いまや日本人のワードローブに欠かせない存在となったユニクロだが、その裏には“服の買い方”そのものを変えさせる驚きの戦略があった。なぜユニクロはここまで広がったのか。
『贅沢と欲望の経営史 あなたはなぜ今日もスタバに行ってしまうのか』より一部抜粋、再構成してお届けする。
ユニクロという革命
ユニクロの創業者・柳井正が、家業の紳士服店を継いだ頃、日本では接客ありきの販売スタイルが主流でした。
欧米を旅したときに訪れた「誰でも自由に、気軽に入って買える店」に感銘を受けた柳井は「もっと自由に、まるで本屋やレコード屋みたいに、服を選べる店を作りたい」と考えました。
この思いを形にしたのが、1984年に広島にオープンしたユニクロ1号店です。その後は、郊外のロードサイドに次々と出店していきます。創業から1990年代にかけてのユニクロの具体的な戦略は以下の二つでした。
①ユニセックス&ノンエイジのベーシックデザイン
②圧倒的低価格
ユニクロの「広く」「安く」「自由に」という戦略は、当時の衣料品店の常識を覆しました。
通常のブランドは、ターゲットを絞って展開します。しかし、ユニクロは「誰でも着られる」「どこでも使える」ベーシックアイテムに特化しました。
これにより、性別や年齢を問わず幅広い層を取り込むことに成功しました。
第二に、圧倒的な低価格です。バブル期の「高く売る」戦略とは逆に、学生や主婦でも手に取りやすい「1000円・1900円」という価格帯に集中しました。
これが結果として「客数の爆発的増加」につながり、商品の回転率とキャッシュフローを高めていきました。
フリースの大ヒットと戦略転換
1998年にフリースという大ヒット商品を生み出したユニクロは次の段階に進みます。
「絞り込み戦略」と「郊外から都心への進出」です。
1990年代半ばまでのユニクロは多品種少量の品揃えを謳い、1シーズンに約400品ほど扱っていました。
しかし、商品数が多すぎて1点あたりの発注量が少なかったため、品数を絞り込んで大量生産・大量販売する「絞り込み戦略」に切り替えます。
400品から200品まで品数を絞り、その分一つひとつの商品の品質を高めました。品数を減らしたことでフリースの大量生産が可能になり、1900円という衝撃的低価格で高品質の商品を提供できるようになります。
同時に、従来の郊外店だけでなく都心進出にも乗り出します。
1998年には若者ファッションの中心地である原宿に出店し、「ユニクロ=安いだけの服」というイメージを「安くておしゃれで高品質」へと塗り替えました。
この時期のユニクロの宣伝は新聞チラシが中心でした。毎週金曜日に新聞に折り込まれるチラシは、ユニクロとお客さんとの重要なコミュニケーションとなりました。
「今週のお買い得はこれ!」というチラシを約52週、1年中欠かさず続けることで、お客さんとの信頼関係を築きました。
ユニクロの製販調整で最もユニークな点が、この「1年かけて計画して、週ごとに調整する」というサイクルです。
毎週金曜日の新聞折り込みチラシの反応を見て、値下げや増産の判断を行うのです。売れすぎたら増産、売れなければ値下げ、欠品しそうなら生産を止め、廃番とする。この週ごとの細やかな調整が、ユニクロの強さを支えています。
1998年のフリースブームの時点ではまだ「売れるものを大量に作る」というプッシュ型の側面が強く、需要予測が外れた際の在庫リスクも大きい状態でした。
2000年代初めには、フリースブーム後の在庫過多をきっかけに、経営の仕組み、特に製造・販売調整を根本から見直しました。
この時期のABC改革(All Better Change)の中心は製販調整で、本部が「週単位」で全店の売上速報を確認し、生産計画を柔軟に変更する仕組みを構築しました。
売れているものは即座に追加生産をかけ、売れていないものは早めに値下して売り切る方式です。
その結果、「売れ行きに合わせて作る」という、現代ユニクロのサプライチェーンの基礎が確立されました。
ユニクロはトレンドを追うのではなく、「いつでも、どこでも、誰でも」着られる服を、ベーシックアイテムに絞って展開しています。「高品質で安い」「着るパーツ」としての服を提供することがユニクロのミッションです。
このポリシーでアンダーウェアを展開したことで、日本人の日常に欠かせないブランドへと進化しました。
ほかにもユニクロにはいくつかのポリシーがあります。
まず、欠品を許さない。ユニクロの哲学の一つが、「必要なときにちゃんと在庫がある」ことです。
そのため、糸→生地→製品という3段階で発注を管理し、標準的な販売期間である1シーズン(12週間)の間に欠品しないよう徹底した在庫管理をしています。
もう一つユニークなのは、「持たざる経営」です。
ユニクロはサプライチェーンや物流も自社で抱えるのではなく、基本的にアウトソーシング(外部委託)しています。
生産はコストの低い海外(中国や東南アジア)に任せつつ、品質はしっかり管理します。この「持たざる経営」が、グローバル展開の原動力となっているのです。
ユニクロVS.ザラ
日本のポスト消費システムの進化形であるユニクロを、ヨーロッパ・ファッションの最先端であるザラと対比して考えてみましょう。
ザラが提供するのは、かつて富裕層だけが独占していた「時間の先行性」という贅沢です。
ザラの服は、それ自体が目的ではなく、パリコレなどのハイエンドな世界観(記号)へ参加するための「チケット」です。
最新の流行をわずか3週間で手に入れられることは、かつての上流階級が持っていた「情報の鮮度」を民主化したことを意味します。
ザラの顧客は店内で自分に合うスタイルを「発見」し、自らのセンスで編集します。
これは、ボードリヤールの言う「記号の操作」を楽しむ、能動的で知的な贅沢の形です。
それに対して、ユニクロが提供するのは、かつては高価だった「高品質なベーシック」を誰もが日常的に享受できるという「インフラとしての贅沢」です。
ユニクロは服を自己主張の道具(記号)ではなく、生活を支える高品質な「パーツ(部品)」と定義しました。
カシミヤや高品質なアンダーウェアなど、かつては贅沢品だった素材を「圧倒的低価格」で販売し、「生活の質(クオリティ・オブ・ライフ)の底上げ」という贅沢を提供したのです。
ザラが「飢餓感」を煽るのに対し、ユニクロは「いつでもそこにある」という安心感を提供します。
1シーズンにわたって欠品を許さない徹底した管理は、顧客の「必要なときに買える」という権利を守る、ある種の誠実な贅沢と言えます。
つまりザラは「情報の贅沢(トレンド)」を、ユニクロは「生存の贅沢(インフラ)」を、それぞれ大衆に解放しました。
ザラのファッションでは、トレンドを店側が提示するのに対し、ユニクロのファッションでは、店側が提供する素材をユーザー自身が使いこなすことが可能であり、また必要なのです。
文/坂出 健
『贅沢と欲望の経営史 あなたはなぜ今日もスタバに行ってしまうのか』 (光文社新書)
坂出 健

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