秦 基博 約3年ぶり、まさに待望のニューアルバム『青の光景』は史上最高の仕上がり/インタビュー

■秦 基博/New Album『青の光景』インタビュー(2/2)

(全曲編曲を手掛けたのは)いびつでもいいからそこに自分の形を提示したいっていう想いが強くあったから

秦 基博が待望のニューアルバム『青の光景』をリリースした。前作『Signed POP』から約3年ぶりとなる今作は、作詞作曲はもとより、アレンジ、プロデュースに至るまですべて秦自身が手掛けている。
タイトルにもある“青”をコンセプトに、自身の中にある音のイメージを一つ一つ丁寧に構築していったという秦。そこには「ひまわりの約束」で見せた優しい顔、「Q & A」で見せた険しさのほか、新曲「ディーブプブルー」で香るエロティシズム、「あそぶおとな」で見せるヤンチャな表情など、さまざまな秦 基博の顔が詰まっている。1曲1曲と研ぎすませ、なおかつアルバムとしてハイクオリティな完成度を誇る今作は、まさに彼史上最高と言える仕
上がり。そんな『青の光景』がどんな過程で誕生したのか、リリース当日の彼を直撃した。
(取材・文/片貝久美子)

自分が描いているものに絶対到達して、なんならそれを越えたいという意志があった

――約3年ぶりとなるアルバム『青の光景』がリリースされました。まさに今日がリリース日ですが、今の心境は?

秦:ドキドキしてますよ、やっぱり。
久々のアルバムというのもそうですけど、今回すべて自分でアレンジしているので……。もちろん、いろんな人とコミュニケーションを取りながら作ってはいるんですけど、コアな部分は自分の中の基準だけで作っているから、そこがみんなにどう受け止められるのかっていうドキドキは強いですね。

――アルバムの制作は今年に入ってから本格的にスタートしたそうですね。前作『Signed POP』が2013年1月のリリースですから、そこから2年を要したのには何か理由があったんですか?

秦:リリースとかツアーとかが続いてたからですかね。昨年は“GREEN MIND”(アコースティック・ライブツアー)や『evergreen』(弾き語りベストアルバム)を出したり、腰を据えてアルバム制作に集中できる感じでもなかったんです。シングルもリリースして、プロモーションしてってことが多かったので。
それから、「ひまわりの約束」の反響もあったと思いますね。それによってテレビなどで歌う場面も多くなりましたし。そんなこんながあって、でもいい加減作らないと、もう一生出ないぞってことで(笑)、今年に入ってからじっくり制作に入りました。

――すごく勝手な想像なんですけど、これだけの期間が空いたのは、もしかしたら秦さんがスランプに陥っているんじゃないかと……。

秦:あははは。そういう感じでは全然なくて。
本格的に作り始めたのは今年からで、後半は歌詞を書きあげつつ最終的にまとめていく作業ばかりだったので、そこは苦しいというか、いつもながらの状況でしたけど。ただ、それがアルバムってなると、全体像を考えながらの進行になるし、サウンドも作っていかなきゃいけないしってことで、そのへんはある意味追い込まれてました。でも、とにかく諦めない、絶対作るっていう、自分が描いているものに絶対到達して、なんならそれを越えたいという意志はあったので。時間がないとわかっていても、みんなに無理をお願いしてでもやり直したりして、なんとか完成させたっていう感じでしたね。

――今回、編曲まですべて秦さん一人で行うっていうのは、最初から決めていたんですか?

秦:そうですね。『Signed POP』の段階から、そういう流れもありましたし。
まず自分でデモを作って、それを元にアレンジャーさんと詰めていくんですけど、中には自分で全部やった曲もあって。「言ノ葉」(『Signed POP』リリース後、2013年5月29日のシングル)もそうでしたし。じゃあアルバム全体を通してやってみようかな、と。それは、自分ができるようになったっていうのもありますけど、とにかく曲の隅々――ベースのフレーズにしろ、鍵盤のフレーズにしろ、全てに自分の音を入れるのがすごく大切だなと思ったから。それによって描きたいイメージがより増幅されるというか。それを今、みんなに聴いてほしい、いびつでもいいからそこに自分の形を提示したいっていう想いが強くありました。


――アルバム制作のまず最初の取っ掛かりはどんなことだったんですか?

秦:『「ダイアローグ・モノローグ」』(2014年4月23日リリース)の時点で、このアルバムに向けたサウンド感っていうのは自分の中にあったんです。それは、それこそタイトルになった青という色。青っぽいアルバムを作りたいなと思っていました。その時は、そこまではっきりとコンセプトとして青があったわけじゃないんですけどね。自分の中にあるサウンド感を形にしてみようと思ったのが「ダイアローグ~」で、そこからは(次のアルバムは)こういう風になっていくんだなっていうのがわかったんです。ウーリッツァー(エレクトリックピアノ)の響きや打ち込みでドラムを作ったりだとかっていうのは、この『青の光景』全体でやろうとしていることのニュアンスにそんなに遠くないと思うので、本当に1歩目だったと思います。


秦 基博 約3年ぶり、まさに待望のニューアルバム『青の光景』は史上最高の仕上がり/インタビュー

色とか景色は、曲が生まれる時には必然的にそこにある

――今回、アルバムのタイトルが『青の光景』と聞いて、すごく納得したんです。個人的な秦さんに対するイメージが青っていうことに加え、「青」や「青い蝶」といった楽曲もあります。でもよくよく思い返すと「赤が沈む」や「色彩」など色を使ったタイトルの曲も多いんですよね。秦さんにとって、色と音の関係というのはどういうものなんでしょう?

秦:メロディを考えている段階で色とか景色とか匂いとかが浮かんだ時、曲になるんです。それがないと、ただの音符の連続っていうか……。言ってみれば、別に何でも、例えば鼻歌で歌っても曲にはなるわけじゃないですか。それがふっと景色が広がるような瞬間に、初めてこの曲はこういうものだっていう輪郭が現れて、そこにはきっと言葉も乗っかっていくだろうっていう。

――曲作りにおいて、色はすごく大事なポイントなんですね。

秦:そうですね。色とか景色は、音にはない視覚的なものなんですけど、曲が生まれる時には必然的にそこにあるって感じなんです。その中でも今回は青っていう色に特化したというか、コンセプトとして自分がそこに辿り着きたいという想いがありました。今作のサウンド感として、全体的に青っぽさだったり、青みがかったようなものを感じていて。青と言ってももちろんグラデーションがあって、人それぞれに思い浮かべる青があるとは思うんですけど、自分の中では楽曲ごとに表現したい青のイメージができていたんです。

――収録曲の中で唯一青を示すタイトルが付けられた「ディープブルー」は、これまでの秦さんの楽曲にはなかったアプローチを感じて新鮮でした。

秦:これはすごくトライアルなレコーディングでしたね。今までとはちょっと違う作り方をしているんですよ。ドラムの音も、ドラマーの方がフルセットで叩くんじゃなくて、キックやスネア、1つ1つ単音で録ったものをPro Tools上で組み立てていくっていう方法で。

――それはかなりの手間がかかっていそう……。

秦:リズムを組むのにすごい時間がかかりましたね。時間をかけたという意味では、この曲が一番かもしれません。ただ、生音が持つ人肌の温もりと、それが機械的に並んでいく無機質さの中で生まれてくるクールさっていうんですかね。完全に打ち込みじゃないってところの熱量が、この曲の温度と合ってるなと思ったんです。で、そういう風にやりたいっていうのをエンジニアさん、この曲で叩いてくださってる朝倉(真司)さんに相談して、それならどういうバスドラムがいいか、どういうマイクで録るか、それをどう処理するのがいいかって、1音1音――キックはキックだけ、スネアはスネアだけといった具合に決めていきました。

――1つ1つ自分の判断で決めていくわけですよね。このアルバムを作りながら、秦さんの判断力も高まってそう(笑)。

秦:実際は悩むこともありましたし、やっぱりあっちのほうが良かったなって行ったり来たりしながら、本当にギリギリまで粘って作ってました。

――瞬発力で決められることもあれば、時間が経つごとに選択肢も増えて迷ったり。いろいろですよね。

秦:そうですね。そういう意味では、今回はほぼ1年かけて作ってきた過程の中で、最初の頃に描いていたことと、それを自分の中でブラッシュアップして、もっとこういうやり方があるんじゃないかって熟成させる時間も途中で作っったので。もともとそういう(熟成させる)時間は欲しいなと思ってたんですよ。今までの経験上、一度作ったものに対して、時間があることで発見できることもいっぱいあったので。まず1月に一人の作業期間があって、それを実際にみんなでスタジオで作っていく作業をした後にもう1回、夏頃に曲作りの時間をもらったんです。そこで足りないピース(断片)というか、自分の中のアルバム像をより完璧にするために他にどういう曲が必要かっていうのを考えて。「ディープブルー」「美しい穢れ」「Fast Life」の3曲は、その夏のタイミングで作ったんです。これが揃えば自分のアルバムの形になるなっていうイメージがはっきりと見えて、曲順もこの時点でほぼ固まりました。

秦 基博 約3年ぶり、まさに待望のニューアルバム『青の光景』は史上最高の仕上がり/インタビュー

どの視点でどういうものを書くかっていう時、自分自身の価値観がおのずと入っている

――「美しい穢れ」も秦さんの新しい一面が出ている曲ですよね。世の中的には今、秦さんのことを「ひまわりの約束」を歌っている優しい人というイメージがあると思うんですが、そこをいい意味で裏切るというか。

秦:そうですね。“「ひまわりの約束」を歌っている人”っていう秦 基博の世間一般のイメージがあるとすれば、逆にありがたいというか。変化球を投げやすい。違ったアプローチをした時に、こういうことも表現できるんだって、意外性を感じてもらえるほどわかりやすいですよね。「美しい穢れ」は、弾き語りの曲を少なくとも1曲は入れたくて、一番最後に書いたんです。『青の光景』の中にどういう弾き語りがあるべきかっていうのをずっと考えて、マイナーコードの曲調にしたいと思って。そこから、どういう歌詞の世界がいいか、アルバムの中でまだ描けていない感情は何か、といったところからメロディが出てきて、歌詞を書いていきました。

――また、最後に収録されている「Sally」……過去には「Lily」という曲もあって、今回は「Sally」で。今後3部作になる予定じゃないですよね?(笑)

秦:「メリー」とか(笑)。いやいや、全然、考えて「Sally」にしようってわけじゃなくて。メロディを考えている時から「Sally」という言葉だけは乗っていたんですよね。

――失礼しました(笑)。この「Sally」からは、秦さんが文字通り<羽をひろげて>ここからまた更に羽ばたいていくような印象を受けました。

秦:これは『青の光景』といういろんな青のグラデーションの中で言うと、やっぱり空の青をイメージして。いろんな感情を行き来した最後に、アルバムがどう終わるかっていうのがすごく大切だと思って、曲ができた時から最後に収録しようと決めていたんです。テーマとして、なぜ人は旅をするのかっていうのを描いてますけど、僕が旅立つというよりは、旅立つ人を見送っている視点なんですよね。

――あ、曲を聴いてるうちに、自分がその視点に立って、秦さんが旅立つのを見送る感覚になっていました。

秦:ああ、なるほど。旅ということに関して言うと、進んで旅に出ようっていうタイプじゃないから、旅に出ることに対してあまりリアリティがないんですよね。だから、旅立つ人を見送る視点だったと思うんですけど。そのほうが自分の立ち位置というか、歌う距離としては相応しかったからこそ、こういう曲になったんだと思うし、それはどの曲も同じ。どの視点でどういうものを書くかっていう時、自分自身の価値観がおのずと入っていると思うんですよね。

――歌詞を書く上で気をつけていたことは?

秦:表現として深いところまでいけたらいいなっていうのは思ってましたね。本当にその言葉でいいのかと、自分と対話する感じというか……。自分にとってリアリティのあることって何なのか、それは本当の本当に思っていることなのか。

――何なら隠しておきたい面もさらけ出す覚悟で?

秦:そうですね。曲にするってことは、例えば隠しておきたいことがあって、こういう普段の会話では言えないけど、曲にしたら言えたりもする。自分の中にあるいろんな感情をどうやって掬い取るか、そこが大切だなと思って歌詞を書いてました。

――シングルでリリースされていた曲も、アルバムの中だとまた違う聴こえ方になりますし、アルバムって面白いですね。

秦:そうですね。「ダイアローグ~」から自分のサウンド感をイメージしてアルバムを作ってきたので、「ひまわりの約束」も「Q & A」も、『青の光景』に向かっていく途中のものであって。それをシングルとして先に切り出していくわけですけど、アルバムを聴くとそれが全体の中のどこにあったかっていうのがわかると思います。

――秦さんにとってもアルバムになって初めて気付くことがあるんですか?

秦:いや、そこは自分の中で、アルバムの中の立ち位置であったり、自分のやろうとしているサウンド感のどの部分をやっているのか、イメージを持ってやっていたので、初めて気付くみたいなことはなかったです。

――自分が目指すものを作り終えた今の気分は? イメージ通りのものができた、もうこれ以上のものはできません!という感じ?

秦:今はそうですね。全部出したな、スカスカだなって感じです。もう本当、何も残らないくらいすべてを注いだので。あとはどんな風に聴いてもらえるか、ですね。

――来年の3月からは『青の光景』を引っさげてのツアーが始まります。楽しみですね。

秦:そうですね。アルバムが3年ぶりってことは、アルバムツアーも3年ぶりなので(笑)。自分でアレンジした世界を、今度はライブでお届けできるかと。

――アルバムはライヴまでイメージして作ったんですか?

秦:「あそぶおとな」なんかはライブのことも考えて作ったんですけど、ほとんどはアルバムのこと、音源になることを考えてアレンジしてましたね。ライブではライブのアレンジになっていくのもあるし、それをどう作っていくか、年が明けたら考えたいと思います。

――インタビュー2へ

≪リリース情報≫
New Album
『青の光景』
2015.12.16リリース

【初回生産限定盤】CD+DVD
AUCL-192~193 / ¥4,167(税抜)
【通常盤】CD
AUCL-194 / ¥3,000(税抜)

[収録曲]
1. 嘘
2. デイドリーマー
3. ひまわりの約束
4. ROUTES
5. 美しい穢れ
6. Q & A
7. ディープブルー
8. ダイアローグ・モノローグ
9. あそぶおとな
10. Fast Life
11. 聖なる夜の贈り物
12. 水彩の月
13. Sally
<DVD> ※初回生産限定盤のみ収録
Behind of“青の光景”~interview, recording & live~
「Q & A」from 世界遺産劇場 -縄文あおもり三内丸山遺跡-
「ひまわりの約束」from 世界遺産劇場 -縄文あおもり三内丸山遺跡-
「言ノ葉―Makoto Shinkai / Director's Cut」MUSIC VIDEO

≪ツアー情報≫
【秦 基博「HATA MOTOHIRO CONCERT TOUR 2016 ―青の光景―」】
2016年3月5日(土)福岡サンパレス
2016年3月11日(金)岡山シンフォニーホール
2016年3月12日(土)広島文化学園HBGホール
2016年3月19日(土)秋田県民会館
2016年3月30日(水)ロームシアター京都 メインホール
2016年4月3日(日)ニトリ文化ホール
2016年4月10日(日)アルファあなぶきホール・大ホール
2016年4月17日(日)名古屋国際会議場センチュリーホール
2016年4月24日(日)新潟県民会館
2016年4月28日(木)神奈川県民ホール
2016年5月3日(火・祝)仙台サンプラザホール
2016年5月11日(水)大宮ソニックシティ 大ホール
2016年5月18日(水)オリックス劇場
2016年5月19日(木)オリックス劇場
2016年5月26日(木)本多の森ホール
2016年6月3日(金)東京国際フォーラム ホールA
2016年6月4日(土)東京国際フォーラム ホールA
◎詳細はこちら

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