2012年のキングオブコント。初の決勝進出コンビでありながら、当時歴代最高得点で優勝。

そして、その優勝のインパクトをも凌駕した「なんて日だ!!」というキラーフレーズ。バイきんぐは、一瞬にしてお笑い界を席巻した。あれから4年、バラエティ番組の常連になってもなお、毎年一度の新ネタライブは欠かさない。今回、コンビ結成20年の節目となるライブDVD『ハート』を引っ提げて、日刊サイゾーに2度目の登場。風格さえ漂い始めた2人が、20年の月日に思うこととは――。

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――結成20周年おめでとうございます。
赤ちゃんが成人になるほどの長い間、コンビを続けてこられたということですよね。

西村瑞樹(以下、西村) 組んだ時は、20年後までは考えていなかったですけど(笑)。

――20年間続いたポイントは、なんでしょう?

西村 やっぱり「あきらめない」という強い気持ちですね。

小峠英二(以下、小峠) 真矢ミキさんか(笑)。

――一口に20年といっても、もちろん、いろいろありましたよね……。

西村 結成7年目ぐらいですかね、どこの事務所にも所属しないでフリーでやっていた時はしんどかったです。
もともと僕ら、大阪吉本で芸人を始めて、2000年くらいに東京に出てきたんですけど、そのとき入った事務所も、ちょっと合わなくてやめて。それから3年間くらい、我慢の時期が。

小峠 単純に、事務所のオーディションに、まったく引っ掛からなかっただけなんですけど。

――気持ちは折れなかったですか?

西村 あの時は結構、解散話もありました。

――それを乗り越えたきっかけは?

西村 ……「あきらめない」という強い気持ちで。

――そこにつながるわけですね(笑)。
2012年に「キングオブコント」で優勝して、一躍その名がお茶の間に知れ渡ったわけですが、今あらためて、あの優勝がコンビニもたらしたものはなんだったと思いますか?

西村 今あるもののきっかけですからね。すべての始まり。

――優勝したことが、プレッシャーになったりとしたことは?

西村 チャンピオンの称号の重みとかではないですけどね。これからテレビに出させていただく間に結果を出していかなきゃな、という気持ちはありました。

小峠 これからヘタなネタ、面白くないネタはできないなっていう。「キングオブコント」という大会で優勝したからには、それなりのネタをやらなくちゃいけないんだろうなっていうのは、確かにありましたね。


――お2人は、優勝してからもあまりはしゃがないというか、「売れたぜ!!」みたいな感じを全然出さない……。

西村 「売れたぜ!!」は、ないですよ(笑)。だって、売れるまで16年かかりましたから、はしゃぐなんて気持ちにはなれなかったです。

小峠 早く売れた人って、やっぱすごいと思う。16年かけてやっと食えるようになったやつが、偉そうにできる理由がないというか。「オマエ、16年もかかったじゃねぇか」って。
たぶん、これからもそれは変わらないと思う。

――忙しくなっても、年に1回コントライブをやるというのは、お2人とも共通で思ってらっしゃることなんですか?

小峠 そうですね。

西村 さまぁ~ずさんだってバナナマンさんだって、もっと忙しいのにやってますからね(笑)。僕らがやらないと、逆にサボってるみたいですよね。

――以前、小峠さんがインタビューで「バイきんぐのコントは“ボケとツッコミ”というより“バカと注意”だ」とおっしゃっていて、すごく面白いなと思ったんですよ。

小峠 西村のやっているキャラクターって、ボケてはいないんですよ。
例えば、ここからあの扉を出るとしたら、ボケの人はわざと扉に挟まったり、扉に頭をぶつけたりすると思うんですけど、おそらく西村は自然につまずいてコケる。扉に頭をぶつけて外に出る人はたぶんボケていて、つまずいている人はバカなんですよね。すごく微妙で細かいところなんですけど、その差だと思います。

――それに対して“ツッコミ”ではなく“注意”する。

小峠 そうですね。例えば……扉に頭をぶつけてコケた人には「何やってんだよ!」ってツッコむんでしょうけど、つまずいた人には……やっぱり「何やってんだよ!」か(笑)。いや、「なんでそんなところでつまずくんだよ!? バカじゃねえか」ですね。これが注意ですね。

――ツッコミはお客さんに「これがボケです」と提示する、みたいなところがありますけど、注意は「正してあげよう」という、思いやりが見え隠れする気がします。

小峠 そう、そうなんです。「あなたのやっていることは間違ってますよ」って教えてあげているんです。

――その関係性も、 20年の中で培ったものなのですか? それとも、最初からベースにはありましたか?

小峠 まぁ、「キングオブコント」の2~3年前くらいからですね。この形ができたのは。これが一番しっくりくる形だった。

――お2人が、もともと持っている素養も関係していますか?

小峠 たぶんそう思いますね。僕はもともとボケだったけど、気質はツッコミですからね。それなのに、ボケをやっていたのが、そもそも間違いだったんでしょう。僕、ホント細かいんですよ、ネタに関して、ものすごく細かい。特に間とか、何秒、ヘタしたら1秒以下の0コンマ何秒とかまで要求してしまう。普通はそこまで言われたらイヤだと思うんですけど、本当に微妙な差なんでね。それをちゃんと文句言わずにやってくれるのはありがたいですね。普通は怒ると思う。

――西村さんは、小峠さんのどんなところが自分に合っているから、ここまで続いたと思いますか?

西村 笑いに対してのストイックさですね。絶対にかなわない。

――ストイックエピソード、教えてください(笑)。

小峠 ストイック小話(笑)。

西村 そうだなあ、なんだろう。バイトもいろいろやってたんですけど、食えてない頃ね。ネタを考える時間があるバイトしか(小峠は)探していなかった。ドライバーとか。害虫駆除も、駆除した後に待機時間があるので、その時間にネタを考えられる。

――あくまでも、芸人活動あってのバイト探し。

西村 僕なんか“バイトしんどいなぁ”くらいしか考えてなかったですもん(笑)。そのへんの意識は、本当にすごいなあと思います。

――いまバラエティ番組でバイきんぐさんを見かけることは、まったく珍しいことではなくなりましたが、お2人にとってバラエティ番組に出ることは、どんな意味を持っているのでしょうか?

西村 もともとそれが、やりたいことでしたから。そういうテレビを見て僕らは育ちましたから。

小峠 なぜネタをやっていたかといえば、テレビに出るためなんですよね。今でも、もっともっと出たいと思ってます。

西村 『徹子の部屋』(テレビ朝日系)とか出てみたいよな。まだないんですよ。『笑っていいとも!』(フジテレビ系)も、テレフォンショッキングは出られなかったし。コーナーには呼ばれたことがあるんですけどね。長寿番組に出たいです。

――『徹子の部屋』まだなんですね。意外です。小峠さんは、何か出たい番組はありますか?

小峠 僕ね、池上彰さんに会ってみたいです。

西村 なんでだよ(笑)。

小峠 僕、世の中のこととかまったく知らなくて、2年くらい前から新聞を読み始めたんです。徐々になんとなく社会情勢や政治がわかり始めて、いま池上さんにお会いして、いろいろ聞いてみたいですね。わかりやすく解説してほしい。

――なぜ、新聞を読み始めたんですか?

小峠 マジで、バカはだめだなと(笑)。たぶんひと昔前だったらバカな芸人もOKだったんですけど、今バカのポジションは、アイドルだとか、ぺこ&りゅうちぇるだとか、そういう人たちのものなんですよ。芸人のバカは、もう笑えない。需要がないんです、今は。そこのポジションはたくさんいるから、鈴木奈々ちゃんを筆頭に(笑)。そうなった時に、「あぁそうだよな」って思って、読み始めましたね。

――社会情勢に詳しくなると、作るネタも変わってくるのですか?

小峠 いや、ネタはやっぱり変わらないですね(笑)。

――“バカと注意”しかり、バイきんぐさんはお笑い界でも独特の地位を築いていると思うのですが、そんなお2人がいま脅威に感じている手芸人さんは誰ですか?

西村 若手じゃないかもしれないけど……2人ともハゲてるという点では、トレンディエンジェルですかね(笑)。これは、永遠につきまとう問題。

小峠 トレンディエンジェルの斎藤(司)と話しててスゲエなと思ったのは、アイツね「ハゲをもっとポップにしたい」って言うんですよ。もう、見ている景色が違うなと。

西村 すごいとこ行ってるな(笑)。

小峠 とてもじゃないけど勝てないですよね、ハゲという面では。

西村 ハゲの意識が高いよ(笑)。

小峠 考えたことないですもん。自分がハゲているだけではなく、それをどうやって世に広めようかなんて。ハゲの、いわゆる底上げを図ろうとしているわけですから。

西村 最近、若手のネタ番組を見ても思うんですけど、本当にレベルが高くて。僕らの若手の時よりも、絶対レベルは上がっていると思う。1年目から面白いって、なんだよ!? ってね。一時期より少しずつネタ番組も増えてきてるし、僕らも、うかうかしてられませんね。

――だからこそ、こうやって定期的にコントライブも続けているんですね。

小峠 DVDの幕間のVTRとか、一日で撮ったものをブッタ切って差し込んだだけで、すごく効率重視ですけど(笑)。

――いや、あの「はじめて2人で○○」シリーズ、すごく萌えます。こちらのDVD『ハート』でオススメのコントは何ですか?

小峠 私は「陶芸家」ですね。西村のサイコ感が出てる(笑)。

西村 サイコ感でいったら「スピード違反」かなぁ。2人ともイカレてますからね。

小峠 結局、注意してる人も、最後イカレちゃうんだよ(笑)。
(取材・文=西澤千央)