眠れない夜、数えるのはウルトラマンでもいい?
今夜もあちこちで“彼”の数が数えられているのでしょうか。
暑くて寝苦しい夜が続くが、先日久しぶりに羊を数えてみたら、300匹を超えたあたりで見事に記憶がとんだ。

そんな話をダンナにすると、「自分の場合、眠れないときは羊じゃなくて、ウルトラファミリーやモビルスーツを頭の中で、登場順とか開発順に順番に並べてみる。
ガンダムの4号機とアレックスは、結局どっちが先になるんだ、じゃあ陸戦型はどこに位置するんだ?(途中から理解不能になったので中略)……で、整理してるうちに寝てたり」と言う。
それって、逆に頭がさえるんじゃ……?

でも、そもそもなぜ数えるのは「羊」なのか。以前、聞いたことがあるのは「sheep(羊)」の発音が「sleep(眠り)」に似ているからという説、「one sheep、two sheep」と数えると、口に指をあて、静かにするよう促す「シーッシーッ」という音に似てるからという説だが、調べてみると「羊はキリスト教とのつながりが深く、優しい、純潔というイメージから、リラックスできる」説など、他にも諸説あることがわかった。

ロフテーの睡眠文化研究所・副所長の鍛冶さんに聞いてみると、
『ねむりのはなし』(六甲出版)によると、数を数えるという単純作業を繰り返すことで、『眠らなきゃ』という意識をいったん離れることができる。別の何かに集中することが、リラックスにつながり、眠りを誘うといわれています」
とのこと。
その起源は実に古く、前述のキリスト教や発音からという説の一方で、
「英語は新しい文明なので、もっと古い何かではないかと思います。
『ドン・キホーテ』の一説にも出てきますし、見える地域に羊がいないと出てこない発想だと思うので、ヨーロッパ、あるいは中東からきたのでは?」と言う。

ところで、民話には「果てなし話」というジャンルがあるが、これは昔、王様が眠れないとき、「おとぎ衆」(物語を聞かせる人)が、王様が聞き飽きて眠ってしまうまで「ある男が200匹の羊を川岸に渡しました。まず1匹、2匹、3匹……」といった具合に果てしなく話を聞かせてあげていたものだとか。
「『羊を数える』という行為は、王様のために読んであげていたものから、時代を経て、自分に暗示をかけるという新しいメカニズムに変わってきたのかもしれませんね」
この「果てなし話」は、ルイ14世やロシアのイワン大帝も大好きだったというが、そんなに昔から不眠の悩みがあったなんて! 
「王様は肉体労働が少なく、精神的な悩みが多いので、現代人にも通じるのかも」
と鍛冶さんは言う。

ところで、眠りのメカニズムとしては「単純作業を繰り返す」のが大切なので、数えるのは羊じゃなく、ウルトラマンやモビルスーツでもいいんでしょうか?
「よくあるのは『通りの名前』などですが、単純作業という意味では、何でもいいようです。ただし、あまりワクワクしてしまうと逆効果かもしれませんけど(笑)。
また、『何だっけ?』と脳を起こしてしまうようなものも合わないようです」

つまり、ウルトラマンやモビルスーツを数えるのは、あくまで「熟知している人」向き。
昔の同級生の名前を順に……などというのは、思い出せない人が気になってしまうので、余計に不眠に陥りそうです。
(田幸和歌子)