最近、記憶力が怪しい気がする。もう、昨日何を食べたのかも覚えてないもの。
というか、今日の昼ごはんが何だったのかも忘れてしまっている。いや、適当にそこらの牛丼屋とか惣菜とかで済ませているからだと思うのですが。

でもねぇ、そんな気張らなくても日常の“食”って楽しめるものだと思うのです。もっと意識すれば、きっと今より有意義になる。それを存分に教えてくれるのは、こちら。4月20日、ポプラ社より発売される『シノダ課長のごはん絵日記』が、ちょっと見ものなんです。


ところで皆さん、「シノダ課長」ってご存知ですか? NHK『サラメシ』に出演し、不思議な大反響を巻き起こした岐阜市在住の一般人。サラリーマンの方です。

ではそんな人が、なぜそんなに騒がれている? 理由は、この方の日課にありました。23年間、シノダさんは“食の記録”を続けてきているらしいのです。朝・昼・版と三食、食べたものを毎日ノートに記しており、特に気に入った食事はイラストも付け加えるという力の入れようで。

しかもそのきっかけに、重大な決意は無かった。
「福岡への転勤することになったのだから、ご当地のおいしいものを記録していこう」とふと湧き上がった出来心が、今の今まで続いてしまっているらしいのです。

そんなご本人が東京に来るという情報を、キャッチ! 矢も盾も止まらず、インタビューを試みました。
そして、当日。対面しましたよ、“シノダ課長”こと著者の篠田直樹氏に! いや、失礼ながら太り過ぎでも痩せ過ぎでもなく、健康的な体調を維持していらっしゃいます。なるほど、「ごはん絵日記」は食のメリハリにもなっているのだな。

――でも、絵がお上手ですよね!
篠田さん 大体、1食につき20分くらいかけます。
これに2~3時間もかけていられないですからね(笑)。
――あと印象的だったのは、文章もすごく面白いんですよねぇ。その辺も、気を付けていらっしゃるんですか?
篠田さん いつも、コメントを書くのは酒気帯びの時なんですよ。だからかもしれない。
――本音が出ちゃいますね。確かに「プロの仕事じゃない」とか、遠慮がない記述もありますけど(笑)。

篠田さん あぁ、遠慮はないです。あと、絵に関しては酒気帯びだと描けません。
――あっ、絵を描くタイミングと文を書くタイミングは違うんですか?
篠田さん 違います。絵だけ毎日描くんです、忘れちゃうんで。その後、記憶を頼りに文を書いています。

●近所に美味しいものがあるのがベスト
――本を読んでわかったのは、決して尖ったものばかりを求めている訳ではないんですよね。
例えば、ココイチとかもお気に入りなようで。
篠田さん ココイチ、大好きです! 最近私も知ったんですけど、ココイチ創業者の方が私の高校の大先輩だったんです。奥様の名前も私の妻と一緒だし。まぁ、関係ないですけど(笑)。
――へぇ~、運命的ですねぇ。一方、今こうして東京に来ている訳じゃないですか。
「せっかくここまで来たんだから、あそこに行ってやろう」と考えている名店ってありますか?
篠田さん いや、あんまり無いですね。基本的に、東京に“気に入ったお店”ができちゃうと困るんですよ。気に入ったお店には、何回も行きたいでしょ? 知らない方が幸せということもあります(笑)。運命的な出会いでパンドラの箱を開けてしまうと、人生が変わってしまう可能性があるので……。
――はぁ、なるほど。いわゆる、寺門ジモンさん的な感じでもなく。
篠田さん あぁ、そういう訳ではないです。「近所にそこそこの店がある」という状況が一番いいですね。あと不思議なのはね、カツ丼とかラーメンとかそういう庶民的な食べものって、遠出して食べてもあんまり感動しないんですよ。
――へぇ~、そういうものですか!
篠田さん そういうものだと思いますよ。わざわざ、食べに行ってはいけません! 絶対、失敗しちゃう。

●何でも美味しくいただく
普段は、旅行会社に勤めている篠田さん。ということは、海外に行く機会も多いはず。ここで聞きたい。
――「世界中のうまいものが日本に集まっている」という言葉があるじゃないですか。実感として、やっぱり日本に美味しいものって多いですか?
篠田さん そうは思わないですね。どこに行っても、そこそこ「美味しい」と思っています。
――そうですか。でも、「食事がマズい」と評判の国もありますよね?
篠田さん あぁ、例えばアメリカも「あんまり美味しいものがない」とか言われたりするんですけど、僕はアメリカの食べもの大好きですよ。それなりの数の人が住んでいたら、その中でうまいメシって絶対ありますって。

「撮る」という発想自体がない
――最近、食べものを写メで撮る人っているじゃないですか。「自分もそうしよう」と考えたことはありますか?
篠田さん 無いですねぇ。今みたいにみんながブログを始める前から絵で描いているので、ここに来て写真というのは考えたことがないです。あと、いい歳したオッサンが食べものをイチイチ撮っているのは、マナー的によろしくないかなと……。
――(笑)。
篠田さん あんまり乱暴なこと言っても良くないですが(笑)。それを世に問いたいからこその、『サラメシ』への投稿でもあったんです。
――あぁ、そうだったんですか! ただ、実際に「絵の方が美味しそう」という声もありますよね。
篠田さん マズそうに描くのって、意外と難しいんですよ。美味しそうに描くのは簡単なんですけど。
――確かに、そうかもしれません。
篠田さん 100円寿司なんか、いつもマズそうに描こうと頑張るんですけどね(笑)。
――クックック、頑張るんですか(笑)。

●絵日記に支配されている
「ごはん絵日記」には、朝昼晩の三食全てを毎日記録する「食記」と、外食したものをすべて絵に描く「雑記」の2種類がある。そして厄介なのは、「食記」の方だった。
篠田さん 「食記」の方にはルールがありまして、1年で一冊と決まっているんです。
――本当だ! 元旦から始まり、最終ページは年越しそばでピッタリと締められていますね。
篠田さん 毎年、こうなんですよ(笑)。だから、途中で調整しながら書いています。
――調整、ですか?
篠田さん 計算としては、絵のない日が1ページで7日分、絵のあるページは1ページで4日分になります。絵のある日を65ページにし、絵のない日を15ページにすれば、これで365日になる訳です。
――はぁ~、緻密な!
篠田さん 絵に描いて語れるほどのメニューを出す店は事前にわかるんで、そのために食べに行くこともありますよ。
――なるほど……。
篠田さん 一方でページの4分の1しか割けられない、コメントのしようのないメニューもありますが、それも難儀なんです。その後、近いうちに4分の1で書けそうなメニューを食べないといけないので。
――絵日記のために食事を変える必要があるんですね。
篠田さん ノートに支配されてる状況だなっていう(笑)。どっちが“主”で、どっちが“従”だか、もうわからないですよ。

●死ぬ前に食べたいもの
――ところで、本当に一番好きな食べ物って何ですか?
篠田さん う~ん、困りましたね……。
――(笑)。カレー、寿司、カツ丼、おそば等、色々と、ノートにも書かれていますが。
篠田さん “本当に好きなもの”とは違いますが、永井荷風が最後に食べたのって、カツ丼なんですよね。だから私も、死ぬ間際にカツ丼を食べられたら幸せだと思いますね。
――カツ丼ですか!
篠田さん やっぱり僕らが子供の頃のご馳走と言ったらね、カツ丼しかなかったんで。そういう意味では、今でもそうですよね。死ぬまで、カツ丼を食える人生でありたいなぁと思いますね。
――あぁ、体調を気にしてカツ丼を食べられないというのも、イヤですもんね。
篠田さん そうそう、受け付けないとかね。確かに絵日記の中でも、やたらとカツ丼が出て来る時期ってあったしなぁ。案外、人生はカツ丼かもしれない。


そんな篠田さんの絵日記の模様は、画像を参照してください。どうですか、緻密でしょ? これが23年続けられ、現在は44冊目に突入している。もちろん、記録更新中です。

『サラメシ』視聴者からは「こんなに長く続けるなんてすごい!」、「絵がうますぎる……」、「すごい人は市井にもいる」といった声も上がっている「ごはん絵日記」。今回の書籍では、一サラリーマンである篠田さんの人生の変遷を追いながら、その充実の食生活も浮き彫りにしてみせています。
いや、食生活だけではない。“食”から、一人の人生が透けて見えている。
(寺西ジャジューカ)