「録音が終わりましたら、シャープを押してください」
メッセージを入れ、シャープボタンを押して電話を切る。
そんな、普段の何気ない動作。
でも厳密に言うと、電話に「シャープボタン」なんか存在しない。
電話のボタンについて、国際的な電気通信を扱っている「財団法人日本ITU協会」が、こんな話をしてくれた。
「電話にある“#”は、シャープではなくて“井げた”(イゲタ)です。また勧告(通信業界の世界基準が書かれた文書)には“スクエア”と表記されておりまして、他にも“ハッシュ”や“パウンド”、“ナンバーサイン”という呼び方があります」
つまり、そもそも電話の「#」は、音楽のシャープと記号自体が違うというのだ。電話で使われている記号は縦線が斜めの「#」で、音楽のシャープは横線が斜めの「♯」。すごく微妙な違いだけど、JIS規格でも2つは区別されている。JISでも「#」はやっぱり“番号記号”や“井げた”、「♯」は“シャープ”や“ミュージックシャープサイン”っていう名前。
「#」と「♯」は、瓜二つだけど言われてみれば違う双子のような記号、略すなら“双号”なのだ。
それと電話機にあるもうひとつの記号「*」も、“米印”っていう名前じゃない。米印は「※」のことを指す。JISで“星印”や“アスタリスク”って表記される「*」は、電話業界でも“星印”もしくは“スター”って呼ばれている。
しかも電話機では、基本的に「*」から90度回転させた記号を採用している。「*」とは違った、JISにはない電話機独自の記号だ。普通の「*」は×の真ん中に縦棒を通した記号で、×に横棒を通したものが電話機の“スター”。さっきも出てきた勧告の中に明記されている。
ちなみに「*」の場合は、「#」と「♯」の関係とは違って形は一緒。回転しているだけで、名前も一緒。双子じゃなくて、同一人物と言っていいのかもしれない。
電話機には“シャープ”も“米印”もない。
あるのは“井げた”と“星印”。カッコ良く呼ぶなら、“スクエア”と“スター”。
とはいっても、これらの呼び方は規則じゃなくて“望ましい”っていうレベル。
だからこのことを知ったとはいえ、人に説明することがあったら、電話機の「シャープ」と「米印」って言ってあげてください。
あと、電話機のトラブルか何かでサポートセンターにかけることがあったら、優しく教えてくれたお姉さんたちに、「それはシャープじゃなくて井げたのことを指してるんですよね」なんて指摘はしないであげてください。
(イチカワ)