ホテル「東横イン」が好きな彼に、東横インの模型を作ってプロポーズした女性がいる。名前は、やっぱりぱんつさん。
一連の出来事をまとめた『愛する人に東横インをプレゼントしよう』(やっぱりぱんつ著・宝島社刊)も発売された。今回は、夫でライターの工藤考浩さんに逆プロポーズの時のことや東横インの魅力についてお話を伺った。

●彼専用の『東横イン』を作る
「いつか、自分専用の東横インを作りたい」
まだ結婚する前、東横インに泊まった時に彼氏(工藤さん)が彼女(やっぱりぱんつさん)の前でつぶやいた言葉だ。二人の年の差は17歳。
やっぱりぱんつさんは、その時は工藤さんの言葉をスルーしていたものの、彼の生誕40周年を記念して、“彼専用”の東横インをプレゼントすることを決意した。モノを作るのが好きな彼女は、毎日仕事が終わると家で彼専用の東横インを“建設”していた。
もちろん、そのことは彼には内緒である。数週間後、完成したものがこちら。
"東横イン"好きな彼に手作りの東横インでプロポーズ~工藤夫妻の新婚生活

高さはなんと60センチ。結構デカい。ベランダの手すりまで作るというキメ細かさだ。主な材料はスチレンボード、色画用紙。
ちなみに、スチレンボードをカットする度に、細かいカスが床じゅうに飛んでしまい、掃除に苦労したそうだ。

その頃のことを工藤さんは振り返る。
「実は、ある時期を境に彼女が家に遊びに来なくなったんです。それまでは頻繁に遊びに来ていたのに、来ない日が半月も続いたので、このまま終わっちゃうんじゃないかと心配していた矢先にプレゼントされたんです」
まさに逆プロポーズである。工藤さんは本格的に結婚を考えるようになり、その後、二人は見事にゴールイン。

――思わぬ形で彼女から逆プロポーズをされた後、結婚を決意した時の彼女の反応は?
「泣いてました」

なんと良い話だろうか。

「普通だったら、宿泊券をプレゼントしてくれるぐらいだと思うんですけど、まさか東横インの模型を作ってくれるとは思わなかったし、そんな発想は僕にもなくて、彼女だったら面白いことをしてくれるんじゃないかと思いました」

ちなみに「東横イン松戸店」は架空のもので、松戸は工藤さんが一人暮らしをしていた街である。東横インは、建物によって外観のデザインが多少異なるが、彼女が作った東横インは、まさに工藤さんのお気に入りの外観だったそうだ。

●東横インが大好きな理由
ところで、一部の読者の皆さんの頭の中では「なぜ、彼(工藤さん)はそんなに東横インが好きなのか?」というクエスチョンマークが飛び交っているのではなかろうか。
――いろいろな東横インに泊まるといっても、基本的にはどこの東横インも同じような感じだと思うんですけど……。
「そこがいいんです。どこの東横インに泊まっても同じだという安心感が良いんです。
部屋の内装は同じだし、シャワートイレの機種までほぼ同じ。ただ、たまにちょっとだけ他の東横インと違うところがあって、それを見つけるのがまた楽しいんです」

工藤さんは『東横イン・クラブカード』を持っているほか、東横インの情報誌『たのやく』も持ち帰る。
「出張先に東横インがない時以外は、どこに行った時も東横インに泊まります。プライベートで遊びに行く時も、温泉に行くような時以外は、東横インのあるところを選びます」

●工藤さん、夢の宿泊 『東横イン 湘南平塚駅北口1 北口2』
なかでも工藤さんの好きな東横インは『東横イン 湘南平塚駅北口1 北口2』だ。
"東横イン"好きな彼に手作りの東横インでプロポーズ~工藤夫妻の新婚生活

工藤さんにとっては、たまらない光景だ。道を挟んで、東横インの向かい側に東横インが並んでいる。
つまり「東横インを眺めながら東横インに泊まる」ことが可能なのである。都内に住んでいると、近郊にあるホテルにはなかなか泊まることがないものだが、工藤さんは奥様と一緒に憧れの『東横イン 湘南平塚駅北口2』に宿泊することにした。なぜ『2』なのかというと……
"東横イン"好きな彼に手作りの東横インでプロポーズ~工藤夫妻の新婚生活

部屋の窓から、向かい側にある『東横イン 湘南平塚駅北口1』の『東横イン』の文字がデカデカと見えるからなのだ。まさに、工藤さんが求めていた桃源郷である。この眺めを鑑賞できるのは『東横イン 湘南平塚駅北口2』のシングルルームのみ。つまり、工藤さんは新婚夫婦にも関わらず、シングルルームを2部屋もとったのである。
もう一度書くが、新婚夫婦なのに……である。

●年齢差17歳。Twitterで告白
ここで、お二人の出会いのきっかけを紹介しよう。夫の工藤考浩さんはニフティに入社して『デイリーポータルZ』の編集・ライターを経てフリーライターとして活躍中。やっぱりぱんつさんは、工藤さんが某ポータルサイトで書いた記事の面白さにひとめ惚れ。「この人とは仲良くなれそう!」「なんとかして会ってみたい!」と思った彼女。物事には「段階」があるものだが、衝動を抑えきれなかったのか、それをヒョイと飛び越え、なんと工藤さんのTwitterに
「結婚してください」
と書き込んだ。

工藤さんの返事
「はい」

……Twitter上とはいえ、直接会う前から婚約を結んでしまったのである。お互いにダジャレを言い合うほどの仲になり、実際に会うことになった。ある意味、“新婚旅行”である。
場所は『和民』。やっぱりぱんつさんによると、その理由は『WATAMIって書くとWAIKIIKI(ワイキキ)っぽいから』とのこと。

――初めて奥様(やっぱりぱんつさん)にお会いした時の印象は?
「名前からして変ですが、高校の頃のブログの内容も変だったんですよ。今だから正直に言いますが、僕が今までに会ったことがないような人で、混乱しました(笑)」
その時の髪型も、なぜか山下達郎風だったという。
「でも、話しているうちに意気投合しちゃったんです」
ちなみに、知り合った当初は自分が『東横イン』ファンだということは言わなかったという。
「カミングアウトした時に、ひかれちゃうんじゃないかと思って怖かったんです(笑)。ただ、僕がTwitterで『東横インになりたい』と書いたり、出張で地方に行く度に東横インに泊まろうとしているのを見て、なんとなく気づいたようです」
"東横イン"好きな彼に手作りの東横インでプロポーズ~工藤夫妻の新婚生活

奥様は夫のために「東横イン弁当」を作ったことも。(つくる過程などは書籍で)

――新婚生活はいかがですか?
「結婚して本当によかったです。年齢差があるところが逆に面白いですね。ただ、時々『物理的に(加齢臭が)くさい』と言われることがあるので、僕が尻に敷かれるのも時間の問題かもしれません(笑)」

●東横インから感謝状が
"東横イン"好きな彼に手作りの東横インでプロポーズ~工藤夫妻の新婚生活

この一連の出来事が話題となり、奥様は東横インから感謝状をいただけることとなった。まさかの展開に、奥様以上に喜びを隠せない工藤さん。6月某日、二人で蒲田にある東横インの本社に向かった。
「ライターなので、いつか『東横イン』とお仕事をしたいと思っていたけど、まさかこんな形でお世話になるとは思いませんでした」(工藤さん)
社長から直々に感謝状を手渡されて感激している奥様。その隣では工藤さんが、東横インがいかに素晴らしいかを東横インの社員の皆さんに向かって力説するという、不思議な光景が広がっていた。

奥様いわく「お互いを喜ばせたい気持ちが大事」とのこと。年の差17歳ということもあり、工藤さんは奥様のご両親から「長生きしてください」と言われているそうだが、『東横イン』に泊まり続ける限り、心配なさそうだ。
(取材・文/やきそばかおる  写真協力/やっぱりぱんつ・川島一郎《宝島社》)

『愛する人に東横インをプレゼントしよう』(やっぱりぱんつ著:宝島社)発売中
24歳の女性が、愛する彼のために東横インの精巧な建築模型を制作。この出来事をきっかけに、ふたりはのちに結婚。さらに、本物の東横インから感謝状をもらうというミラクルに発展……ナナメ上いく、純愛・シンデレラストーリー。

●(妻)やっぱりぱんつブログ『やっぱんつ.com』
●(夫)工藤考浩サイト『月刊 馬泥棒』