「わかんないよなぁ……わかんないんだよ」

 スタッフから「OKでーす!」という本番終了を告げる声がかかると、ネプチューン堀内健は疲れ果てた様子でつぶやいた。

 その言葉に、それまで笑いをこらえていた、くりいむしちゅー有田哲平をはじめとする出演者たちが、ドッと笑った。



 これは『全力!脱力タイムズ』(フジテレビ系)の本編終了後、数秒流れるシーンだ。この番組は、有田が「アリタ哲平」としてキャスターを務める“報道”番組である。報道番組らしく、経済学者の岸博幸、アルピニスト・野口健、犯罪心理学者の出口保行といった3人の「解説員」が並び、ゲストと対峙する。

 そのゲストのうち1~2人は俳優やアイドルなどで、彼らはたいてい普段はしないメガネなどをかけ、報道番組仕様になっている。今回(15日)はHey! Say! JUMPの中島裕翔だった。そしてもう一人のゲストとして、必ず芸人が呼ばれる。
それが堀内だった。

「報道番組に出られたことは?」とアリタに問われると、堀内は報道番組らしく静かに言う。

「いや、初めてですね。あのー、嫌いじゃないんで。こういうニュース番組というのは。今日は解説員の方もいらっしゃるので、いつもより一歩踏み込んだ意見を、お茶の間に、テレビを通して訴えたいと思います」

 スタジオには「天才芸人!堀内健 なぜそんなに面白いのか」と題されたパネルが用意されている。
「堀内健の最大の魅力」とか「どんな人?」「やりすぎ!ホリケン伝説」「人生の大ピンチ」などと見出しが書かれ、肝心なところは隠されている。これをもとに、隠されている部分をめくって解説していくという、情報番組でよく見る形式である。

 だが、この番組は一筋縄ではいかない。まずは、これまでのホリケンの略歴をまとめたVTRがあると振るアリタ。しかし、流れ始めたのは「日本の論点」と題する「学校のトイレで排便しない小学生」問題を扱ったVTRなのだ。

「一回止めましょう」

 アリタは冷静に対処。
「これは来週やる予定」だと説明し、あらためてVTRを振る。しかし、流れたのは、やはり同じもの。

「最初から、やり直しましょうか?」と堀内は言うが、「流しちゃったんで、こっちから……」とワケのわからないことを言うスタッフ。アリタが「ホリケンの魅力は、今日は語らない?」と確認するとスタッフがうなずき、パネルはそのまま片付けられていく。

 結局、「学校のトイレで排便しない小学生」問題になると、アルピニストの野口は、「ウンチといえば、ベースキャンプですよね」とテーマと関係のない話を語りだす。番組内で「といえば解説」と呼ばれる、恒例の流れだ。


 すると、「正気か、お前!」と激高するホリケン。

「打ち合わせ、すごいやったんだよ、これ! おい、アリペイ! ハメやがったな、この野郎! 裏切られた気持ちだよ!」

 そんなホリケンにアリタは「手違いですので」と、冷たくあしらうのだ。

 このように『脱力タイムズ』は、“トラブル”だったり、解説員がまったく関係ない話をしだしたりと、本来のテーマに全然たどり着かないという報道コント番組である。ゲストの芸人はひとりそれに翻弄され、なんとかツッコもうとする。だが、誰もそのツッコミに対してまともな反応をしてくれず、どんどん追い込まれていく。

 バラエティ番組には、ある程度のルールが存在する。
こうツッコめば、こういう反応がある。あるいはこうボケれば、こういう反応がある――。芸人たちは、そうしたことを経験則で知っている。だから、自分の言動によって起こることが予測できてしまう。

 だが、この番組は違う。「わからない」のだ。
「わからない」ことは不安だ。ルールが壊され、追いつめられていく芸人。だから、普段見せたことのないような表情が出てしまう。それがたまらなく面白い。不安定な部分をあえて残し、予定不調和な現実を見せつける。そういった意味では、文字通りの“報道”番組なのかもしれない。

『脱力タイムズ』に以前ゲスト出演した出川哲朗は本編終了後、驚嘆して言った。

「有田……攻めてるねえ」

 これまでさまざまな番組において、自由奔放なボケで大暴れしてきたホリケン。いわば“壊し屋”だ。しかし、この番組で翻弄され“壊れた”のは、ホリケンのほうだった。

「アリペイちゃん、今日、オレ何点だ?」

 あまりにもいつもと勝手が違いすぎて、自分の出来が「わからない」不安に駆られたホリケンが、思わず有田に尋ねた。

「100点です」

 手だれの芸人が経験則で積み重ねてきたルールを壊したときにこそ、その芸人の「全力」が見られるのだ。
(文=てれびのスキマ http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/)