「けいおん!!」秋山澪がほしがるベースアンプを買ってみた」の記事でライターの松浦達也さんが、ベーシスト澪が精通しているミュージシャンに「キース・ムーン」を挙げていましたが、突っ込んでおきます。
ちゃうねん!
キース・ムーンを敬愛しているのはドラムの律の方なんだよ!!
まあ律が大好きなので澪も当然知っているのですが、澪は「音楽マニア」というわけじゃないんだよ! もともと文芸部志望だったのが、真面目な性格もあって、軽音部に入ったことで徐々に音楽にはまっていったんだよ!!

とまあぼくのような「けいおん!」オタクの戯言はこのへんにして。
面白かったのは楽器をやっていて「けいおん!!」を見たこと無かった人が「意外と音楽ネタがしっかりしてびっくりした」と言っていたことでした。
そう、この「けいおん!」シリーズは音楽に関するディティールが驚くほど細かい。
では音楽アニメなのか?と言われたら答えは。最初の頃は「萌えアニメ」として受け入れられていたこともありましたが、萌えだけで成立しているわけでもない。じゃあだらだらと女子高生が過ごしているのを見て、なぜ日本が熱狂しているのか?

T.M.Revolution西川貴教のtwitterの発言が各地で話題になっていましたが、それに呼応してGLAYのHISASHIも「けいおん!!」の話題に食いついていたのは見逃せません。特にこの二人は以前からガンダムネタなどをラジオで話すほどのアニメ好きなのでなおのことですが、そうではなくとも音楽関係者で「けいおん!!」を見ている人は実は数多くいます。
音楽アニメでも萌えアニメでもない不思議なこの少女群像劇「けいおん!」シリーズ、何故ここまで人気があるのかの秘密の一つとして、今回はスタッフの「音楽へのこだわり」を挙げてみます。

作中に出てくる楽器は全て実在のもの。特に秋山澪のフェンダー・ジャズベースは昨年の放送後、驚くほど売れました。平沢唯のギブソンレスポールは高価(20万以上)なのですが、比較的安価なレスポールタイプのギターは飛ぶように売れ、今も楽器屋さんに行けばレスポールコーナーに唯のPOPが貼られている店が多いです。

田井中律が使っているドラムはYAMAHAのHipgig。琴吹紬の使っているキーボードはKORGのTRITON Extreme
中野梓の使っているギターはフェンダー・ムスタング。山中さわ子先生が使っているのはエピフォン・フライングVで、倉庫にしまってあったのはギブソン・SG
楽器に詳しい人ならキャラの性格付けと照らし合わせてみるとニヤっとするかもしれません。例えばカート・コバーンも使っていたムスタングはサイズが小さいため、小柄な梓にはジャストフィット。しかし「暴れ馬」の呼称も持つなかなか演奏が難しい楽器で、梓の真面目で芯が強くも気の強い性格にぴったりと言えます。

作中で唯が腕をぐるぐる回しながら演奏をするシーンがありますが、これはthe whoのピート・タウンゼントが使っていたウィンドミル奏法。先程も書いたドラムの律が憧れているのは同じくthe whoのドラマーキース・ムーン。「けいおん!!」20話で学祭後の彼女たちを見て「Kids Are Alright」を思い出した人も多いでしょう。イメージカットではアンガス・ヤングなどのロックヒーローもさらっと、何の解説も無しに登場します。

加えて原作時から主人公のキャラクター達の名前がP-MODELとthe pillowsから取られていたのではないか、というのはファンの間では有名な話。P-MODELの平沢進は「間違えてないか?私は平沢進だぞ。平沢唯じゃない。」とtwitterでネタにしており、中野テルヲの元には中野梓フィギュアが差し入れられ、秋山勝彦も田井中モデルのスティックを買うという茶目っ気を見せていました。


追い打ちのように、クラスメイトの名前を見ると若王子耳夫から取られたと思われる「若王子いちご」や中西俊夫から取られたと思われる「中西とし美」など電気グルーヴプラスチックスなどのメンバーをパロディにしたと思われる名前がずらり勢ぞろい! 本編とは関係ないのですが分かる人が見たらクスリと笑ってしまう、そんな濃さががっちり盛り込まれているのです。
BD・DVDのジャケットも凝ったものが多く、たとえば 「けいおん!」3巻のジャケットも KORNの「See You on the Other Side」のオマージュなのではないかとネット上で話題になりました。

メガミマガジン2010年 10月号では山田栄子監督がインタビューの中で、普通の子がふと難しい音楽用語を喋ったりするときにギャップとかわいらしさを感じる、と語っていました。ですから作中ではあくまでも音楽シーンはメインではないです。そう、この作品が描いているのは女子高生の何気ない日常の心理。しかしそのエッセンスとして、彼女たちの絆になっている音楽をしっかりと描き込むことで、数多くのファンの心をさらにつかんだのは間違いありません。

加えてスタッフの思惑として「これを見て音楽を初めて欲しい」という思いも強いようです。一期の最初の方で出てくる「ふわふわ時間」 「Don’t say“lazy”」などの曲は入門編としては持って来いの曲作りが意図的にされています。

それから一年経った今、その当時から楽器を初めていた人が挑戦できるような歯ごたえのある曲として「GO!GO! MANIAC」「Utauyo!!MIRACLE」が挑戦状のように叩きつけられ、ちゃんとバンドスコアも発売されています。キャラクターの演奏も、最初の頃は弾いている自分の手元ばっかり見ておぼつかない感じなんですが、後半になってくると前を見て余裕を持って演奏できるように成長出来ている描写があるのはなかなか楽器経験者のツボを突いています。

音楽経験者の「あるある」を言葉数少なくもさりげなく映像で刺激しながら、音楽に触れたことのない人に対しても手を差し延べているのがこの「けいおん!」シリーズ。この押し付けがましくなく、しっかりと丁寧に作られている部分が魅力の一つであるのは間違いないでしょう。


最終回も放送され、コミックス最終巻も発売間近ですが、衰えるどころか加速し続けている「けいおん!」人気。むしろ今まで「女の子ばっかりのアニメでしょう?」と敬遠していた人も、作中に散りばめられている様々なパーツを見る程にハマっていく作品なので、これを機会にBD・DVDを見てみるのはいかがでしょうか。(たまごまご)
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