「むかし、あるところに一人の少女がおりました。早くに母を亡くした彼女は医者である優しい父親に育てられました。
しかし、15年前、悲劇が起こりました。父親が勤務先の病院で突然倒れ、手術の末に亡くなったのです」
「お前……あの小山内先生の娘か!」


11日から始まった新ドラマ「アリスの棘」(TBS系、毎週金曜22時)。主人公・水野明日美(上野樹里)は医療ミスで亡くなった父のかたきを討つべく、名前を変え、新人医師として大学病院に潜り込む。復讐のターゲットを定めると、「不思議の国のアリス」になぞらえた予告状を送り、追い詰める。かと思うと、あっさり復讐であることを告げてしまう。

冒頭のやりとりが登場するのは、第一話スタートからわずか15分足らず。

最初のターゲットである蛭子雅人(六平直政)相手に、選手宣誓のごとく、復讐中であることを宣言する。
しかも、蛭子が「なんでもします」と懇願すると、殺害するのをやめる。
明日美ちゃん、けっこう手の内を明かしちゃってるけど、口封じしなくて大丈夫!?

大胆かつ不敵。上野樹里演じる主役に新たな女性像を見た。その女子力の正体をひもといていきたい。

明日美の次なる復讐のターゲットに選ばれたのは消化器外科の講師、伊達理沙(藤原紀香)。
「患者は実験用のマウス」「医者は3人殺してからが1人前」などとうそぶく強烈なキャラだ。技術と美貌でマスコミにももてはやされる、野望の美人女医といった役どころで、年下のイケメン社長とのプールデートでは見事な肢体も披露。若い頃から出世欲が強く、医師としての実績ほしさに、マニュアル片手に腹腔鏡手術を行い、明日美の父親を死に至らしめたという。

明日美は「水をやると、煙が出るフラワーボックス」を上司の名前で贈るなど、やや回りくどい嫌がらせを展開。かと思うと、正々堂々と伊達のデータ改ざんをバラして見せたりもする。伊達の部屋に侵入したのを婚約者に見つかり、伊達が暴言を吐く姿の動画を見せる。
準備の良さもさることながら、説得できると信じて疑ってない姿に胸を衝かれる。

私はひどいことをされた。
よって、復讐は正しい。
事実をつきつければ、
敵は反省し、
善意の第三者は協力してくれる。

そう信じこんでいるように見えるのだ。しかも、動画を見せる明日美の表情はいくばくかの媚を含む。
無邪気さを装い、あわよくば……を狙うときの女の顔だ。かくして、伊達の婚約者は協力者に転じる。お見事である。

第二話では、明日美の正体を知る新聞記者・西門(オダギリジョー)が現れ、「名前代えてまでこの病院で、君は一体なにをするつもりなんだ」と問いただす。明日美は「勝手な妄想はやめてよ」と相手にしないが、西門が「15年前のことを謝らせてほしい」とかきくどくと、「だったら、私のことは黙っててそれしかあなたにできることはない」と告げる。威風堂々の“復讐なう”宣言。
すがすがしいほどに正直だ。

「気づいてたよ、最初から。君も覚えてるでしょ、俺のこと」と臆面もなく言ってのける、西門のイケメンぶりにも圧倒される。ナンパか、これはナンパなのか。西門は小山内教授が急逝した際、薬剤を横領していたという情報をつかみ、大々的なスキャンダル記事として取り上げた過去がある。だからこその謝罪なのだが、明日美にすげなく扱われると「かわいくねえな」ともらす。
冷たくされることに慣れていない。さすがイケメンである

さて、明日美の復讐は着々と進む。次なるターゲットは、伊達の指導医だった千原淳一(田中直樹)。伊達は水野に麻酔を打たれて意識を失う直前、「悪いのは千原よ!」と訴えていた。蛭子が伊達を告発し、伊達が千原を告発する。このドラマでは毎回、「アイツが悪い!」のバトンが次々と手渡されていく。

伊達は患者のデータを改ざんしていたことを告発された挙句、明日美によって腹に「T.OSANAI」とタトゥーを刻まれ、放逐される。劇中で明確な解説はないが、「患者は名もなきマウスではない」というメッセージが込められているらしい。せっかくだから、女子力も下げとくか♪という女同士ならではの残忍さもにじむ。

一方、千原は溺愛する娘を誘拐され、動揺が高じてVIP患者の手術に失敗。また、謎の脅迫者(正体はもちろん、明日美)に脅されるままに、VIP患者に暴言をぶつけ、病院にいられなくなる。一通り復讐を終えると、明日美は正体を明かし、「医者をやめないと、あなたの娘がいじめられることになるわよ」と脅す。伊達のときと比べると対応が若干マイルドなのは、千原を慕う幼い娘に、自分の姿を重ねたからかもしれない。

今夜はいよいよ第三話。聖林大学付属病院の顧問弁護士を務める日向誠(尾美としのり)が復讐のターゲットに浮上する。今度はどんな復讐が行われるのか。愛妻家のやり手弁護士という設定から考えると、そろそろ嫁ネタが登場しそうだがどうだろう。そう来るか! と度肝を抜かれる準備はできてる。

(島影真奈美)
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