そんなメモリヤルイヤーを祝うかのように、ロッキー新章『クリード チャンプを継ぐ男』が公開された。

アメリカ・フェラデルフィアに住む30歳の無名ボクサー、ロッキー・バルボアのサクセスストーリーを描いた映画『ロッキー』。公開当初は無印ながらもその年のアカデミー賞を受賞し、脚本と主演を担当した当時30歳の無名俳優シルベスター・スタローンは、主人公同様にアメリカン・ドリームを掴んだのはあまりも有名な話。
以降、1979年『ロッキー2』、1982年『ロッキー3』、1985年『ロッキー4/炎の友情』、1990年『ロッキー5/最後のドラマ』、2006年『ロッキー・ザ・ファイナル』と6作のシリーズを重ねた。

ロッキー初心者も、マニアも楽しめる作品
新章『クリード チャンプを継ぐ男』の主人公は、かつてのライバルにして盟友、アポロ・クリードの息子アドニス(マイケル・B・ジョーダン)。ロッキーはトレーナー兼マネージャーとして、友の忘れ形見を新たなチャンプへと育て上げていく役どころに変わっている。
ロッキーシリーズにおいて、初めて脚本の手がスタローンから離れた点が大きなトピックス。それもあってか、これまでの『ロッキー』シリーズを観たことがない人でも楽しめるストーリーになっている。40年前、ヘビー級タイトルの座を二度争ったロッキー・バルボアとアポロ・クリード、ふたりのボクサーがいた……それだけ押さえておけば大丈夫。
でも、やっぱり過去シリーズを観ていた方が楽しめるのも間違いない。かつてロッキーが語ったジョークを活かした台詞まわし、スウェットを着てフィラデルフィアの街中をロードワークする姿、そして美術館前のいわゆる「ロッキー・ステップ」を巡るシーンなどなど、若き日のロッキーの姿を知っていれば、より一層感慨深いはずだ。
「しくじり先生」としてのロッキー・バルボア
『ロッキー』DVDに収められているインタビューで、脚本・主演を務めたスタローンは、作品のテーマを次のように語っている。
《大事なのは、人はひとりではいられないこと。
同様に『クリード』でもこんな台詞がある。
《人はひとりじゃない。人生の目的と理解できる仲間がいれば、何でも克服できる》
つまりロッキーシリーズは40年かけ、変わらないテーマを描いてきた物語、ということがわかる。むしろ、まだ何者でもない若者・アドニスが新たな主人公になったことで、このテーマ性はより明確になっている。
そしてもうひとつ、変わらない点がある。登場人物たちが何度もしくじり、そこから立ちあがって壁を乗り越えていく姿だ。だからこそ、『ロッキー』は面白い。
振り返ればロッキーはこの40年間、常にしくじり続けてきた。
男として、夫として、ボクサーとして、父として……今にして思えば、ロッキー・バロボアこそ、映画史上に残る「しくじり先生」だったわけだ。
そんなダメな自分と向き合い、エイドリアン、恩師ミッキー、盟友アポロの叱咤激励によって立ち上がり、困難にぶちあたっていくのがロッキーシリーズの変わらない魅力だ。
そもそも、ロッキーシリーズが6作まで続いたことも、ある意味では「しくじり」だ。
その後も、ロッキーがリングにもあがらない『ロッキー5/最後のドラマ』で「最後」とうたいながら、16年の時を経て『ロッキー・ザ・ファイナル』へ。50歳を越えたロッキーが再びリングにあがった。
もちろん、4以降が好き、というファンもいるはずだ。筆者自身、酷評されることが多い『ロッキー5』が好きだったりする。だが、蛇足だったといわれれば、その意見にも頷ける自分がいた。
それがどうだろう。『クリード』によって、4以降のロッキーがたどった人生に、より意味が生まれているのだ。アポロの死も、息子との確執も、エイドリアンとの死別も、すべてはこの『クリード』のために……そんな風にすら思えるのは、監督・脚本を務めたライアン・クーグラーのロッキー愛があればこそだ。
今回のロッキーの役どころである「トレーナー兼マネージャー」は、かつて『ロッキー5』でも経験し、失敗した立ち位置だ。そのしくじりを経てどんな指導者像を描いていくのか!? 『クリード』で新たなロッキー・バルボアの姿を見届けてもらいたい。
そして、1月1日からはCS「FOXムービー プレミアム」で歴代ロッキーシリーズが順次放送される。この機会に、映画史が誇るしくじり先生の歩みも復習をオススメしたい。
(オグマナオト)