映画を楽しむ選択肢がこんなにも多様化している時代に、まったく追いついていけない筆者。
「Netflix」「U-NEXT」「Hulu」「dTV」などなど、映画を観るのは動画配信サービスが当たり前となってきているそうだが、まだどれも使ったことがない。
観たい映画を自由に気軽に、しかも安価の定額制で楽しめると知って驚いたばかりだ。
TSUTAYA等の大型レンタルショップも、今やオンラインサービスが大充実しているとか。

そんな中、未だBSの映画をありがたがっているんだから、感覚的には20世紀で止まってしまっているのだろうか……。
しかし、「テレビで観る映画」が好きなのだから仕方がない。特に、今ではなくなってしまった「映画解説者がいたテレビ映画の番組」が大好きだった。

名解説者たちが彩る週末のテレビ映画番組たち


00年代まではテレビ映画は花形コンテンツだった。週末の午後9時からの2時間はテレビ映画の時間帯。
それを彩ったのが名物解説者たちだ。
日本テレビ系『金曜ロードショー』の水野晴郎、フジテレビ系『ゴールデン洋画劇場』の高島忠夫、テレビ朝日系『日曜洋画劇場』の淀川長治。豊富な知識と映画愛に裏打ちされた彼らの名解説、名調子が映画のワクワク感を一層高めたものである。
懐かしいあの頃……映画解説者がいたテレビ映画の時代
水野晴郎(※写真はAmazonより)

水野晴郎の笑顔がまぶしい『金曜ロードショー』


まずは、『金曜ロードショー』の「いやぁ~映画ってのは本当(ほんっとう)にいいもんですね」の名セリフでお馴染み水野氏。
『水曜ロードショー』時代だった72年10月から97年3月まで、延べ24年半に渡って解説を務めている。
「ご機嫌いかがですか?水野晴郎です」と、福福しい笑顔で登場する水野氏。豊富な知識を早口で畳み掛けるスタイルであり、駄作やB級作品の紹介時には、さらっと過去の関連作品の話題にシフトするなど、その話芸は天下一品だった。


映画後の締めのコーナーでは、「水野晴郎の映画がいっぱい」なんてコーナーもあったが、オンエア予定の大作映画の先出し紹介が基本。要は番宣である。
しかし、たまに水野氏が大好きなアメリカンポリスの紹介をすることがあり、映画解説以上にテンション高めで満面の笑みだったのが印象深い。

90年代は『新・刑事コロンボ』シリーズの登場率が高く、毎年『あぶない刑事』(初期3部作)が放送されるのがお約束。オープニング映像の夕焼け輝くヨットハーバー、そこに被さる哀愁漂うBGMに涙するのもお約束である。
ちなみに、水野氏が最後に解説を務めたのが『Shall we ダンス?』。
27.4%の高視聴率で番組を締めくくっている。
懐かしいあの頃……映画解説者がいたテレビ映画の時代
高島忠夫(※写真はAmazonより)

オープニングからゴージャスな高島忠夫の『ゴールデン洋画劇場』


土曜日の『ゴールデン洋画劇場』は、俳優の高島忠夫が解説を務めた。
親しみやすさとその“華”が最大の武器か。映画というちょっと贅沢な時間へのナビゲーターとしては適役だったように思う。

金曜日の放送だった71年10月から01年10月まで30年近くに渡って(98年夏~99年夏の約1年間は病気療養で一時降板)番組を盛り上げているが、一緒に思い出されるのはイラストレーター和田誠氏によるオープニングアニメ。
これは、81年4月から95年3月まで親しまれた2代目オープニングとなる。
アクション、サスペンス、SF、ラブロマンスなど、様々なジャンルをイメージしたアニメが、音楽に合わせて矢継ぎ早に切り替わって行くのだが、このシンクロ具合が震えるほどに絶妙。
映画を観る前のワクワク感を高めてくれる最高のオープニングだった。

90年代は『ターミネーター2』に代表されるアーノルド・シュワルツェネッガー作品、『ビバリーヒルズ・コップ』などのエディ・マーフィー作品が多かった印象。
また、『13日の金曜日』シリーズを90年代中期まで放送していたことも忘れられない。
懐かしいあの頃……映画解説者がいたテレビ映画の時代
淀川長治(※写真はAmazonより)

熱く語りかけてくる解説の淀川長治『日曜洋画劇場』


そして、『日曜洋画劇場』の淀川長治氏。
その生涯で観た映画の数は3万3,000本以上! しかも、どんな映画も最初から最後まで全部覚えていたという映画界の偉人だ。

『土曜洋画劇場』として始まった66年10月から98年11月までの32年間、89歳で亡くなるまで生涯現役を貫いたのだが、亡くなる前日に収録し、最後の解説となったのが『ラストマン・スタンディング』。
タイトルもさることながら、この映画自体が2ヶ月前に亡くなった親友・黒澤明監督の『用心棒』をモチーフとした作品だったことも運命的。
しかも、自身の父親と同じ命日だという。まさに映画のような人生のエンディングだった。

「どの映画にも見所はある」を持論に、マンツーマンで語りかけるように、映画の素晴らしさを熱く語ってくれた淀川氏。
目をひん剥き「ホントにホントに」と興奮して語る姿、極太眉毛を八の字に曲げて「怖いですねえ、恐ろしいですねえ」と語る姿が思い出深い。
番組終了時の「それでは次週もご期待ください。サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」のフレーズが、楽しかった日曜日の終わりを告げる定番の挨拶。
ドラマチックなエンディングテーマ『So in Love』が輪をかけて切なさを誘うのであった……。

名作重視のラインナップだったこの番組も、80~90年代にかけてはハリウッド大作比率が大幅にアップ。90年代中期までは『特攻野郎Aチーム』シリーズや、シュワちゃんの出世作『コナン・ザ・グレート』など、漢(おとこ)度高めの良作が目立っていた。

今や絶滅寸前のテレビ映画


『日曜洋画劇場』も今年の春には50年の歴史に幕を下ろし、現在、地上波で定期的に映画を放送する番組は『金曜ロードSHOW!』のみとなる。(テレビ東京『午後のロードショー』は関東ローカルなので除く)
2012年春、このタイトルに変更して以降は、映画専門枠からドラマやバラエティも交えた枠に変更となったため、それに応じて映画自体の放送数も激減。それなのに、「いつ見てもハリーポッター」「困ったときの2週連続ジブリ」と、人気作に頼り過ぎの編成なのが残念だ。

思いがけない掘り出し物に出会えることこそ、テレビ映画の醍醐味ではないか?
映画館に行くほどでもなく、レンタル屋で好んで借りることのない作品。そんな、本来興味がなかった作品との偶然の出会いもテレビ映画のいいところ。
冒頭の解説によって、まだ見ぬ映画の世界に引き込まれ、締めの解説で深みにはまる。そういう意味でも、テレビ映画の解説者たちの果たした役割は大きいのだ。

『金曜ロードショー』の『世にも不思議なアメージング・ストーリー』、『ゴールデン洋画劇場』の『超能力学園Z』、『日曜洋画劇場』の『トレマーズ』などなど、これらの番組なしでは出会えなかった(筆者的には)名作が懐かしいなぁ……。


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