2002年に公開された『くたばれ!ハリウッド』という映画をご存知でしょうか。

これは、1970年代に活躍した伝説的映画プロデューサー「ロバート・エヴァンス」について扱ったドキュメンタリーです。

同作を観賞して思い知らされるのが、映画プロデューサーという仕事の大変さ。多大なプレッシャーに晒されながら、一癖も二癖もある監督や役者たちと渡り合っていくなど、普通の神経ではできません。

ゆえにエヴァンス自身も、かなりぶっとんだ人となっています。一言でいえば剛腕。そのため軋轢を生むことなど日常茶飯事です。けれども、強烈なパーソナリティーによって、彼が成功者になれたことは疑いようもない事実。

それはかつて、松竹で辣腕を振るっていた映画プロデューサー・奥山和由(おくやまかずよし)氏にも、同じことが言えるのかも知れません。

35歳で取締役に就任した奥山和由


アメリカ型プロデューサー……。奥山和由は常にそういわれ続けました。

奥山は20代の頃から松竹のプロデューサーとして頭角を現し、35歳で早くも取締役に就任した人物です。北野武(その男、凶暴につき)、竹中直人(無能の人)、秋元康(グッバイママ)など有力新人監督を次々とデビューさせたり、当時としては画期的だった「映画投資ファンド」なるシステムを立ち上げたりしたことで、映画界の寵児としてもてはやされていました。

江戸川乱歩原作の短編をベースにした映画『RAMPO』


そんなノリにノっていた奥山のプロデュースのもと、1994年に公開された映画が『RAMPO』です。
映画生誕100年・江戸川乱歩生誕100周年・松竹創業100周年記念作品と、さまざまなアニバーサリーにひっかけて製作された同作は、江戸川乱歩原作の短編『お勢登場』『化人幻戯』などをベースにしたミステリー。

探偵小説家・江戸川乱歩(竹中直人)が夫殺しの嫌疑をかけられている女性・静子(羽田美智子)に興味を抱き、自分の分身・明智小五郎(本木雅弘)を小説に登場させて彼女を助けようとするという、現実と空想が交錯する幻想的なストーリーとなっています。


2人の監督による別バージョンの同時公開


監督をつとめたのは、NHKの演出家・黛りんたろう。ところが、大衆娯楽作品を志向する奥山には、彼の作った作品が少々マニアックに映ったようで撮り直しを要求。黛がこれを拒否したため、奥山自らがメガホンを取ることになりました。

かくして、黛バージョンの実に70%を撮り直した奥山版『RAMPO』が完成し、「2人の監督による別バージョンの同時公開」という空前絶後の事態へと発展するのでした。

ちなみに奥山バージョンは、本筋と関係のない著名人を多数追加出演させたり、英語のナレーションを入れたりと、よりエンタテイメント性の高い内容となっています。特にすごかったのが、フェロモン入りの香水を劇場に散布するサービス。
何でも、「観客にセクシーな気分を味わってもらいたい」との意図で実施されたらしく、後に発売されたVHS版にもフェロモングランスが香るシールを封入するという徹底ぶりでした。


松竹を解任に……


結果として、2つの『RAMPO』は、配給収入12億円とまずまずのヒットを記録。90年代の松竹を代表する映画として『REX 恐竜物語』や『遠き落日』などと共に語り継がれていくはずでした。

しかし1998年1月19日、松竹は取締役会を開き、長らく経営の実権を握っていた奥山和由、そしてその実父で社長の奥山融の解任を発表。
この解任以降、『RAMPO』は松竹系の映画館で上映されなくなり、他の奥山作品もほとんどお蔵入り状態になったというから、もったいないことこの上ありません。

しかし、奥山版『RAMPO』のDVDは奇跡的にリリースされているので、気になる方は観てみるといいでしょう。93分の本編映像を通して、敏腕プロデューサーとして鳴らしていた氏のイズムが存分に堪能できるはずです。

(こじへい)