銭湯のとなりには、必ずと言っていいほどコインランドリーが設置されている。むしろ、銭湯単独のほうがあまり見かけない気がする。


コインランドリー付き銭湯。洗濯機やお風呂がない家に住む人々にとっては、生活する上で必要不可欠な存在だろう。風呂に入る前に洗濯物を放り込んでおけば、風呂あがりには仕上がっている。そんなスマートさも魅力である。

でもどうして、銭湯のとなりにはコインランドリーがあるのだろう?

何となく気になって、ちょっと調べてみることにした。すると、東京都北区の銭湯・加賀浴場が全国初のコインランドリー付き銭湯ではないかという情報を発見!
さっそく電話して、設置の経緯について聞いてみたところ
「当時の経営者はもう他界していて、詳しいことはわかりません」
とのことで、取り付く島もなかった…。


「知らない」と言われると、余計に気になってしまうものだ。そんなわけで図書館へ行って、本を読んで調べてみた。

書籍『コインランドリーの歴史』(全国コインランドリー連合会編)によると、コインランドリー付き銭湯は昭和40年代に誕生して、全国に広まったそうである。残念ながら、どこが最初に始めたかはハッキリしないそうだが、当時の時代背景から誕生の秘密を探ることにした。

昭和40年代の銭湯&洗濯事情
時はさかのぼること昭和40年。高度経済成長の真っ最中である。
だんだんと豊かになる人々の生活。内風呂の普及も進み、銭湯は入浴者の減少を心配し始める。
「入浴料だけじゃこの先やっていけない」と、浴場内にサウナを作ったり、商店を作って日用品を売ってみたりなど、副収入を得るために四苦八苦していた。

その一方で、ぐんぐん成長していたのがクリーニング業界だった。
洗濯機の発展で、これまで店員が手作業で仕上げていたドライクリーニングに「セルフサービス方式」という新しい営業スタイルが登場したのだ。(以下、セルフクリーニング)
その名の通り、店内に全自動ドライクリーナーと乾燥機が設置され、客は各自で作業する。
いずれもコイン稼働式で、店員に硬貨と専用のコインを交換してもらって使用する。いわば、コインランドリーの前身のようなものである。

これまでのドライクリーニングといえば、店に預け、仕上がりまで何日も待たないといけなかった。それが自分の手で簡単にできて、すぐ終わる。手軽さから主婦を中心に評判となり、店舗も徐々に増えていく。

これを知った銭湯業界は、セルフクリーニング経営に興味を持つ。

確かに銭湯の中にクリーニング設備があれば、客は入浴中に洗えて合理的だ。それに入浴以外での固定客があれば、入浴客が減ったときに貴重な収入源となるだろう。客と経営者、どちらにも好都合だ。

銭湯は、副業にセルフクリーニングを始めることにした。

銭湯の取り組み
銭湯は、あらたな商売を成功させるべく、意欲的に設備の改良を行った。ドライクリーナーだけではなく洗濯機も設置して、ふだんの洗濯もできるようになった。
当時は洗濯機の普及率が今よりずっと少なく、手洗いをしている人も多かったのだ。

なかでも、東京都千代田区外神田の「万世湯」は、最先端の設備で大人気となり、セルフクリーニングが普及するきっかけを作った。昭和42年、万世湯はセルフクリーニングを開設した。最新のコイン式洗濯機を導入し、翌年には店舗の無人化も実現する。外観は現在のコインランドリーと遜色なく、またたく間に評判となり大繁盛。当時の新聞に特集されるほどだった。
この成功で多くの銭湯が導入を始め、全国に広まっていったそうである。

また、国内家電メーカーも、これまで海外製頼みだったコイン式洗濯機の開発に乗り出した。

昭和46年、サンヨーが初の国産コイン式洗濯機を発売。これまでの専用コインではなく、日本の硬貨で利用できるようになった。銭湯は、クリーニング業界の発展だけではなく、家電メーカーの技術向上にも大きく貢献したのだ。

やがてセルフクリーニングは、英語名coin-operated laundryを略した「コインランドリー」
という名前に変わって、現代まで庶民の暮らしを支えていくこととなる。

銭湯はコインランドリーの生みの親だった
以上が昭和40年代の、コインランドリー付き銭湯発生の経緯だ。

まだ出始めたばかりのセルフクリーニングを副業として始め、現在のコインランドリーになるまで完成させたのが、銭湯だったわけである。つまり、ある日突然ドッキングしたわけではなく、改良を重ね徐々に今の姿になっていったということだろう。銭湯は、コインランドリーの産みの親と言って良いかもしれない。

元々は洗濯機の普及が少なかった背景から誕生したコインランドリーだが、時代が進んでも必要とする人々は確実にいた。すっかり便利になった今でも、単身赴任のお父さん・大学生・多忙な主婦、さまざまな境遇の人が利用する。だから時代が進んでも、消えることなく銭湯のとなりに姿を残しているのだろう。

身近なものにこそ色んな歴史
正直「銭湯とクリーニング、異業界が衝撃のコラボ!」みたいなものを期待したのだが、そんなに落ちのない結果となってしまった。でも「三種の神器」くらいしか知らなかった高度経済成長期を、暮らしだけではなく商売の方向からも知ることができたのはとても面白かった。

余談であるが、コインランドリーの設備がほとんどサンヨー製なのは、国内初のコイン式洗濯機を発売し、その後も改良に取り組んだからである。

このように、身近にある色々なものにも、深い理由や歴史が隠されている。
あなたも、身の回りにある「ちょっと気になること」を思い切って調べてみてはどうだろうか。意外と面白いことを発見できるかもしれない。
(エキサイトニュース編集部 富下夏美)

【参考文献】
『コインランドリーの歴史』編・出版/全国コインランドリー連合会
『公衆浴場史』編・出版/全国公衆浴場業環境衛生同業組合連合会
『高度経済成長と生活革命』編・国立歴史民族図書館/吉川弘文館