11月に入ると、京都では紅葉の季節を迎える。

 2014年には市内年間観光客数5,500万人を上回った、日本一の観光地・京都。

しかし、そんな古都には、知られざる深い闇が広がっている。ジャーナリスト・一ノ宮美成氏による『京都の裏社会 山口組と王将社長射殺事件の聖域』(宝島社)は、そんな京都の裏側を描き出す一冊だ。

 13年暮れ、山科区で起こった王将フードサービス社長・大東隆行氏の射殺事件は、いまだ犯人が捕まらないどころか、拳銃の発射音を聞いたという証言すらも得られず、捜査は難航を極めている。「餃子の王将」で全国的に知られる同社だが、一ノ宮氏の調査からは、ある不可解な人脈が浮かび上がってきた。

 故・上杉佐一郎氏は、部落解放同盟委員長であり、暴力団ですらも恐れをなした人物。王将は、全国展開にあたって上杉氏の力を使い、300億円もの大金をメガバンクから引っ張ってきた。
本書では、不動産ブローカーによる、こんな証言が引用されている。

「『王将』のバックは、なんといっても上杉佐一郎さんでしたよ。最盛期の上杉委員長の実力は絶大なもので、(税務申告の書類に)部落解放同盟のハンコがあれば税金フリーパスだったわけです。京都の財界人も、多かれ少なかれ世話になっていたんです」

 王将の創業家である加藤一族と、上杉やその異母弟である昌也氏は、かねてから昵懇の関係だった。昌也氏は、王将子会社「キングランド」が投資した「福岡センチュリーゴルフクラブ」の経営者であり、王将ではこのゴルフクラブへの貸付金が回収できずに赤字に転落した過去を持っている。実直な人柄で知られる大東社長は、王将を取り巻く裏社会と手を切ろうとしてトラブルに巻き込まれた可能性が低くない。


 さらに、別の側面からも王将の闇が見えてくる。創業者の長男・加藤潔氏の息子の3代目社長・貴司氏は、ウクライナ出身の女性と結婚し一児をもうけるも、妻と息子に対して激しいDVを繰り返すようになる。その後、貴司氏は息子を連れて海外へと逃亡し、7年を経た現在でもその消息はつかめていない。貴史氏は王将フードサービスの株式、約27万株を保有しており、配当金は毎年約2,000万円。現在でも、海外のどこかで逃亡生活を送っているといわれている。

 また、世界遺産として知られる「醍醐寺」でも、トラブルが勃発している。


 醍醐寺の境内に建立された「真如三昧耶(さんまや)堂」には、新興宗教団体・真如苑の開祖である伊藤真乗氏と二代目・伊藤真聰苑主の胸像が並べられている。さらに、醍醐寺開祖・聖宝理源大師1,100年御遠忌の中日法要の主催は真如苑が務めており、醍醐派の有力者は「醍醐寺は完全に真如苑に乗っ取られた」と漏らしている。

 真如苑開祖の伊藤真乗氏は醍醐派で得度したものの、1,100年の歴史を誇る醍醐寺と新興宗教である真如苑との蜜月関係は不可解と言わざるを得ない。一ノ宮氏が調べを進めていくと、そこにはカネにまつわる疑惑が見え隠れする。1987年には、真如苑から醍醐寺に渡った1億円とも1億4,000万円ともいわれる寄付金が行方知れずとなっているほか、08年にも落雷によって消失した上醍醐・准胝(じゅんてい)堂の再建のために4億円が真如苑から醍醐寺に寄進されたという話が持ち上がる。醍醐寺側は、ようやく翌々年になってその一部である1億円の寄付を認めることとなったが、醍醐寺の不透明な経理は信者でもさっぱり全容がつかめないという。


 さらに、醍醐寺にすり寄る新興宗教は真如苑にとどまらない。「ゆず」の北川悠仁の母・北川慈敬氏が教祖を勤める新興宗教「かむながらのみち」も醍醐寺に深く食い込んでおり、慈敬氏は醍醐寺仲田順和管長の就任式に参列。また、500万円の寄進を行っている。さらに、醍醐寺・仲田管長は北川悠仁と元フジテレビアナウンサー・高島彩の結婚式にも参列している。

 このほかにも、本書ではエムケイタクシーと民族系信組の関係、東本願寺の内紛、そしてパチンコ企業の「マルハン」を支える京都大学人脈など、古都を舞台にさまざまに暗躍する金と闇勢力が描かれている。この秋、京都に足を運ぶならば、美しい景色の裏側に広がる「京都の闇」にも目を向けてみるべきだろう。

(文=萩原雄太[かもめマシーン])