富士そば全店舗で唯一!そば粉を2倍使う慶應三田店がアツい

筆者は、フリーランスの雑誌編集者、ライターを生業にしながら、立ち食いそばチェーン店「名代 富士そば」を巡る「富士そばウォッチ」をライフワークとしている。筆者は数年かけて国内の全店舗で実食を果たした。


一都三県に100店舗以上を展開する富士そばは、各店舗でメニュー構成が異なる。構成は店長の裁量に任され、チェーン店でありながら、店舗ごとに個人店の趣があるのだ。独創性のある店舗独自のメニューがメディアをにぎわせることもしばしばある。

「で、どこの店舗がおいしいの?」
そんなことを度々、聞かれることがある。「おいしい」「おいしくない」という極個人的な尺度で、富士そばの魅力を語るのは難しい。ただ、「話題性のある店」なら、筆者は間違いなく「富士そば 慶應三田店」をオススメする。


従来の店舗は、業者から仕入れた製麺を茹でているが、慶應三田店は厨房に設置した「押出し式製麺機」を使い、乱切りそばを提供する数少ない店舗のひとつ。
初めて製麺機を導入したのは杉並区の浜田山店。それに続くかたちで、今年4月に慶應三田店でも乱切りそばが始まった。しかも、「二八そば」(小麦粉とそば粉の割合が2対8のそば)を扱うのは、現在のところ慶應三田店だけなのだ。


店構えから滲みでる「二八そば」愛


慶應三田店は、三田駅A3出口から徒歩数分の三田二丁目交差点にある。好立地だが、駅寄りの歩道からは桜の木に隠れ、店舗が見えない。
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しかし、木の後ろに周ると――。

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これでもかと「二八そば」を推す店構えが出現! 店長の強い思いが伝わってくる。
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店内でも「二八そば」をアピール

「いらっしゃいませーっ!」。入店するなり、よく通る声で迎え入れられる。声の主は、二八推しの店長、宇野さんだ。一見、人当たりのいいナイスガイだが、「心霊スポット巡り」が趣味という、ちょっと変わった一面ももっている。
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店内設置の券売機

そばとうどんは同額で、券売機も同じボタンを兼用している店舗が多いが、同店ではそばが100円高いため別のボタンに。
一見さんは、メニューの多さに狼狽するはずなので、この写真でよくシミュレーションしておいてほしい。
宇野店長のオススメは「冷やし海老天せいろ」(670円)。さっそく注文する。

注文の都度、厨房の店員がそばの生地を製麺機に投入。製麺機から、ニュルリと出てきた製麺をすくい網でキャッチして、そのまま鍋で茹であげる。
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3種類の太さで独特の食感を生み出す乱切りそば


注文から3分も待たずに、そばは提供された。
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(これが、二八ですっ!)
宇野店長の自信あふれる表情から、心の声が確かに伝わってきた。

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通常、富士そばのそばは断面が正方形に近いが、乱切りそばは幅が大小に分かれた平打ち麺。3種類の太さの麺によって、独特の食感、歯ごたえが生まれる。箸で持ち上げると、麺の間に不規則な隙間ができるので、つゆがよくからむ。つゆは比較的辛め。個人的には、そばの6割くらいにつゆにつけると、いい塩梅。
富士そば全店舗で唯一!そば粉を2倍使う慶應三田店がアツい

最初の一口目は、つゆにつけずにプレーンでいただきたい。
そばをズズっとすすってみれば、なるほど、たしかにそばの風味が感じられる。傍らの宇野店長に目をやると(これが、二八ですっ!)と、また心の声。

特製フライヤーで揚げられた海老天もからりと揚がり、衣がサクリと小気味よい。あとは、一心不乱にそばをすする。ガッツリ食べたい人は、「いなり寿司」(2ヶ140円)を付けてもいいだろう。

ちなみに、この店の独自メニュー「もち巾着そば」(550円)も食べる価値あり。
もち巾着をトッピングに使っているのは、この店だけだ。
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チャレンジ精神から製麺機導入


仕事の合間を見て、宇野店長に製麺機、二八そば導入についてお話を伺った。

――浜田山店が先駆けとなって、今年4月から慶應三田店が押出し式製麺機を導入しました。どういった経緯で導入したのでしょうか。

「富士そばは複数のグループ会社で店舗運営をしておりまして、浜田山店を運営するのはダイタン企画、慶應三田店はダイタンフードが運営しています。店舗での製麺機の使用は、他のグループ会社が始めたことでしたが、ちょっと新しいことに挑戦してみようか、ということで導入に踏み切りました」

――川口店、みずほ台店、代々木八幡店と、製麺機を使った店舗が増えていくなか、「二八そば」を取り入れているのは貴店だけですね。

「やるからには他の店舗とは違うことをしたかったんです。本社からの勧めもあったし、おもしろそうだな、と。大衆そば屋である富士そばが二八そばを出したら、注目も集まるでしょうし」

――実際に、二八そばを食べてみてどうでしたか?

「やっぱり風味がちがう! 従来の店舗は、小麦粉6、そば粉4の割合なので、うちは単純計算で、そば粉が倍になっているわけです。そのあたりに大きく差が出ますね。ただ、そば粉が増えた分、仕入れ値が倍になってしまったので、値上がりはご理解いただきたいです……。『おいしい』と言ってくれるお客様もいて、手ごたえは感じています」

――オリオンビールが置いてあるのも珍しいのではないでしょうか。
「社員旅行でベトナムに行ったときに飲んだ現地のビールがおいしくて。軽い飲み口のビールを置きたかったんです。うちに屋久島出身のスタッフもいるし、南国に縁があるので」
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――今後は、製麺機を取り入れる店が増えるのでしょうか?

「従来のスタイルだと一度に10玉くらい茹でられるんですが、製麺機の店は3玉が限界です。渋谷や新宿などの回転が早い店では難しいかもしれませんね」

――富士そばといえば店舗独自メニューが有名ですが、新作のアイデアはありますか?

「もち巾着はおでんだねの定番だったので、そばにも合うかなと思ったんです。正直、二八そばを使ったメニュー開発は模索中です。しかし、作るからには二八そばの風味がダイレクトに楽しめるメニューを、例えば、冷たいそばを充実させたいですね」

「二八そば」は、立ち食いそばというより、日本そば寄りの本格的な素材だ。一方、富士そばは自由な発想から生まれる創作メニューが魅力。「本格感」と「ケレン味」を見事に両立させるか、もしくはどちらかに振り切るか。慶應三田店の潜在能力が開花するか否かは、宇野店長の手にかかっている。

(店舗情報)
「名代 富士そば慶應三田店」
所在地:東京都港区三田2-14-12 三田通中央ビル1F
営業時間:24時間営業