「あなたの知らない世界」は、今や絶滅した夏の風物詩の筆頭である。
日本テレビ系の正午のワイドショー枠で、1973年から1997年まで四半世紀もの間、夏休みの子どもたちを恐怖のどん底に突き落とした心霊企画だ。


怖い! けど目が離せない……結局見てしまって、布団に入るころ激しく後悔……。そんな思いをした方は多いはず。もちろん、筆者もその一人である。

タブーを覆して大ヒット! 80年代のワイドショーは心霊企画一色?


「あなたの知らない世界」は、1973年夏に日本テレビ系『お昼のワイドショー』の単発の納涼企画として放送されたのが原点となる。

もっとも、当時は心霊企画自体が前代未聞。歌舞伎などの伝統芸能の世界では、幽霊ネタの演目の際にはお祓いが欠かせないわけで、取り扱い自体がアンタッチャブルなテーマである。そんな内容のものが公共の電波で全国に発信される。
しかも、真っ昼間の放送だ。局内でも反発の声は大きかったと言う。

しかし、放送を見た視聴者からは大反響。毎年、お盆時期の特別企画となり、79年からはついに毎週木曜日のレギュラーコーナーに昇格した。
この成功に他局も追随。80年代は、昼下がりの時間帯がワイドショーだらけだったが、夏場は各局がこぞって心霊企画を特集していたんだから、凄い時代である。


ちなみに、筆者の住む静岡県では午後2時には静岡第一テレビ(日本テレビ系列)で『2時のワイドショー』、SBS(TBS系列)で『ワイドYOU』を放送していたが、心霊写真に肯定的な前者と否定的な後者の対比も面白く、ザッピングして楽しんでいたものだ。(ビクビクおびえながら)

後味が悪すぎる恐怖の再現ドラマ


87年に番組は『午後は〇〇おもいッきりテレビ』に変わるが、そこでも引き続き、コーナーは継続。ちなみに、当初の司会は山本コータローだったが、参院選出馬に伴い89年4月からみのもんたにバトンタッチしている。
明るく軽快な番組テーマ曲が終わると同時に始まる、恐怖の世界。暗闇に浮かぶ無数のロウソク、行灯、さらにショッキングなダイジェスト映像が流れるのだが、何よりナレーションが怖すぎる。

「この世に地獄があればこそ あの世にも地獄が続く… 生と死の二つの世界を人の心は繋いで行く… 人は死んでも人の怨みや呪い 悲しみは決して消えることはない 死んだ者たちがよみがえる時 あなたは本当の人の世を知ることができる それが…あなたの知らない世界…」

「本当の人の世」知りたくないって!
視聴者から寄せられた心霊体験を10分程度の再現ドラマ化する形式だったが、これがまたおどろおどろしくて怖い作り。
あくまで視聴者の体験に基づいている(作りの)ため、怪奇現象が何だったのか解決しないことが基本。
後味の悪さがまた怖いのだ。
友だちや家族が死亡したり、行方不明のままだったりと、救いのないオチがあるのも恐怖。霊体験により気がふれたままや、現在も入院中など、とにかく心霊現象の殺傷能力が高すぎであった。

解説の説得力がさらなる恐怖を演出!


恐怖の再現ドラマに妙な説得力を与えたのが、心霊研究家の新倉イワオ氏の解説。
真面目な老紳士といった風貌の新倉氏が、不可思議な現象の数々を前世の因縁やら、土地の祟りやらを絡めて淡々と解説。供養の仕方や霊障の払い方までマルチに対応してくれていた。

実はこのコーナーの企画者であり、放送作家でもある。
日本の心霊企画のパイオニアなのだ。
あの『笑点』にも参加し、大喜利の問題も作成していたと言う。
人を怖がらせることも、人を楽しませることも、エンターテインメントとしては地続きということだろうか?

時代に合わせて心霊現象も変化!?


うっすらと残る記憶では、80年代の再現ドラマでは、霊はただそこにいるだけ的な感じが多かったのに、90年代になると、アグレッシブに体験者を追い掛け回していた印象。
視聴者を驚かす演出には磨きが掛かったが、80年代の方が恐怖映像の生々しさがあった気がする。単に自分が大人になってしまっただけかも知れないが……。

筆者の記憶に刻まれているのは、「蛇神様」の祟りで家族が次々と死亡する話と、恐山に行った父親が悪霊にとり憑かれてしまい、夜な夜なお歯黒を塗っては不気味に笑うといった話。

以来、蛇とお歯黒は恐怖の対象である……。

従来の創作系怪談に対し、実話系怪談として新ジャンルを開拓。90年代以降の「Jホラー」ブームにも影響を与えている「あなたの知らない世界」。
生活情報番組の中で心霊現象を全面的に肯定することは、現代のコンプライアンス的には到底不可能。お盆シーズンの集中放送だったが、「あなたの知らない世界」放送時は司会のみのもんたが普通にお盆休みを取っていたのも今では考えられないのである。

※文中の画像はamazonより恐怖!!あなたの知らない世界