“本家”ししゃもが取って代わられた理由って?
上の写真が「ししゃも」で、下が「カペリン」です。
私たちが日ごろ食べているししゃもは、本物の「ししゃも」じゃない。これは、まだ知らない人もいる事実だ。


先日、『アメトーーク!』スペシャルで宮川大輔が「高級なししゃもと、安いししゃも」の顔マネを披露し、話題となっていたが、私たちがおなじみなのはもちろん「安いししゃも」のほう。
これ、実際には「カペリン」という魚であり、現在流通しているししゃものなんと9割が、この「カペリン」だというから、驚く。

なぜこんなことに? 創業80余年の北海道のししゃも専門店・カネダイ大野商店のご主人に聞いた。
「現在『ししゃも』として流通しているもののほとんどは『カペリン』『カラフトししゃも』というもので、これは30〜40年前に輸入されました。なぜししゃもと呼ぶようになったかは、単に見た目が似ているからという理由であって、味はまったくの別モノなんですよ」
味がどのくらい違うかというと、「うなぎとあなごを一緒にしたり、ロブスターと伊勢海老を一緒にして売っちゃえ! というくらいですよ!」とのこと。

それにしても、なぜニセモノのほうが一般的になってしまったのか。

「本ししゃもは、近年は安定してますが、ずっと減少傾向にありました。父の代にはバケツで掬えるほどだったのに、どんどんとれなくなり、かつて何百トンだったのが、一時は何トンというくらいにまで減ってしまったんですよ」

カペリンに比べ、本ししゃもはデリケートなのかと思ったが……。
「いえ、とりすぎたため、減ってしまったんです。さらに、河川がコンクリートで覆われてきて、産卵場所が減っていることもあります。それに気づいた漁師さんたちが、漁に制限を設けて『定量制』になりました」
本物のししゃもが高いのは、もっともな話だ。

ところで、先日、札幌の居酒屋に立ち寄った際、「本物のししゃも」について聞いたのが、こんな話。

「本物のししゃもは、オスが美味しいんですよ!」
実際にオスのししゃもを食べてみたら、確かに身がキリリと締まり、濃厚な旨みがあった。本物のししゃもの場合は、やっぱりオス優勢?
「これはお好みの問題で(笑)。一般には『ししゃもは子持ち』と思われているから、『オスも美味しいですよ』ということですよ。本物のししゃもはメスも卵に甘みがあって美味しいし、オスは卵を抱えていない分、卵に栄養がいかないので、身がしまっていて味が濃いんです。魚好きの方だと、オスのほうが好きという方も多いですね」

本物のししゃもの場合は、旬が10月〜11月半ば。カネダイ大野商店では、旬のししゃもを買い付けて急速冷凍しているそうだが、「ししゃもの生ずし」「ししゃもどんぶり」などは生で食べられる秋だけの人気メニューなのだそうだ。


ちなみに、かつては「銀ムツ」として売られていた魚が、2003年のJAS法改訂によって「メロ」と表示されるようになったなど、近年、表示が改められてきている。でも、なぜか「ししゃも」は「カペリン」とせず「カラフトししゃも」のまま。これはなぜ?
「なぜししゃもだけが、この改訂時に見送られたのかは私たちにもわかりません。(ししゃもを町魚としている)むかわ町でも、非常に残念に思っています……」

この謎については改めて迫ってみたい。
(田幸和歌子)