山口敬之氏の準強姦疑惑で噴出するセカンドレイプと背景にある『魔女崇拝』【勝部元気のウェブ時評】

ニュース番組等に多数出演するジャーナリスト・山口敬之氏からレイプ被害を受けたと主張する女性(詩織さん)が、山口氏の不起訴に関して検察審査会に不服申立をしたと実名を公表して記者会見し、大きな話題を呼んでいます。

報道によると、防犯カメラの映像やDNA鑑定等の証拠が出揃っているにもかかわらず、不起訴となったということで、不自然な決定に対して疑問に感じた人も多いはずです。
山口氏は安倍首相との関係も近いとされる人物であることから、森友学園問題や加計学園問題で疑われているような、政権に対する何らかの忖度があったのではないかとの見方もあるようです。

実際に安倍首相の関与があったか否かは分かりません。ですが、国家権力内において被害をもみ消そうという圧力が働いたことは事実でしょうし、そうであるならば国家による国民の人権の蹂躙です。首相は「シロだ」と主張するのであれば、単に「関与は無い」と釈明することに留めず、原因究明と再発防止を徹底するべきでしょう。


相も変わらずセカンドレイプが噴出している

 
一方で、インターネット上では以下のようなセカンドレイプ発言が噴出しています。

「二人きりで会うのが悪い」
「意識を失うほどお酒を飲むのが悪い」
「胸元があいた服を着ている。被害に遭った人はそんな服は着ない」
「安倍政権を貶めたい奴らのハニートラップだろう」


これは決して私が恣意的に抽出した一部のユーザーの意見ではありません。
実際に、Twitter検索で「詩織」というワードを入れると、以下のように出てくるサジェストに「ハニトラ」「怪しい」「売名」というセカンドレイプワードが並んでいる状態なのです(※2017年5月31日現在)。
山口敬之氏の準強姦疑惑で噴出するセカンドレイプと背景にある『魔女崇拝』【勝部元気のウェブ時評】


このようなセカンドレイプが噴出する事態は今回の事件に限りません。たとえば先日、週刊文春が報じた元吉本興業の芸人による集団強姦事件に関しても、同様にインターネット上でセカンドレイプが噴出しています。昨年起こった俳優・高畑裕太氏の事件でも、同様に様々なセカンドレイプがネット上に溢れ返っていました。



セカンドレイプは「『魔女崇拝』から生じる認知的不協和」説


彼等に対して、いかにその認識や被害者を責める態度が間違っているか、様々な人々が様々な方法で指摘をしています。私もこれまで、ハフポスト朝日新聞社WEBRONZAでセカンドレイプの問題を取り上げて記事を書いたことがありました。

ところが、残念ながらセカンドレイプは一向に止む気配はありません。
指摘している人の中には気が付いている人も多いと思いますが、彼らにいくら論理的な説明をしてもその認識を改めることはほとんどないのです。

なぜ、彼等は多くが非論理的な被害者バッシングに固執するのか、私も長いあいだ疑問でした。事件の加害者と同じ精神構造であるがゆえに、「声をあげる被害者を黙らせたい」という欲求が働いている人もいるでしょう。でもそれが多数派のようには思えません。

いろいろと考えた結果、とある一つの仮説を当てはめると、全ての謎がすんなりと解けました。それは、彼らが『魔女崇拝』を抱えているということです。
彼らの中に「女性は加害者で男性は被害者だ」と確固たる認知があるため、「男性は加害者で女性は被害者」として顕示されるレイプ事件の情報が入ってきた時に、彼らの中に強烈な不協和が生じます。

自分の信念と矛盾するような不都合な事実が情報として入ってくると、事実のほうを否定して、矛盾を解消しようとする心の働きを「認知的不協和」と言いますが、まさにそれが起こっているのです。ハニートラップや売名行為という推論を持ち出して、「女性は加害者だ」という自己の認知に合致させようとしているのだと思います。


女性叩きの裏にあるのは全て『魔女崇拝』では?


様々な女性バッシングの裏には、それを言う男性の中に「ミソジニー(女性嫌悪)」や「女性不信」、「女性蔑視」があるという指摘がこれまでなされてきましたが、この『魔女崇拝』こそが最も正確な指摘のように思うのです。実際、この『魔女崇拝』という仮説を当てはめると、様々な女性バッシング問題の背景がクリアになります。

たとえば、最近、痴漢を疑われた人がホームへ飛び込むのが問題視されていますが、痴漢の話になると一部の男性が冤罪にばかり言及する事態が必ず生じます。これも、彼等が「男は被害者で女は加害者」という認知を抱えているために、それに反する痴漢という情報を拒絶するような心理構造になっているからだと考えられます。
他の犯罪では言及しない冤罪を無理やり引っ張り出してきて、「女性が加害者だ」という自己の認知と一致させようとする「認知的不協和」だと思うのです。

また、この『魔女崇拝』は、レイプや痴漢という性暴力のケースの時に現れるだけではなく、より身近な会話の中でも姿を見せることもあります。たとえば、男性同士でも女性同士でも人間関係がドロドロとした争いは起こるはずなのに、女性同士の争いにのみ注目して「やっぱ女って怖ぇ~」という男性が一部にいます。「女は人を騙すような悪い奴等だ」という認知にぴったり当てはまるからこそ、そのような言動をするのでしょう。

 ※なお、女性でもこのような男社会の価値観に晒される中で、それを内面化してしまっている人はいます。


『魔女崇拝』の原因の多くは“フラれた”経験


では、なぜ彼らは『魔女崇拝』という歪んだ認知を抱えてしまうようになったのでしょうか? 多くの場合、彼らが若い頃に何らかの形で女性にフられた経験が原因となっていると私は考えています。自分が好意を寄せている相手に自分の好意を受け入れてもらえなかった時に、「僕の好意を受け入れないなんてひどい!悪魔だ!」と絶望するわけです。


たとえば、4月9日に放送された「ワイドナショー」(フジテレビ系)で、タレントの武田鉄矢氏が、男性が不倫をする心理について、「男っていうやつは、女性から受けた傷は女性でしか埋まらない」と持論を展開する場面がありました。フラれたことを「傷」と捉えて、その傷害を負わせた女性を加害者として認知していると考えられ、『魔女崇拝』の典型的な認識と言えるでしょう。

また、この「フられる」というのは、必ずしも女性によってハッキリと明示されるとは限りません。たとえば、好意を寄せている女子が、優しい(と本人は思い込んでいる)自分ではなく、悪ガキのアイツのことを好きということを知った瞬間も、同じように「僕よる悪いアイツを選ぶなんてひどい!悪魔だ!」と勝手に失望するわけです。


勝手に女性を神聖化して勝手に失望している


女性や真っ当な男性からすれば、「え、フっただけで加害者扱いするなんて意味不明なんですが!?」と思うかもしれません。ところが彼らはそのような心の処理をしてしまう。その裏には『聖女妄想』があると思っています。
つまり、女性は純真で自分の全てを受け入れてくれる存在だという勝手な思い込みです。

家庭的で、男性に意見を言わず、言う時も細心の注意を払ってオブラートに包み、常に男のプライドを守りながら、男の全てをNOと言わず快く受け入れる。聖女という言葉を用いましたが、同じ人として捉えているというよりも、ラブドールのような“モノ”として見ていると言えるでしょう。

そして、『聖女妄想』に傾倒して、現実離れした女性像が頭の中に出来上がっている男性ほど、現実の女性から拒絶があった際に、その落差に勝手に失望して、勝手に『魔女崇拝』にハマって行きます。女性にフられた男性の全てが魔女崇拝に陥るわけではないですが、それはどれだけ『聖女妄想』に憑りつかれているかの差によるものだと思うのです。


セカンドレイパーとマザコンは近しい関係にある!?


ではこの『聖女妄想』に染まった男性は、どのように聖女のイメージ像を形成したのでしょうか?

1つは映画、ドラマ、漫画、アニメ等の様々なファンタジーの中で、「男性にとって都合の良い理想的な女性像」として描かれている表現をシャワーのように浴びているうちに内面化して行くことが考えられます。タレントさんがセクハラ的な発言に対して怒らず、笑って流すようなバラエティー番組もその一つです(もちろん本人としては仕事上そうせざるを得ないという不本意の場合が多い)。

また、ファンタジーに限らず、リアルでも洗脳は起こります。たとえば、「女の子なんだからそんな言葉使わないの!」というジェンダー不平等な教育をする先生。ケンカしても父の身の回りの世話を止めない母。同様に男児である自分のお世話をしてくれるということから生まれる『聖母妄想』(家事育児を夫婦でしっかりと分担していればこのような認知は生まれない)等がそうでしょう。

このような事例をたくさん見ている中で、男児の中でにょきにょきと『聖女妄想』が成長して行くのではないでしょうか? 正確な調査をしたわけではないですが、もしかするとセカンドレイプ的な発言をする男性はマザコンの確率が高いとも言えるかもしれません。


「セカンドレイプ罪」の創設を希望します


このように、脊髄反射的にセカンドレイプ発言をする男性が後を絶たないその背景には、『聖女妄想』と『魔女崇拝』という女性に対するイメージの乱高下が存在しているように思うのです。そうやって作り出された“無敵の認知”の前に、いかなる論理的説明も通用しないことが何となく分かって頂けたのではないでしょうか?

つまり、セカンドレイプを根本的に無くすためには、「女性は聖女でも魔女でもなくてただの人間だ」という社会的な認識を広めて行かなければならないと思うのです。この仮説に納得して頂けたという方は是非一緒に口酸っぱく指摘して行ければと思っています。

また、その一方で今すぐセカンドレイプをやめさせるような即効性のある政策も必要だと思います。セカンドレイプは場合によっては侮辱罪に該当しますが、それをしっかりと現代社会の現状に合わせて、法的に体系化した「セカンドレイプ罪」の創設を希望したいところです。現在の国会で性犯罪に関連する刑法改正が進められていますが、それが終わり次第、次の課題として取り組んで欲しいです。


全ての被害者とともに戦おう


今回、詩織さんは本名と顔を公に出して戦うという大変に勇猛果敢な選択をされました。それは確かに称賛するべきことだと思うのですが、そこまでしなければ悪事を告発できない社会を形作っているのは私たち一人ひとりだということも忘れてはいけません。今回の事件を感動ポルノとして消費せず、しっかりと原因究明と再発防止を求めて行きましょう。

そして、今回は加害者が著名人であったためにメディアが注目したわけですが、そうではない加害者による犯行に遭い、泣き寝入りを選択せざるを得なかった人がこの国にはごまんといます。それも決して忘れてなりません。

全ての被害者とともに戦いましょう。平和な私たちの未来のために。

#Fighttogetherwithshiori
#Fighttogetherwithallsurvivors

(勝部元気)