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「わたしを離さないで」8話。あえて視聴者に憎まれる水川あさみ

2016年3月11日 10時00分 ライター情報:杉江松恋
「楽しいけど哀しいです。なんで楽しいのが今なのかなって」

「わたしを離さないで」第8話は、カズオ・イシグロの原作『わたしを離さないで』第19章の1部にあたる短い箇所を拡げた回だった。拡げた、といっても無理に引き延ばしたわけではない。3度目の「提供」が決まり、残された時間がごく僅かになった酒井美和(原作のルース。水川あさみ・演)と、介護人を務める保科恭子(原作のキャシー・H。綾瀬はるか・演)との関係に焦点を当て、総決算が行われたのだ。
過去の行き違いについて、互いを許す雰囲気が生まれたのが前回第7話だった。第8話ではさらに美和の気持ちが掘り下げられた。その結果生まれた穏やかな日々と、恭子との別れを描くが主眼となった回だったのである。冒頭に引用したのは、そうした時間について恭子が触れた言葉だ(話し相手になるのは、別の提供者である加藤。演じる柄本佑は2004年の「世界の中心で、愛を叫ぶ」以来12年ぶりの綾瀬との共演になる。

どこをとっても無駄がない


回る走馬灯というべきか、貼り雑ぜ屏風というべきか。
今回使われたのは、コラージュの技法である。過去7話分のカットを抜き出し、恭子と美和の会話の合間合間に挿入していく後半部の展開は圧巻であった。「陽光学苑編」で子供時代の恭子(鈴木梨央・演)が変顔をしてみせた場面のように、まさかあれも使われるのか、というようなピースが次々に登場し、視聴者の頭の中にイメージを形作っていく。そのための小道具として使われたのが大事なものを収めておくための宝箱で、本作が記憶についての物語であるということを改めて強く認識させられた。
ピースの中でも特に意表をつかれたのは土井友彦(原作のトミー。三浦春馬・演)が、美和が大事なことを言った瞬間におならをしたことだ。「陽光学苑編」で美術の時間に友彦が、「これは現代アートです」と言い張っておならをして見せた場面にこれは対応している。原作にはないおならのエピソードがわざわざ挿入されたのはそのためだったか、と感服したものである。親の叱言と茄子の花は千に一つも無駄がないと言うが、ドラマの構成の緊密さを実感した瞬間だった。
もう1つ。第8話の最後に恭子がついに友彦と結ばれる場面があった。このときのカットは恭子の位置が上である。第4話でブラウン・コテージの先輩・浩介(井上芳雄・演)と同様のことがあったときには、恭子が下だった。この違いはおそらく、恭子の意思を反映したものなのではないか。

ライター情報

杉江松恋

1968年生まれ。小説書評と東方Projectに命を賭けるフリーライター。あちこちに連載しています。

URL:Twitter:@from41tohomania

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