現在放送中のTVアニメ「たまゆら~もあぐれっしぶ~」。広島県の竹原に引っ越してきたカメラ好きの高校生・沢渡楓と、その友人たちの日常や友情を描く、「たまゆら」シリーズの最新作です。

佐藤順一監督と、新キャラクター三谷かなえを演じる茅野愛衣、初めての対談。後編は、今後の展開どころか、かなえの将来についての話題も?
(前編はこちら

かなえちゃんって、友達はいますか?

――茅野さんは、かなえをどんな風に演じようと意識されていますか?
茅野 この世界観の中で、異質なものではいたくないと思ったので、主張し過ぎない方が良いのかなと。OVAや1期(「hitotose」)では、当然、かなえちゃんのことは描かれていないんですけど。そのときも彼女は、同じ世界で同じ時間を過ごしていると思うんです。だから、新キャラではあっても、一緒の空気の中に馴染んでいられたら良いなという気持ちで、アフレコに臨みました。
――佐藤監督は、茅野さんの演じるかなえに、どのような印象を?
佐藤 最初の登場シーンが「ARIA」と「たまゆら」を通じて、初の悪役登場かっていう感じなんですよね。

――1話では、電柱の影から楓たちを見ていて。2話では、突然、写真部の部室に来て「あなた、写真部を作ったんですって!」とだけ言い残し、去る。
茅野 「ですって!」って、しゃべり方からして悪役みたいで。
佐藤 それをなじませるのは、難しかったでしょうね。
茅野 難しかったです。どう考えても、悪役の登場ですけど、きっと悪い子じゃないとは思っていたので。
それを、どうやって表現しようかなって。
佐藤 僕の方は完全に(放り投げるジェスチャーをしながら)、ぽ~んって感じですね(笑)。
――特に何も伝えず、茅野さんが、どう演じるのかなと?
佐藤 そうです。あのセリフも、悪役っぽくやろうと思えばいくらでもできるんですけど。そうはしないというバランス感覚ですよね。なるほどなあ、と思いました。
今の話を聞いていても、まさにそうだなって。「hitotose」までの間も、映らないところにずっといた空気は感じました。
――3話で、かなえは緊張してうまく話せなかっただけだと判明しましたが。茅野さんは、2話までのアフレコの時点では、そういった情報をまったく知らなかった?
茅野 はい。後の回の台本を頂いてから、そういうことだったんだ~って。毎回、それが台本をもらう楽しみでもあるんですけどね。
あ、でも私、かなえちゃんについて、すごく心配なことがあるんです……。
佐藤 なんですか?
茅野 かなえちゃんって、友達はいるんですか?
佐藤 楓たちの他に? いますいます(笑)。
茅野 ああ、良かった(笑)。楓ちゃんたちと一緒のシーン以外は、図書館とかで一人でいることが多くて。大丈夫なのかなって。
佐藤 かなえはマイペースなので。
周りの友達も、普段はそんなにちょっかいを出してこないんですよ。

茅野さんは、その存在が人を癒す

――茅野さんは、かなえと、楓や楓の友達との関係性を、どう捉えていますか?
茅野 よくぞ、あの仲良しメンバーの中に入っていけたと思います。写真部の部室に行っただけでもすごいですよね。あのドアを開ける勇気って……。
佐藤 中で、ワイワイ楽しくやってるところをガラって。
茅野 でも、なぜあそこで、悪役のような一言を発して出て行ってしまうのか(笑)。

佐藤 「写真部を作ったんですか? すごいな~」って言いたかったのに。「作ったんですって? じゃあ!」になっちゃったと(笑)。
――楓が、学校の部活紹介のとき、壇上に上がってテンパってしまったのと同じような?
佐藤 そういう意味では、似てますね。
茅野 (最近アフレコした回でも)楓ちゃんとかなえちゃんの二人で、よく「はわはわ~~」ってなってますよね。先日録った、Blu-ray&DVDのCMも面白かったです。楓ちゃんと二人で、ずっと「はわはわ」言ってて。
佐藤 二人揃ってやられると、ちょっとした麻薬性がありますね。面白かったので、またどこかに使いたいです。まあ、この「はわはわ」するのも、「ARIA」からの伝統ですよね。
茅野 あ、たしかに。
――「ARIA」で主人公を演じた「はわはわ」の先輩・葉月絵理乃さんも、「たまゆら」に出演されていますね。
佐藤 ええ、写真家(志保美りほ)になって。
――あまり「はわはわ」はしないですが。
佐藤 立派になりました(笑)。
――はい(笑)。ところで、「たまゆら」はイベントも多い作品です。茅野さんは、4月の進級イベントで初参加されましたが、どのようなお気持ちで臨まれたのですか?
茅野 その場で新キャラとキャストが発表されて、サプライズとして登場する形だったので。楽屋で、ずっと緊張してました。
佐藤 でも、登場したら、そんなに緊張していたとは全然思えなかったですよ。
茅野 お客さんが本当に暖かかくて。みなさん、笑顔で迎えてくれたので……。
佐藤 発表したとき、会場がどよめきましたからね。
茅野 「ARIA」が好きなことを、ずっとラジオなどでお話していたので。それもあったのかなって思います。あの後、「佐藤順一監督作品への出演、おめでとうございます」といったお手紙もけっこう頂きました。中には、「夢って本当にかなうんですね。自分も頑張ります」という、お手紙もあって。
佐藤 はあ……すごいですね。茅野さんは、作品を通してだけではなく、その存在が人を癒すんですね。
茅野 (驚いて)いえいえ。
佐藤 茅野さんが何かをすれば、それが、みんなの気持ちを和ませて、幸せにする。
――まるで、呼吸をするように人を癒す。
佐藤 ええ、そんな感じで(笑)。すばらしいですね。
茅野 そんなことはないです!(笑)。あ、でも私も、佐藤さんとお会いしてみて、佐藤さんご自身が癒しなんだなって思いました。
佐藤 本当ですか?
茅野 イメージ的に、「ARIA」や「たまゆら」のキャラクターに似てる感じがしていて。
佐藤 かつては、アリア社長(丸い体型の火星ネコ)と言われていましたが……。
茅野 はい、アリア社長に似てるなって。
佐藤 やっぱり!(笑)
――肯定した!(笑)
茅野 でも、笑うときの表情とか、いらっしゃるだけで癒しになるというか。本当に思い描いた通りの方でした。

茅野さんの目線は意志の強さを感じる

――今後の展開では、かなえが3年生という点は、やはりポイントになるのでしょうか?
佐藤 そうですね。受験もありますし。気になるところですよね。
――将来の夢や目標も気になります。
佐藤 そのあたりの話も出て来ますね。作品のコンセプト的には、高校生の頃って、まだ夢や目標がはっきりしない感じだけど、徐々に将来のことを意識して目指していく時期だよね、という感じですから。まあ、キャストの人に聞くと、「いや、そうでもなかったです」って声が多いんですけど……。
――高校生のときから、すでに声優をしているキャストもいますしね。
茅野 業界的にはそうかもですね。でも、私はすごくいっぱい夢がありましたよ。
佐藤 どんな夢が?
茅野 小学校の卒業文集に、「ポエムを書く人になりたい」とか、よくわからないこと書いてたり。いろんなものになりたかった時期がありました。高2のときに、美容系に進むと決めるまでは、ふわふわしてました。決めたのは、美容系の仕事をしていた母の影響なんです。身近で一番素敵だと思う女性が母なので。その憧れもあって。
佐藤 へえ~、お母さんのお話にも興味がわきますね。
茅野 母、めちゃくちゃ綺麗です! 年を重ねる度に素敵になっていく気がして。一番の憧れなんです。
佐藤 そうなんですか。全然、話が変わってしまうんですけど。アフレコが始まってから、最初にかなえちゃんのセリフに関して指示出しをしたとき、驚いたんですよ。目力がすごくて。茅野さんは、相手を真っ直ぐ見るじゃないですか?
茅野 そうですか?
佐藤 茅野さんの目線は、ものすごいはっきりしてて、太いんです。意志の強い感じがする。だから、(見られた)こちらが「ウッ!」って(笑)。
茅野 そんな~すみません!(笑)。
佐藤 周りの人から聞いた印象は、癒し系の人って感じで。もちろん、そういうところはあるんですけど。仕事の現場で話すと、迷いなくこっちを見てる感がある。今、お母さんのお話を聞いて。お母さんが自分に自信のある、自分をちゃんと好きでいられる人なのかな、と。きっと茅野さん自身にも、そういうところがあるのだと思いますよ。
茅野 初めて言われました。
――「何、言うつもりよ?」って見てたわけではないんですよね(笑)
茅野 そんなわけないですよ~(笑)。かなえちゃんのことを一番知っているのは監督なので、少しでも情報をくださいという気持ちなんです。だから、指示していただけるのはすごく嬉しいんですね。たぶん、その気持ちが目に……。
佐藤 目力がすごい人はたまにいますけど。こんなにも、太い目線がバンって来る人は、あまりいないですね。

バッドエンドになってたら、どうしよう……

――監督が茅野さんから感じたような芯の強さは、かなえにもあるのでしょうか?
佐藤 う~ん。そこまでの強さは、まだ先の話かもしれないですね。もし、3期があれば、開眼してるかも?
茅野 あ、3期があっても、かなえちゃんは大学生になってるんですよね。
佐藤 そうですね。合格していれば(笑)。
茅野 ああ、頑張れ、かなえちゃん! でも、部活に3年から入るって珍しいですよね。受験もあるし。
佐藤 楓ちゃんが一緒にやりましょうって言ったから、断れなかったとか?(笑)
茅野 ええ? 受験に失敗して、やつあたりとかしないでほしいな……。「ぽって部長が写真部なんか作るから!」とか、すごいバッドエンドになってたら、どうしよう(笑)。
――さすがに、それは無いかと(笑)。では、最後に、読者へのメッセージをお願いします。
茅野 かなえちゃんという新しいキャラクターが加わって、「たまゆら」に新しい風が吹いているはず。ぽって部長にとっても、先輩と部活をやるのは大きなチャレンジ。ずっと、ぽって部長を見てきた方なら、こんな風に変わっていくんだ、とか、新たな可愛いさや素敵さをいっぱい見つけてもらえると思います。また、かなえちゃんも、とても愛おしいキャラクターなので。受験もあると思うし、いろんな意味で応援してもらえたら、嬉しいです(笑)。
佐藤 今後、新キャラクターのかなえがどうなっていくのか、楽しみにしていただければと思います。また、OVAはお父さんとの話、「hitotose」が友達との話でしたが。「もあぐれっしぶ」は、もう少し幅広く。学校、友達、それからお父さんという感じで。楓ちゃんを見守る感じが強くなってます。写真部を作ったようにアグレッシブなチャレンジをしていくので、ぜひ暖かく見守っていただければ。今回、プロデューサーの間で言われてるテーマが「娘萌え」なんですよ。「お父さん、大好き」って言われたいという(笑)。そんなことも盛り込まれた、見守る系のアニメです。
茅野 独身の方は、結婚したくなっちゃうかもしれないですね。実際に家族を持ちたいなって。
――少子化問題の解決にもつながるアニメ?
茅野 大きなテーマになりましたね(笑)。
佐藤 そのくらい、広めていきたいですけどね(笑)。
(丸本大輔)