1999年、ひとりの女子高生シンガーがデビューした。小柳ゆきだ。

そのパワフルな歌声からは想像しにくいが、『あなたのキスを数えましょう ~You were mine~』でデビューしたとき小柳ゆきは17歳、埼玉県立上尾高校の3年生だった。

埼玉県中東部、畑も残る上尾市の高校に通う女の子が、日本のトップシンガーとして舞台に立つ姿は衝撃的だった。2000年前後の小柳ゆきの活躍を振り返る。

圧倒的歌唱力でトップシンガーに


小柳のデビュー曲『あなたのキスを数えましょう』は、アニメ『アレクサンダー戦記』主題歌(WOWOW)・バラエティー番組『ヤミツキ』エンディングテーマ(日本テレビ系)・スポーツブランド「キスマーク」CMソングという3つのタイアップを獲得した曲だった。

アニメ・バラエティ・スポーツという異なる視聴者層にアピールできたこともあり、『あなたのキスを数えましょう』は45週連続チャートインという大ヒットを記録する。小柳の17歳とは思えない歌唱力は、老若男女を問わず幅広い支持を得ていった。

その後、『愛情/can't hold me back』『be alive』『remain~心の鍵』など、小柳の出す曲はランキング上位を獲得していく。
小柳は、2000年~2003年にかけてNHK『紅白歌合戦』に3年連続出場という快挙も果たす。
まさに2000年代前半の日本の音楽シーンを代表するミュージシャンのひとりだった。

小柳ゆき、「ブラザー・トムの娘」説


小柳が活躍していく中で、ひとつの都市伝説も生まれた。「小柳ゆきはブラザー・トムの娘」というウワサ話だ。
一見、何の根拠もないように思えるが、考えれば考えるほどよくできた話なのである。トムと小柳には親子と思える共通点が非常に多い。

1、ブラザー・トムは、80年代前半に小柳トムという芸名でお笑い芸人をしていたという点(本名は小柳富)
2、ブラザー・トムも小柳ゆきも埼玉県出身という点。

3、 ブラザー・トムが、「バブルガム・ブラザーズ」というユニットで、R&Bやソウルを取り入れた楽曲を発表していた点。
4、26歳という年齢差。
5、ハーフ顔。


状況証拠が出そろった感があるが、結論からいうとこの話はデマだった。出所不明の、誰が言い出したのかもわからない作り話である。しかし、その伝わり方はかなり広範囲に及んだ。


異常な広まりを見せた小柳ゆきの都市伝説


以前から、日本全国に広まった都市伝説はいくつもあった。しかし「口裂け女」にしろ「人面魚」にしろ、テレビやラジオといったメディアで取り上げられて拡散した側面が大きい。
だが、「小柳ゆき、ブラザー・トムの娘説」は間違った個人情報であり、メディアが取り上げることはありえない。つまり純粋な口コミだけで全国規模に発展したのだ。

当時、私自身も東京と大阪でまったく別の人から同じ話を聞いたことがあった。SNSなどない時代、メディアも使わずに広まった最大級の都市伝説といえるかもしれない。

ちなみに小柳ゆき本人はブラザー・トムとラジオ共演した際、ツイッターで「親子共演、楽しんでもらえましたか?笑」とツイートするなど、今では自らネタにしている。


現在は『ヒルナンデス!』などにも出演


小柳は現在、コンサートやラジオDJなどミュージシャンとしての活動のほか、『ヒルナンデス!』(日本テレビ系)のファッションコーナーや、『学び舎の歌声』(三重テレビ)などのテレビ番組にもに出演している。

『ヒルナンデス!』に出演した小柳は、ヒット曲を量産していた当時と変わらずスリムな体形でかっこよく、トークの内容からは人の好さがにじみ出ていた。
『ヒルナンデス!』の視聴者には、小柳のヒット曲を青春時代に聞いていた主婦層も多く、これからはお昼の情報番組などにも活躍の場が広がっていくかもしれない。

※文中の画像はamazonよりあなたのキスを数えましょう 〜You were mine〜