明日、3.16に公開の「映画プリキュアオールスターズNewStage2こころのともだち」。2月にスタートした新シリーズ「ドキドキ!プリキュア」の4人を加え、なんと総勢32人のプリキュアが大集合。
2004年の「ふたりはプリキュア」から今年で10年めに突入したプリキュアシリーズの劇場版最新作にはどんな思いが込められているのか。去年に引き続き梅澤淳稔プロデューサーにじっくり聞いた。

こっち向けるのはマリンしかいない

───今回の映画のポスターはプリキュアが全員横向いてるんですね。
梅澤  今までの「映画プリキュアオールスターズ」のポスターはみんな正面だったんですが、あまりにも人数が多くなって。
───2008年の「オールスターズDX 1」では17人、5年目になって「オールスターズNewStage2こころのともだち」ではなんと32人……約2倍に増えたんですね。
梅澤  そうそう、だから全員が正面向いちゃうと、画面が顔で埋まっちゃって背景が生かせなくなってしまう。
そうすると「去年も一昨年も同じだな」と(笑)。人数増えたぶん、ひとりひとりが小さくなるだけ。
───初期の速報ポスター(スピードポスター/写真の梅澤さんが手にもってる表紙と同じ絵柄)では、キュアマリンだけこっち向いてましたよね。
梅澤  こっち向けるのはマリンしかいないっていう。
───ん? だれかひとり向けたかったんですか?
梅澤  向けたかったというか、マリンなら辛抱たまらずにこっち向いちゃうだろうなと。今回はちょっとかっこいいポスターにしたいなと思っていて、全員横向き。
ポスターを撮影する時、AKB48のようにちゃんとセットを組んで整列してもらったんだけど、マリンだけこっち見ちゃった。「こらマリン! こっち向くなって言ってんだろ!」って私が怒鳴って、仕切りなおして撮ったのがこれ(笑)というのが私の中の設定というか妄想。
───楽しい!
梅澤  でも、ひとりこっち向いてるのもこれはこれで面白いかもって話になって、「このバージョンはスピードポスターに採用」ということになったんですね。そして、この撮影はいつ行なわれたかってことは、映画を最後まで観ればわかるという仕掛けになっている。
───凝ってますねえ。映画、たいへん面白かったです。
相当な自信作とお見受けしました。
梅澤  自信作というか、プロデューサーとして「プリキュア」に関わるのはたぶんこれが最後かも…なので。集大成にしたいとは思って取り組みました。
――去年の「NewStage1」についてお話をうかがったのを読み直したら、「MaxHeartだけの話になるかもしれない」っておっしゃってるんですよね。あのときから初代プリキュアの登場を考えていたんですか?
梅澤  もちろん。「映画プリキュアオールスターズ」を鷲尾天プロデューサーの「DX」シリーズから「NewStage」に引き継いだとたん「梅澤が担当したプリキュアしか使わないのか」と言われもしたけれど、そんなつもりはさらさらない。
ただ、全員がしゃべる設定でシリーズを続けていくことは、いろいろな理由で不可能だったってだけなんですよ。かなりの反発があるだろうなというのは覚悟していましたが。
───この時期の映画としては、直前のプリキュアからスタートしたばかりの最新シリーズのプリキュアにバトンタッチするという目的は果たさなくてはならない。今回だと「スマイルプリキュア!」から「ドキドキ!プリキュア」へ。それだけでも妖精を含めて軽く10人は超えてしまう。
梅澤  ただ、それだけになってしまっても、ルーティンで面白くない。
だとしたらいきなり初代がしゃべったらびっくりするだろうなと。
───うれしかったです。

32人で立ち向かってしまったら集団いじめに

梅澤  数が増える一方のプリキュアと敵との戦いをこのまま描いていったら「どっちのパワーバランスが強いのか」って話にしかならないんですよね。私は「向こうがそうくるなら、こっちはさらに大きな力を出すまでだ」って論理を子どもたちには見せたくないんですよ。敵をどんなに巨大にしても、32人で立ち向かってしまったら集団いじめみたいに見えてしまうし。
───……想像するだけでもイヤですね。

梅澤  ドラマ性もなくなっちゃう。だから、本当に伝えたいドラマのストーリーに対応するゲストキャラクターを、プリキュアオールスターズが全力でサポートするという話にシフトしたんです。
───そこは、いちばんうかがいたかったことの一つです。こんなに大勢になる前、最初に手がけた「プリキュア5」の映画「鏡の国のミラクル大冒険」2007年)から、梅澤さんの「プリキュア」ってじつは戦ってないですよね。敵に勝つというよりも、結局は、許しであったり、共生の選択であったり。敵っていうのはわかりやすく外側にあるものではなく、自分の一部なんだよというメッセージが強い。今回それがもっとも顕著に出ていると思いました。なにせ「敵組織」がない。
梅澤  それは私の中でのターゲットの問題ですね。誰のために作っているのか、誰が見るのかっていうことが一番重要ですから。「プリキュア」のメインターゲットの3歳から6歳の女の子にとって一番の敵は、たぶんお母さん。「ちゃんと食え、はやく着替えろ、はやく寝ろ」と自由を阻害してくる。幼稚園の先生も同じですね。あとは友だち。おもちゃ取り上げたり、意地悪してきたり。邪悪な敵組織なんていないじゃないですか。そこに向かってプリキュアが「自分たちに害をなすものは排除するんだ!」と必殺技で容赦なく攻撃して消滅させる様子を描くのは、私にはかなりグロテスクなんです。
───憧れの存在であるプリキュアから「お母さんも先生も友だちも排除していいんだ」ってメッセージを受け取ってしまうことになりかねない。
梅澤  うるさいけどお母さんの言うことはもっともだし、自分が悪かったんだと気づいて謝ってほしい。理不尽な意地悪をしてくる友だちを「二度と遊ばない」と排除するんじゃなくて「それは悪いことだよ」「あ、そうか、ごめんなさい」「じゃあまた一緒に遊ぼう」って会話をきっかけに仲良くなってほしい。おたがい話せばわかることじゃないですか。で、メインターゲットの子どもたちのまわりで起こっていることを、プリキュアたちにやらせているだけなんですよ。
───そのなぞらせかたがすごくていねいですよね。だから単純な「お説教」ではなく、大人が観ても「ドラマ」として響くものになっている。
梅澤  もう一つは、未就学児を一人で映画館に行かせるわけにはいかないから、親も一緒に行かざるを得ない。そこで親が退屈したら「もう映画より遊園地にしようよ」ってなりかねない、それは困る(笑)。「プリキュア面白かったね!」って笑ってる子どもが見上げたら、お父さんお母さんがボロ泣きしてるってのが私の理想。
───あー、その光景、よく見ますね(笑)。
梅澤  私の子どものころの映画といえば、ゴジラとか怪獣ものが主流でした。当時は「ゴジラかっこいい!」とか「キングギドラやっつけろ!」としか感じてなかったんですけど、今見るとその水面下で起こってる人間ドラマって深いんです。「サンダ対ガイラ」なんて涙なくしては見られない、とんでもないドラマなんですよ。プリキュアでも、親と子がそういうふうに感じてくれればいいなと思う。
───そのときはわからないけど、なにかが心に引っかかってることに大人になってから気付く。今回はとくにそんな作品である気がしました。

身近な世界観にしたいなと

梅澤  「NewStage2」では、プリキュアオールスターズ32人が、いじめに対してどういう対処をするかっていうのを見せたいと思いました。ちょうど企画を進め始めたときに、特にいじめがクローズアップされていて。
───大津の事件とか。
梅澤  そうです。子ども向けの作品をつくっている人間として、やっぱり避けては通れないのではないか、いじめにきちんと取り組んでから「プリキュア」を卒業したいという思いが私の中にあった。だけど、重い気持ちになるような映画にはしたくないなと。私なりにいじめの本質ってなにかってことを考えていくと、ひとに暴力を振るうってことよりも、軽はずみに言ってしまったことで取り返しがつかなくなったりとか、悪いとわかってるんだけど言えなくて、ついつい人に流されてついていってしまうとか、そっちの問題の方が根が深いと思うんですね。
――妖精学校の生徒のグレルは、学校のみんながプリキュアに憧れてるのが面白くない。不満を抱えて孤立しているうちに「プリキュアなんてやっつけちゃえ」という自分自身の影の声に引きずられて破壊的な行動に出てしまうという設定。そこに巻き込まれた気の弱い生徒のエンエンは、グレルが影といっしょに暴走していくのを止められなくて苦しんでるんだけど「見て何も言わなかったんなら、おまえも同罪」って言われる。
梅澤  妖精学校のなかにいじめる妖精を登場させてしまうと、生々しい話になってしまうので、そこはファンタジーとして悪いところだけを抽出した敵を作ろうって話になった。それが、グレルが呼び出してしまう「影」です。
――「鏡の国のミラクル大冒険」にも影が出てきたと思うんですけど、それは脚本の成田良美さんと梅澤さんどっちのアイデアだったんでしょうか。
梅澤  う~ん、どっちだったっけ……? とにかく「鏡の国」でやりたかったのは一秒前の自分より、今の自分の方が成長している、成長してほしいという願い。
───それが、鏡の中の自分の影と現実の自分との関係。
梅澤  その前の映画が、スプラッシュスターの「チクタク危機一髪!」(2006年)。このときは私、併映の「デジモンセイバーズ」のプロデューサーだったんです。「チクタク危機一髪!」は「このままだと時間が止まってしまう、大変だ!」っていうSF的な設定だったんですけど、その大変さって未就学児の子どもたちにはあまりピンときてないように見えたんですよ。作品はとても面白かったんですけど、時間が止まってしまったらどんな大変なことが起こるのかってのは未就学児には観念的で、ちょっと難しいかもしれないのかも、と感じてしまって。だからもうちょっと身近な世界観にしたいなと思ってて、「鏡の国」。鏡なら毎日見てるし。
───子どもの出会う最初の「不思議」かもしれませんね。
梅澤  鏡から出てきた自分は、今の自分とは違う、今の自分のほうがより成長しているということを「ダークプリキュア」という存在で表したんです。「ダークプリキュア」の声優さんは、当時私がプリキュア5がもう一組いたらこういうキャスティングにしたいなってひとたちなんですよ。
───へええ!
梅澤  そのときの「(ダーク)ドリーム」が「スマイルプリキュア!」のキュアビューティー、西村ちなみさんですからね。でも、「鏡の国」でもまだ子どもたちには距離があるのかなと感じて、つぎは「お菓子の国」にした(yes!プリキュア5GoGo!「お菓子の国のハッピーバースデイ」2008年)。これ以上身近のものはないだろうと。で、つぎが「おもちゃの国」(「フレッシュプリキュア!おもちゃの国は秘密がいっぱい!?」2009年)だんだんとわかりやすいところに変えていってるんです。
(アライユキコ)
(後編に続く)