最近、Facebookでは友人達の子供写真で溢れかえっている。それはFacebookだけの現象かと思いきや、気づけばLINEのアイコンやタイムラインまでも、子供、子供、子供の写真。
とにかく「写真」で表現できる場では、子供の写真がよく使われているのだ。そのため、なかなか会えない友人だったりすると、最近の友人はどんな様子になっているのかが全く分からなかったりする。

何だろう、うまく言えないけれど、この状況を不思議に思う感覚は何なんだろう。そう思っていた矢先、まさにその疑問を解消するかのような言葉に出会った。

『子供はかわいい、が、そのかわいいという気持ちには何か奇妙なものが含まれている』

作詞・作曲ものまねや、映画やドラマでも活躍されているマキタスポーツさんこと、槙田雄司さん著『アナーキー・イン・ザ・子供かわいい “父親に成る”ということ』の中に、その言葉はあった。

本書では、槙田さんが「私はそのような“場所”から「子育て」という世界を眺めていく」というコンセプトで家族とのやりとりが綴られている。


「この観測点では、つまり、一度「親」という領域に入れば、誰しも皆“普通”ではいられなくなるよ、ということをすっぱ抜く内容を意味する。例えば、運動会は顕著だ。(中略)だって見てみろ、あのまだおぼつかない足取りの徒競走、仲間を応援する健気さ、ダンスの愛くるしさ……過去最高だろう。あなたの過去最高でもあってほしいのだよ(本文引用)」

なるほど。私が感じていた不思議な気持ちは、まだ子供を持たない私には入ることのできない「親」という領域での出来事だからなのかもしれない。親たちの「我が子が一番!」というアツイ気持ちは、今の私などでは到底踏み込めない夢中の領域にあるものなのだ。
何かいい!そして奇妙だ!

この独特な観測点から語られた子育てエッセイを出版された経緯について、出版元であるアスペクトの河田さんにお伺いしてみた。

――初出誌になるMUSIC FREE PAPER「UNGA!」での連載を読んでいたフリーエディターの方(株式会社PADの山口香奈子さんという方です)から、子育ての奇妙な感じをうまく表現している面白い連載なので、本にまとめられないかとの提案を受けたのがきっかけです。読んでみると確かに、あまり類例のないタイプの育児エッセイで、行間から槙田さん独特のテイストがにじみ出ているし、『一億総ツッコミ時代』(槙田さんの前著)のテーマを“家庭”という場所に置き換えて展開している感じもあって面白いのではないかと思い、出版を企画しました。

なお、私は「娘と風呂」の章が大好きだ。娘から「もうお父さんとお風呂に入りたくない!」と言われる前に、自ら身を引こうとするお父さん。しかし、娘が無邪気に「パパ、一緒に入ろう」と誘ってくるので、断れない日々……。
「私は「いつまでこの関係続くんだろう?」と思い、いつも彼女が風呂場から去っていった後やるせない気持ちになる。「このままでは自分がダメになる」「今度こそはケジメをつけよう」「俺は都合がいいだけなんだ」と。(本文引用)」……世の中の小さい娘さんを持つ父親は、いつか来るであろう「パパとはもう一緒に入りたくない」に怯えているのだろうか。何だか切なくていじらしいエピソードなので、読んでいてキュンとするのである。

この章を読んでドキリとしたのは、「一般的に「入るか入らないか」の分水嶺は小四~小五とされている。小四で男親に通告を言い渡すタイプは、もう相当世間に”まみれて”いる。
たぶん馴染みの店の二~三軒はあって禁煙も過去に二度失敗している。そうに違いない」という部分で、思い返してみれば、私は小四の時点で父親の前で着替えることさえできなくなっていた。どうも早い段階で世間にまみれていた模様。なぜだ。当時の自分に何があったのだろう。なお、河田さんのお気に入りの章についてもお伺いしてみた。


――「子供の名前が決まった」が、お子さんの命名にあたって、父親としての立場と芸人としての顔(つまりウケ狙い)の合間で揺れ動いてる様が可笑しくて好きです。「天使達の文章力」も、子供の「邪心と浅知恵」をそのまんま描いた一文として傑出しているかと思います。

そして本書では、子育てや家族に関するインタビュー、小島慶子さんとの対談なども掲載されているので、エッセイに描かれている内容を深堀りしていたり、娘2人を持つ槙田さんと、息子2人を持つ小島さんならではの子育て論などを読むことができて、大変興味深い内容になっている。

――何か読者の方に道しるべとなるような「マキタスポーツ流子育て論」をかっちり語る部分が必要かと思い、語りおろしインタビューをさせていただきました。また、槙田さんから「一人だと男性=父親的な意見だけになりがちなので、女性=母親的な視点がどこかにほしい」という要望があったので、ラジオや雑誌で子育てについてよく語っていらっしゃる小島さんに対談を申し込んだところ、ご快諾をいただきました。

子供のいない私は、「子を持つ親」という視点から読むことはできないので、「娘から見たパパ」という視点で本書を読んでいた。
きっと、そういう人も多いのではないかと思う。父親とは、なんて娘に対していじらしくて一生懸命で愛らしいのだろう……。私はお父さんっ子なのだが、そういえば娘から見た父親も奇妙だ。いい意味で。もし、お子さんがいらっしゃる方だと、全く違った読み方になるのだと思う。

なお、本書にも登場する「学童讃歌」は、槙田さんの「マキタ学級」というバンド名義でリリースされているCDでも聴くこともできるので、機会があれば是非聴いていただきたい。子供の声で歌われている感じと、槙田さんの「いくよー」という優しげな声、歌が終わった後に聴こえるはしゃいだ子供の声が、とても和むし、何だか泣けるのである。
(平野芙美/boox)