生活習慣の一つとして、朝の情報番組を視聴している人は多いはず。本日のニュース、芸能情報、最近のトレンド、天気予報、12星座占い……。

起き抜けに見る時計代わりであるため、ドキドキ・ハラハラするような演出があったとしても、身支度中のながら視聴には不向きというもの。キャスターは淡々と原稿を読み上げていればいいし、予定調和なミニコーナーの中で、ちょこっと気になるトピックの一つでもあれば満足です。

しかし、1998年9月2日に放送された『めざましテレビ』は、そんなセオリーと朝の平穏をぶち壊しました。「さぁ。これから職場へ行こう」「急がないと遅刻しちゃう!」……それぞれが迎えた「朝」を停止させ、ブラウン管へ釘付けにしたのです。
事件の被害者となったのは、当時フジテレビのアナウンサーだった菊間千乃。
1995年に同局へ入社し、2007年に退社。2010年には司法試験をパスして弁護士へ転身するという、才色兼備を絵に描いたようなキャリアウーマンとして知られています。

火災用避難器具のデモンストレーションでの悲劇


菊間アナが入社3年目の時、悲劇は起こります。事故の発端は『めざましテレビ』内でかつて放送していた、「それ行け!キクマ」というコーナーでのこと。これは、菊間アナが世の中の様々な疑問を体当たりで検証するという企画であり、この日は「高層マンションで火災等が発生した場合の対処法」を紹介していました。
その中で、バンジージャンプのような避難器具を装着させられた菊間アナ。どうやらこの器具をつかって、ビルの窓から脱出し、その効果を確かめるというのです。
降下するビルの高さは15メートルで、階数にして5階。窓からカメラで地上を見下ろすと、人・植え込みの木・横断歩道、全てが小さく見えます。

朝の住宅街に響いた菊間アナの断末魔


「高っかいんですよこれ!」。怖がりながらも、満面のスマイル&カメラ目線で実況中継する菊間アナ。当時入社3年目の26歳にして、既にいっぱしのテレビ屋です。
窓のヘリにぶら下がり、いよいよその時がやってきます。「いきます!せーの!」。
手を離しました。すると、本来はゆるやかに下降するはずが、とてつもないスピードで地上へ向かって急降下。「アッ、アアー!!」菊間アナの甲高い断末魔とともに、「あああああ~~~!」という防災グッズ会社の社長の野太い悲鳴が折り重なるようにして、朝の住宅街に響き渡りました。

誰もがその時、状況を理解できなかった


「ドサッ」という音ともに、下に敷いてあったマットへ叩きつけられた菊間アナ。「あっははは、外れちゃったんだ~」。その様子を見て、スタジオでとりあえず笑ってみる、当時のめざましMC小島奈津子アナ。
生放送中に発生した、よもやの事態。状況を正確に把握出来なかったのは、なっちゃんも視聴者も一緒なのです。
この時、テレビを見る誰もが数秒間の思考停止に陥りました。その間、菊間アナはピクリとも動きません。「菊間ちゃーん」「大丈夫ー?」スタジオからの呼び掛けにも無反応。そこでようやく、私たちは気付いたのです。
とんでもない衝撃映像を朝っぱらから目撃してしまったのだと。

この事故、本来は柱など頑丈な箇所に巻き付けるはずのロープを、軽めのソファーにくくりつけたが故に起こってしまったといいます。なんともお粗末な理由です。そのせいで、菊間アナは頚椎圧迫骨折という全治3ヶ月の重症を負い、リハビリに1年もかかったというのだから、シャレになりません。
このケース、フジテレビと防犯グッズ会社、どちらに非があるのか。自身が弁護士となった今、法律の専門家としての見解を、彼女に聞いてみたいものです。


(こじへい)

※イメージ画像はamazonより私がアナウンサー (文春文庫)