NHK 大河ドラマ「おんな城主 直虎」(作:森下佳子/毎週日曜 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時)
10月22日(日)放送 第42回「長篠に立てる柵」 演出:福井充広  
「真田丸」「おんな城主直虎」「西郷どん」大河ドラマはなぜBLの香りを振りまき中なのか
「おんな城主 直虎 後編」 (NHK大河ドラマ・ストーリー)/NHK出版

タイトルのごとく、織田・徳川対武田、1ヶ月ほどに及ぶ長篠の戦いの回である。
女性が主人公の大河も、主人公の直虎(柴咲コウ)が後見人をつとめる万千代(のちの直政/菅田将暉)の活躍を描くターンになってきて、雰囲気がだいぶ男大河にシフトしてきている気配だ。

とはいえ、万千代はいまのところ戦国武将ではなく、「日の本一の留守居」の道を邁進中。

なかなか苦労を強いられている万千代。
下足番をやらされていて、何かあるたび、15歳なのに、と癇癪を起こし、万福(のちの小野亥之助/井之脇海)に抑えられている。それはそれで楽しみのひとつではある。
視聴率は、このところ、11%台が4週続き、下がりも上がりもしていない。一定数のファンが定着していることは強い。
11%の世帯が、独特な女大河を毎週楽しみにしている。

脚本家の森下佳子のうまさは、地味になりがちな「日の本一の留守居」状態をコミカルに仕立てて、退屈させない一方で、ただのライトな話にはしていなくて、ところどころに、没落させられた家の人間(潰れた家の子)であることの屈辱と、しっかり持ち続けているプライドを描いていることだ。

家がないことがどれほどのことなのか、それを、若いながら万千代が乗り越えて、やがてお家(直虎時代の戦わない井伊家でなく、武門の井伊と言われていた歴史まで)を復興させる。そのカタルシスが計算されている、女性には珍しい理系な設計をする作家。だから、安心だ。朝ドラ「ごちそうさん」(13年)のラストの収束のさせ方、じつに鮮やかだったではないか。


万千代は、ただわめいているわけではなく、草履を素早く処理する方法は考えるし、武器(槍)を丁寧に整備するなど才気を見せる。
その手柄を、憎らしい、酒井の一門のひとり小五郎(タモト清嵐)に横取りされそうになるが(ここで怒り心頭に発した万千代を本多正信が止める場面は、オーソドックスながらぐっとくる)、家康(阿部サダヲ)はちゃんと気づく。
ああもうすぐ、家康と直政の強い信頼関係が築かれるのだとワクワクしていたところ、え、そっち? と思う方向性に突然道がそれた。
そこは、BLの小道だった。

戦のあと、万千代は、家康の寝所に呼ばれる。身綺麗にしていくように言われた万千代は、貞操の危機を感じる。

「織田家の前田利家様 武田の高坂弾正さま みな主君と契を結んだうえでのご出世だったと聞く」と、過去の例をあげ、「(酒井の一門を出し抜く)御仏が下さった好機」とまで思い詰め(思い詰めてるとしか思えない。万千代は思い込み激しい子だよね)覚悟を決める万千代。気合を入れて、新しいふんどしを身につける。

男性と男性の愛情は古代ギリシャから存在しており、前述の前田利家や高坂弾正のように、戦国時代にもその逸話は多く、そういうエピソードを描く作品もあるが、大河ドラマでは2018年に控える「西郷どん」が、大々的にBL大河になるのではと報道されていたとはいえ、あけすけに解禁はされていない。

ただ、2016年の大河「真田丸」の4話、織田信長(吉田鋼太郎)に打たれた明智光秀(岩下尚史)の顔がうっとりしたように見えるシーンでも、BLを意識したものにちがいないとSNSは湧いており、その兆候は徐々にあったといえるだろう。
そして、今回、この時代にBL(BLという言葉は使っていない、「主君と契」のほかは、「そういうこと」「そっち」とか曖昧になっている)はあった発言。
これで「西郷どん」への布石はばっちりだ。ホップ・ステップ・ジャンプだ。いったいなんのために、誰のために。これまで大河を楽しんでいた男性歴史ファンはどう思っているのだろうか。

森下佳子は、大河だけでなく、すでに朝ドラでもBL描写を盛り込んでいる。しかもそのときも菅田将暉で。

「ごちそうさん」103話、菅田演じる、主人公め以子(杏)の息子・泰介と野球の仲間との関係を、ふ久(松浦雅)が勝手に妄想する傑作エピソードだ。キャッチャーの泰介は、ピッチャーの友人の球を受けることが喜び的なことを勝手に創作する、ふ久の妄想会話が愉快だった。

そんなこんなで、朝ドラ、大河、2大国民的番組で、BLの香りを振りまいた森下佳子、歴史に名を残すことになるであろう。

42話は演出も思わせぶりだった。
「いっそまこと色小姓にしてしまう手もあるかな」とにじりよる家康。そこに雷のSE。

「ここはひとつまことそういうことにしてしまわぬか」雨のSE。
 いいところで場面転換。
次回予告では「殿のご寵愛をいただいたぞ」と万千代はがなっている。
はたして、どうなる?

それにしても、「織田家の前田利家様、竹田の高坂弾正さま〜〜」発言を聞いたあと、改めて42話を見ると、信長役の市川海老蔵のやたらギラギラと零れそうな瞳が、なにか特別な欲望を裏に秘めているように見えてきてしまうから困る。
(木俣冬)