6月15日~19日まで東京体育館で開催されていた「ラオックス卓球ジャパンオープン荻村杯2016」。

観戦に行ってみて、気になったことがあった。
それは、選手が各自大きなリュックを背負って入場してくることだ。

これまでもテレビ中継される際に、大きなリュックを背負って入退場する選手の姿が映し出されることはあった。だが、さらに驚いたのは、世界王者である中国の丁寧選手が自ら三脚を担いで登場し、試合前にビデオのセットを自分で行って、終わったら自分で片づけて去っていったことである。
世界王者の丁寧選手ですら、荷物の運搬やビデオ撮影を自ら行うセルフサービスぶり。これってなぜなのか。

全日本選手権でも選手の控室がない


月刊 卓球王国』編集部の佐藤祐さんに聞いてみたところ、「大きなリュックですか。言われてみるまで全然気がつきませんでした(笑)」と言いつつ、こんな説明をしてくれた。

「一般的に選手はリュック一つで会場まで来ちゃうので、全部の荷物がそこにあるかたちです。ホテルに預けることもできますが、たいていリュックに着替えなどすべて入れています。さらに選手は一人一人、自分で撮影するためのビデオと三脚を持ってきますので、それも含めて大きな荷物になるのです」

172センチと長身の丁寧選手が三脚を担いでくる姿は非常に印象的だったが、実はビデオと三脚は誰でも持っているもので、よく見ると大きなリュックから三脚の一部が飛び出しているケースもあるそう。
「また、卓球は人数が多いこともあり、全日本選手権などでも基本的に選手控え室はありません。練習場か観客席が選手たちの待機場所になるので、荷物を置いておくわけにいかないこともあります」

有名な選手には、当然スタッフがたくさんついているものだと思っていたが、全部個人で行うとは……。監督に預かってもらうなどはできないのだろうか。

「監督も個人のモノは管理しづらいですし、監督を荷物番にするわけにもいかないですしね。基本的に卓球は個人競技なので、選手とベンチコーチの2人1組で動いており、荷物を預かってもらえる人はいないんですよ」
そのため、リュックだけでなく、全日本選手権などでは、小さいキャリーケースを転がしてベンチまで来る選手の姿がよく見られるそう。
「世界選手権では、選手が会場に入ったかと思えば、先に荷物だけ置いて、そこからヒョイッと戻って、オープニングできらびやかなスポットライトを浴びて出てくるなんてこともよくあります」

試合直前に自分でビデオのスイッチ入れる


ちなみに、大きな試合のときには基本的に自分用と相手用に1台ずつビデオが設置されており、世界選手権などでは中国勢が多数のビデオを並べている光景も見られると言う。

ビデオ撮影を自分で行う理由とは?
「卓球は、テレビの映像のように上から見るのと、下から見るのとでは、見え方が違っています。下から見るほうが回転のかかり方などがわかることもあり、研究・対策のために自分でビデオを撮るのです。また、『テレビの映像を下さい』と言いづらいところもあると思います」
そのため、試合直前に自分でビデオのスイッチを入れ、インターバル(休憩)のときに戻ってビデオをいったん止め、試合再開前にスイッチを入れる様子なども見ることができる。


試合そのものに関係なく、「見せるため」のものでもないだけに、意外と個性があらわれている卓球選手の背負うリュック。試合中継の際には、チェックしてみると面白いかも。
(田幸和歌子)