(テレビ)ゲームは定義できるんでしょうか?



ゲームの黎明期からこっち、世界中の研究者によってさまざまな議論が行われ、幾多の定義が発表されています。しかし、どれもしっくりこない。理由は簡単で、ゲームを支える技術が進化していくから。そのたびに既成概念を打ち破るゲームが登場し、定義が上書きされていくんです。つまりゲームは自由で、これからも無限の可能性が開けているんですよ、イエーイ!

・・・というわけには、なかなかいかないんですよね、これが。

特にゲームデザイナー(プランナー)にとって、現在は苦難の時代です。ゲームの大作化が進んで年間リリース本数が減少し、続編の割合が増えた結果、ベテランでも続編の末端パートを延々と作り続ける状況に。モバイル(スマホ)ゲームも同様で、ここ1~2年で急速に大作化が進んだ結果、家庭用ゲームに近づきつつあります。

こうした現状を打破しようと、有志が立ち上がりました。業界志望の学生と若手向けの企画塾「座・芸夢」です。発起人はソーシャルゲーム大手のディー・エヌ・エーで採用を手がける馬場保仁。5月に開催された合同就職説明会「HEAT渋谷」の仕掛け人でもあります。6月24日に第一回目がスタートし、第4回目まで開催が予定されています。

もともとゲームデザイナー出身で、数々のゲーム開発に携わってきた馬場。そこから人事・採用にジョブチェンジしただけに、現状に対する危機意識が強いといいます。これに対して参加者も敏感に反応し、初回は当初40人の定員に160名もの応募が殺到。最終的に学生・社会人を半分ずつ、70人が抽選で選抜される事態となりました。
ゲームの神様、遠藤雅伸降臨。ワークショップで若手ゲームデザイナーが「ゲームのおもしろさ」を思い知る
学生・社会人あわせて70人がディー・エヌ・エー会議室に集合

遠藤雅伸登場


さて、記念すべき第一回で講師を担当したのが「ゼビウス」「ドルアーガの塔」などの生みの親で、現在はゲーム研究者として活躍中の遠藤雅伸(東京工芸大学)。最近では「人はなぜゲームを途中でやめるのか」といった、ゲームデザインにまつわるユニークな研究で知られており、同テーマの発展研究が継続中です。
ゲームの神様、遠藤雅伸降臨。ワークショップで若手ゲームデザイナーが「ゲームのおもしろさ」を思い知る
ゲームのおもしろさについて学術的な立ち場から講義する遠藤雅伸

遠藤はヨハン・ホイジンガやロジェ・カイヨワといった「遊びの古典的研究」をベースに、独自のゲーム論を展開。後半ではグループに分かれてオリジナルの双六をデザインするワークショップを主導しました。

ゲーム研究で必ずといっていいほど引用される両大家。しかしコンピューターの活用で遊びの領域が急拡大しました。「一人で遊べる」「面倒な計算を肩代わりしてくれる」「独自の論理空間内で遊べる」などのパラダイムシフトです。遠藤は「インタラクティブ性があり、おもしろいものは、すべてゲーム」だといいます。

一方で遠藤は「日本のゲームはコンセプト重視で、この視点でいえば世界より20年近く進んでいる」とも説明しました。ゲーム開発者時代はこれを無意識のうちにおこなっていた遠藤。しかしゲームデザインについて学術的に研究するようになり、海外の研究者やジャーナリストなどと交流するようになって、あらためて気付かされたのだそうです。
ゲームの神様、遠藤雅伸降臨。ワークショップで若手ゲームデザイナーが「ゲームのおもしろさ」を思い知る
古典的研究をベースに独自の解釈を踏まえて論を展開

一例をあげると、先の研究で判明した「温存」という概念。「いつまでもゲーム世界に浸りたいので(=ゲームをクリアしたり、やり込み要素をコンプしてしまうと、それ以上続けることができないので)、あえてゲームを中断してしまう」などの現象です。脳内でゲームを進行させる、いわば究極のエアプレイ。ところが、これを欧米のゲーマーや研究者に説明しても、うまく理解してもらえないんだとか。たしかに、ちょっとメンドクサイですよね。

この日本的ゲームデザインの一端が垣間見えたのが、後半の双六ワークショップでした。盤面には円周上に12個のマス目が並び、サイコロを1個ずつふって、コマが1周するごとに得点が加算。先に3点獲得した(3周した)プレイヤーが勝利するというものです。このマス目にさまざまな指示を書き込んで、より楽しめるゲームにしていくのがワークショップの目的。シートを変えて3セット行われましたが、ここで遠藤が示した指示は、非常に興味深いものでした。
ゲームの神様、遠藤雅伸降臨。ワークショップで若手ゲームデザイナーが「ゲームのおもしろさ」を思い知る
最初は大人しかった参加者もどんどんヒートアップ

遠藤が示した指示


1.減点要素はやめて、加点要素にする
「1回休み」「1マス戻る」よりも「2回サイコロがふれる」「1マス進む」の方が場が盛り上がるし、プレイ時間が短くできる。プレイ時間が短いとリプレイ率が上がる。

2.一発ギャグのようなマスは作らない
最初は盛り上がっても、何度もやると飽きるようなマスはやめる。

3.ゲームがものたりない場合は勝利条件を変える
チップやトランプなど、うるさくない範囲で特殊なコンポーネントを使うのはOK。特殊な条件(1/3の確率で発生するアクションなど)もトランプを使うと手軽に表現できる。

4.あえてゲームバランスを崩す(バランスブレイカー)
ゲームバランスを調整しすぎると、プレイ時間が延びがちになるし、勝っても負けても終了時の徒労感が大きい。むしろ多少理不尽でも良いので、誰かが勝ち始めたら一気に勝負が付くような要素を加えて、ゲームの進行にはずみをつける。勝った側はそれだけで嬉しいし、負けた側も「運が悪かったから」と納得できる。プレイ時間も短縮できるのでリプレイ率が高まる。
ゲームの神様、遠藤雅伸降臨。ワークショップで若手ゲームデザイナーが「ゲームのおもしろさ」を思い知る
トランプなどを組み込むチームもみられた

遠藤は4について「『サイコロを振って1が出たら、その時点で勝利』くらいの指示で丁度良い」と説明しました。これにはゲーム業界におけるビジネスモデルの変化とも関係しています。パッケージゲームでは最初にウン千円の代金を支払ってもらうため、その分だけきっちり楽しめる内容にすることが重要です。そのためゲームバランスがしっかりとられた、ガチンコなゲーム体験が求められました。

しかしスマホで主流のF2P(基本プレイ無料のアイテム課金)ゲームでは、アクティブユーザーを増やすこと。つまり、できるだけ多くの人に何度も繰り返して遊んでもらうことが重要です。課金してもらうためには、大前提として遊んでもらわなければいけない。そのためには「勝ってもへとへと、負けた側は二度とやりたくない」といったゲーム作りは厳禁。結果としてバランスブレイカーのような要素が求められてきた、というわけです。
ゲームの神様、遠藤雅伸降臨。ワークショップで若手ゲームデザイナーが「ゲームのおもしろさ」を思い知る
バランスブレイカーが組み込まれたシート

遠藤は「できるだけ変な指示を入れた方がゲームはおもしろくなる」といいます。実際に遠藤がアドバイスをするたびに、会場が盛り上がっていきました。中には「自分の黒歴史を話したら5マス進む」「プロポーズをして成功したら勝ち」などのマスも登場。もはやゲームとして破綻しているような気もしますが、遠藤は「プロになるほど、こういった視点がなくなっていく。自分たちがおもしろいという気持ちに正直になってほしい」と語りました。

遠藤自身も「リプレイモチベーションを前提としたゲームデザインとは何か」について、今後も研究を重ねていきたいといいます。その答えもまた、技術の進化と共に変化していくことでしょう。いわば終わらない禅問答を解き続けるようなモノ。でも、だからゲームっておもしろいんですよね。そうした「未来のゲーム」が、この塾の参加者から登場してくることを期待しましょう。
ゲームの神様、遠藤雅伸降臨。ワークショップで若手ゲームデザイナーが「ゲームのおもしろさ」を思い知る
遠藤雅伸(左)と発起人の馬場保仁(右)

ゲームの神様、遠藤雅伸降臨。ワークショップで若手ゲームデザイナーが「ゲームのおもしろさ」を思い知る
講義内容がびっしりと書き込まれた受講者のノート

スゴロク演習の詳細は著書「遠藤雅伸のゲームデザイン講義実況中継」に記されています。また「座・芸夢 」の第2回は7月21日(火)にユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの簗瀬洋平をゲスト講師に迎えて実施される予定です(申込はこちら)
(小野憲史)

ライター小野憲史が動画でレビュー