NHK 大河ドラマ「真田丸」(作:作三谷幸喜/毎週日曜 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時)
3月27日放送 第12回「人質」 演出:田中正
視聴率アップの功労者は義理に厚い上杉景勝か「真田丸」12話
イラスト/エリザワ

ドラマの半分で話が反転する


真田が信州小県を平定。上田城も完成。
真田安房守昌幸(草刈正雄)は、徳川家康(内野聖陽)と手を切るために、上杉景勝(遠藤憲一)に助けを求め、信繁(堺雅人)を人質に出す。
こうして真田と徳川との長い戦いが幕を開けたーー。

人を陥れる策士ばかりの「真田丸」の中で、義を重んじる真っすぐな性分な上杉景勝(遠藤憲一)はホッとする存在。
12回の視聴率が、ぐいっと上がって17.9%(ビデオリサーチ調べ/関東地区)になったのも、景勝のその安心する人間性がメインになっていたからだろうか。

遠藤憲一はここのところ「結婚式の前日に」(TBS/15年10が月期)、「お義父さんと呼ばせて」(フジテレビ/16年1月期)と立て続けに低視聴率ドラマに出ていたが、主演だった「民王」(テレビ朝日/15年7が月期)は人気もあって、4月15日(金)にはスペシャルドラマも放送されるので、本来ポテンシャルは高いはずだ。

遠藤演じる人の好い上杉景勝と一緒にいると、信繁(堺雅人)も単に父・昌幸に似たお調子者なだけでなく、知恵の使いどころを変えて、真人間化していく。

12回の信繁は、理不尽な出来事から庶民を救う。祝言と暗殺が同時多発する皮肉がすごく面白かった11話の視聴率が15.6%だったので、なんでだよーと憤懣やるかたない気持ちだったが、12回を見ると、やっぱり義理に厚くて弱者(庶民)の味方による勧善懲悪なストーリーのほうが多くの人たちに好まれるものなのかと思わされた。

くるくると知恵のよく回る信繁は、12回ではさながら一休さんみたい。信繁がまず知恵を働かせ、そこに景勝がさらに知恵を上乗せして事件を解決している姿を見て、遠藤憲一と堺雅人に足利義満と一休さんを演じてほしいと思ったくらいだ。12回はそれほど牧歌的であった。

信繁がいい人になっている分、嫁の梅(黒木華)が小賢しさを発揮する。
純朴そうに見えたのは演技に過ぎず、きり(長澤まさみ)を牽制しながら信繁をみごとに射止めたことが明らかになる。こわい、怖すぎる、梅。赤ん坊のあやし方がものすごく優しく手慣れている感じに見えるが、それすらなんだかこわい。「(私の進む道は)源次郎様の行くところ」と発言したきりよりも、梅のほうがこわい。「まとも過ぎて面白くない」ときりに言われた梅は実は最も「まともじゃなくて面白い」人物なのかもしれない。

ともあれ、凝りに凝った11回の後に、あっさりシンプルな人情話(景勝の領地に暮らす猟師の争いの仲裁)をもってきたうえに「鉄火起請」という当時の風習も盛り込んで興味を引く戦略が巧み。

脚本は三谷幸喜で変わらないのが当然だが、演出が11、12回と同じ田中正にもかかわらず、あまりにもテイストが違うことに驚いた。
ただ、似たパターンをひとつ発見。11回は23分以降喜劇が悲劇に、12回は24分以降、景勝の本音が見えて状況が反転するのだ。ちょうどドラマ一本分の半分の地点である。
12回は24分で、景勝が「これが本当のわしじゃ」と、かっこつけて人の頼みを断れないが、実際は手出しする余裕がなくほったらかしになってしまうことをカミングアウト。それによって信繁との関係がいっそう親密になり、やがて上杉が真田を許し、味方にすることへ繋がっていく。

時間的にも半分で人間の表と裏が同じくらいの分量で描かれている「真田丸」、とても緻密に計算されていることを感じる。

ところで、景勝はよく「真(まこと)」という言葉を発する。人間を見る時「真」を重要視するタイプのよう。「まこと」は「真」とも「誠」とも書くが、「真田丸」では「真」を使っている。「真田」だから当然だろう。「誠」といえば「新選組!」。
三谷幸喜は大河ドラマでは「真(田)」と「誠」という「まこと」を問う作品
に関わっていると思うと、三谷にとって「まこと」とは何かが気になってならない。
そんな気持ちのまま、いよいよ天正13年の夏、上田城の戦いがはじまるーー。
(木俣冬 イラスト/エリザワ)