課題とされている論戦力を補うため、実力派議員による手厚いサポートを受け、“安定飛行”を目指している。 

ドン底に落ちていた自民党の党勢の回復に努めた人を参考に

「俺が俺がとか、自分が自分がというそういった総裁ではなく、自分の思いを抑えてでも党内の一致結束に汗をかく」

9月20日の立候補会見で、ネイビーブルーのネクタイ姿でこう語ったのは、小泉進次郎農相(44)。昨年の総裁選では、〈決着 新時代の扉をあける〉と書かれた青い看板をバックにしていたが、この日は凝った演出もなく、シンプルで地味な会見だった。

小泉氏は「自民党に足りなかったのは国民の声を聞く力」と語り、自民党が野党だった2009年から2012年にかけて総裁を務めた谷垣禎一氏に言及。そして、自民党が谷垣総裁のもとで2010年から取り組んだ「なまごえプロジェクト」を再始動させると語った。

小泉氏は会見前日に谷垣氏の自宅を訪れ、助言を受けていた。

なまごえプロジェクトは、総裁の全国行脚や、国会議員が少人数で有権者と車座になって議論する「ふるさと対話集会」を通じて、国民の生の声を取り入れて政策に生かす取り組みだ。

「谷垣さんは“総理になれなかった総裁”でしたが、ドン底に落ちていた自民党の党勢の回復に努めた人です。なまごえプロジェクトでは、党幹部が20~30人の集まりを何カ所も周り、それを何百回と繰り返した。非常に有効だったし、自民党が一丸となって取りくんだことで、団結力が生まれた。

安倍晋三元総理がいた頃は、何も言わなくても自民党が一つにまとまれたけど、いまは一体感が失われている。解党的出直しが求められている今だからこそ、谷垣さんの取り組みを参考にして、もう一度、国民の声を聞きながら、自民党の再生を図りたいというのが、小泉さんや我々の考えなのです」(小泉選対関係者)

小泉氏は、会見翌日から、さっそく「なまごえプロジェクト」をスタートさせている。

9月21日に、千葉県船橋市とさいたま市を訪問し、漁業関係者や党の支援者らとの車座対話を実施した。

党内の一致結束をテーマとする小泉氏は、政策面でも独自色を出さず、無難で地味なものにまとめた。持論である選択的夫婦別姓制度や、解雇規制の緩和なども“封印”している。

経済政策では「30年度までに平均賃金100万円増」を掲げているが、これもさきの参院選の自民党公約にならったものだった。

「会見では今までとは違った安定感を見せることができた」 

小泉氏は他の候補に比べ、論戦力や政策理解度に弱点があるとされるが、20日の記者会見では対策を講じ、たくさんの資料を用意した。質疑応答では、手元の資料に目を落とす場面が目立った。まるでカンニングペーパーを見ているような様子から、ネット上では「カンペの進次郎」と揶揄する声もあがった。

それでも、「会見では今までとは違った安定感を見せることができた」と手応えを語るのは、小泉選対のベテラン議員である。

「小泉氏も昨年と異なり、政策面も含めて一人ではできず、様々な力を借りないといけないということを実感している。若さを強調すると同時に、自分の足りないところは聞く耳を持って、先輩に補ってもらうという姿勢だ」

小泉氏を支えるメンバーも変わってきている。前回総裁選では小倉将信元子ども担当相や、村井秀樹前官房副長官、小林史明元デジタル担当副大臣など、40代の“チーム小泉”が中心だったが、「仲間内でやっている感じで、小泉氏が総理になった後の“組閣感”も上手くイメージできなかった」と小泉選対の自民党中堅議員は語る。

ただ、今回は経験豊富なベテラン議員らが、間近で支えるなど、重厚なサポート体制ができあがっているという。

「加藤勝信財務相の選対本部長就任はもちろんですが、政策通として知られる齋藤健前経産相や、岸田文雄前総理の側近として知られる木原誠二選対委員長という実力派議員が“家庭教師役”としてついているのが大きい。

小泉氏の後見人である菅義偉元総理も『進次郎を頼む』と周囲に頼んでいます。

野党人脈が豊富な“菅側近”の佐藤勉元国対委員長がサポートに回っているのも、連立枠組み拡大の議論が本格化する中で心強いでしょう。御法川信英前国対委員長代理や、古川禎久元法相らも、小泉氏と重鎮議員の連絡役を務めています」(前出・小泉陣営関係者)

昨年の総裁選の第一回目の投票は、高市氏181(議員票72、党員票109)、小泉氏136(議員票75、党員票61)という結果だった。党員票で高市氏に大きく水をあけられたのだ。

それでも、小泉選対関係者は「議員票は前回よりもさらに積み増せるだろう。党員票は読めないが、世論調査を見る限り、それほど悪くないだろう」と自信を見せる。

実際、日本テレビが9月19日から20日まで実施した、自民党員・党友と回答した人への電話調査では、小泉氏が32%とトップで、高市氏は2位で28%という結果だった。

とはいえ、昨年の総裁選でも、当初は本命視されていたものの、論戦が進むにつれて失速し、決選投票に残れなかった。果たして、自民党の再生のために持論を封印した小泉氏は、“カンペ”を駆使しながら論戦を無事乗り切れるのか。連日の公開討論会が勝負になりそうだ。

取材・文/河野嘉誠 集英社オンライン編集部ニュース班

編集部おすすめ