「テレビはつまらない」という妄信を一刀両断! テレビウォッチャー・てれびのスキマが、今見るべき本当に面白いテレビ番組をご紹介。

 「もうやだぁ」と言いながら『アメトーーク!』(テレビ朝日系)「どうした!?品川」で弱々しく“ご本人登場”した後の品川庄司品川祐の一言一言や立ち居振る舞いは、いちいち完璧だった。

求められているものを120%で返す力は、彼の芸人としての能力の高さを如実に表していた。相方の庄司智春も登場し、「韓流スター」みたいになってしまった髪形を“あの頃”のような坊主頭にしろと迫られた品川は、泣く泣く自身の前髪をハサミで切り落とす。そんな品川を東野幸治が抱きしめると、芸人たちが次々とそれに続く。そんな彼らに自ら切った髪を投げつける品川。喜んでそれを浴びる芸人たち。なぜか自分も切ってくれと頭を差し出す庄司、切って投げる品川。
叫ぶ品川庄司……。それは『アメトーーク!』史上に残る、爆笑と感動的なシーンだった。最後に品川は芸人たちに向かって吐き捨てる。「お前たちも『どうした!?』予備軍だからな!」

 有吉弘行が品川を「おしゃべりクソ野郎」と命名した、「おしゃクソ事変」が2007年。それから5年、すっかり“文化人”然としておとなしくなってしまった品川だが、そんな彼に対し東野は同番組の「第13回企画プレゼン大会」で、「元気なくなってきて、髪の毛も染めて、(体が)タイトになって、俺の好きな品川じゃない」と訴え、「どうした!?品川」という企画をプレゼンする。「品川、もっと悪口言え!」と狂気じみた熱量で迫ったのだ。

視聴者の潜在的意識と合致したこの企画は、「おしゃクソ事変」がそうであったように客席ははじけ、結果、歴代最高の支持を集め実現した。

 番組では「品川祐ヒストリー」を「ギラギラ期」「調子ノリ期」「どうした期」に分けて紹介していた。その「顔」の変遷だけでも面白いが、何より興味深いのは、どんなに“成功”を収めても、その根本である過剰な自尊心と「カッコつけ」の部分だけはずっと変わっていないということだ。

 かつて、品川について「人から嫌われる才能を持ちすぎている」と評したのはケンドーコバヤシだ。お笑いも、ガンダムも、家電も、小説も、映画も、料理も、「日本の利権をすべて持っていく」(有吉)品川は、すべてを持ち前の努力と情熱で形にして成功させた。けれど、周りから愛される「かわいげ」だけは、彼が努力すればするほど離れていった。

 いまやお笑い芸人の“上がり”のひとつは「文化人」である。それは疑いようのない事実だ。それを過剰に非難するのは、芸人モラトリアムか、成功できなかった人のただの嫉妬だ。品川へ向けられた周囲からのそんな嫉妬心は、彼にもともとほのかにあったはずの芸人的なかわいげさえも覆い隠してしまった。逆に品川は「カッコつけ」を隠さなくなり、「韓流スター」のような髪形になってしまったのだ。

 東野は、その部分が気に食わなかったのだろう。

「昔大好きやったんですよ。クソ生意気でね、自分が爆笑とったらドヤって顔して、他人が笑いとったら苦虫かみつぶしたような顔をする。そういうハッタリ野郎が10年に一人はいてほしいのよ、個人的に」

 どんなにギラギラしていても、調子に乗っていても、脇役なのに主役ぶっていても、トークを横取りして「お笑い軽犯罪法違反」を犯しても、そんなイビツさこそが、東野が愛してやまない「芸人」像なのだ。

 「どうした!?品川」と品川をイジりながら腹を抱えて笑っていた東野だが、そこに今後の品川を救ってあげようなどという意図はたぶんない。限りなく無責任に、その瞬間ごとを笑っている。刹那的でむき出しの姿こそ芸人なのだ、という確信があるからだろう。

「どうした!?品川」は「どうした!?芸人」と言い換えることだってできる。だとしたら、それは歪んだ悪意と冷たい愛に満ちた東野流の芸人賛歌なのだ。

 だからといって、そう簡単に視聴者も品川を好きにはなれない。

 オンエア後、品川のブログには坊主姿の自身の写真がアップされていた。しかし、彼は坊主にサングラス、そして既にアゴひげを蓄えていた。そこには「かわいげ」などみじんもない、ただの「カッコつけ」の男がいた。

人間はそうそう変われないのだ。
(文=てれびのスキマ <<a href="http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/"target="_blank">http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>)

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