美術館ナンパに走る老害と、彼らがセクハラしかできない理由
『GG』創刊号表紙のイメージ画像


6月24日に創刊するシニア向けライフスタイル雑誌『GG』、その編集長・岸田一郎氏がNEWSポストセブンのインタビューで語った女性へのナンパ手法が、あまりに気持ち悪いとインターネット上で炎上しました。

『GG』は「まだまだ女性にモテたい」「枯れたくない男性」向けの雑誌というコンセプトのようで、創刊号では美術館で女性に声をかけるナンパ手法を提唱。
以下のような指南をしています。

熱心に鑑賞している女性がいたら、さりげなく「この画家は長い不遇時代があったんですよ」などと、ガイドのように次々と知識を披露する。「アートジジ」になりきれば、自然と会話が生まれます。美術館には“おじさん”好きな知的女子や不思議ちゃん系女子が訪れていることが多いので、特に狙い目です。
「ちょいワルジジ」になるには美術館へ行き、牛肉の部位知れ  NEWSポストセブン

牛肉の部位を覚えておくのもかなり効果的。たとえば一緒に焼き肉を食べに行ったとき「ミスジってどこ?」と聞かれたら、「キミだったらこの辺かな」と肩の後ろあたりをツンツン。
「イチボは?」と聞かれたらしめたもの。お尻をツンツンできますから(笑い)
「ちょいワルジジ」になるには美術館へ行き、牛肉の部位知れ  NEWSポストセブン



美術館ナンパがダサイ&キモイ理由


突っ込みどころ満載で、当然ネットでは女性からも男性からも様々な批判が上がっていました。主なポイントのまとめると以下の通りです。

・美術鑑賞の邪魔をするな
・警備員が注意に入るレベルの迷惑行為
・マンスプレイニング(求めてもいない上から目線の説明)だ
・食事中のセクハラを推奨するな
・相手が詳しくないと決めつけて知識をひけらかす高齢男性が若い女性にどれほど嫌われているかなぜ分からないのだ
・若い女性のみをターゲットにするのは優越感に浸りたいからで、人としての小ささが見えてダサい
・老害ここに極まれり


どれもその通りですね。必ずしも美術館とは限りませんが、このようなナンパ行為をする高齢男性と、それによって嫌な思いをしている若い女性が実際にたくさんいます。人権侵害行為を助長するような今回の記事に批判が殺到したのも当然と言えるでしょう。

『GG』が想定している読者は「枯れたくない年配男性」とのことですが、こんなことを本気で真似しているようでは、「枯れ」よりも、未成年時代から何も変わっていないほどの己の「尻の青さ」を気にしたほうが良いのではないかと思ってしまいます。



なぜ、モテテクを学ぶ人ほどモテないのか?


このナンパが迷惑行為かつ治安を悪化させる行為だと指摘する記事は既にいくつかあがっているようなので、ここではこのようなモテテクニックの不毛さを指摘したいと思います。

今回の事例に限ったことではないですが、この手のモテテクにおける致命的な欠陥は、相手の女性を、結ばれることが確実視されている「ギャルゲー」のヒロインのように捉えているところです。

至極当たり前のことですが、男性側から求愛した際に、「YES」と思う女性よりも、「NO」と思う女性のほうが何倍も多いもの。ですから、本気で誰かとマッチングしたいのであれば、「NO」の人を見極めて、数少ない「YES」の人を探すことが大事です。とりわけ日本人女性は明確に「NO」を示しませんから、しっかりと観察することが必要になります。それに「NO」と思っている相手にいつまでも時間を割いているのは無駄でしかありません。つまり、探らなくてはならないのは「YESのサイン」ではなく、「NOのサイン」です。


また、基本中の基本にして最重要のモテテクは、「相手の嫌がることはしない」ということです。「恋愛の駆け引きは嫌がられたら即ゲーム終了」なわけですから、それはむしろルールそのものとも言えます。「この人は何をしたら嫌がるだろうか?」それを常に気にして相手の地雷を避けつつアプローチすることが求められます。

ところが、この手のモテテクはそのような最も肝心な「NOの見極め方」や「相手の嫌がることはしないという恋愛のグランドルール」について全くと言って良いほど書きません。なぜか女性が高確率で受け入れることを前提に、「YES」のサインですらないものを勝手に「●●すればYESのサインだ!」と勝手に決めつける。独りよがりな勘違いを膨らませて、一方的なドッジボールトークで、挙句の果てにセクハラをするわけです。


また、相手の「パーソナルスペース」と「心のプライベートゾーン」を見極めて不快に感じない程度の距離を保ち続けることは人間関係において基本中の基本ですが、彼らのやっていることはいきなり他国の領地にICBM(大陸間弾道ミサイル)を叩き込むような行為。人権侵害ゆえに許されるべきではないですが、モテテクとしても成立するはずがありません。こんなものを本気でモテテクと信じている、その神経を疑ってしまいますよね。


彼らが求めているのはモテではなく加害


でも、なぜ彼らはこんなものをモテテクだと勘違いしてしまうのでしょうか?

と言いつつ、彼らは勘違いしているのではないと思います。実は彼らはモテテクを必要とはしていない。彼らが求めているのはモテテクそのものではなくて、ギャルゲーのヒロインとの妄想的な関係だと思うのです。

要するに、彼らが抱えているのは、「若い女性にマンスプレイニングにしたい!」「セクハラしたい!」「他国の領地にICBMを叩き込むような人権侵害行為がしたい!」という最悪な欲求であり、それに対してこのような雑誌が「こうすればその願いが叶いますよ」という指南をするからウケるわけです。
だから「NOの見極め方」や「相手の嫌がることはしないという恋愛のグランドルール」という根幹部分には一切興味を示さないわけですね。


ナンパを禁止して安心して暮らせる社会を


ちなみに、今回は高齢者のナンパ行為が問題としてあがっていましたが、そもそも近年のナンパ行為は昔に比べてゲーム的要素が強くなり、迷惑だと感じる女性が急増しています。ナンパ術の一つ、「恋愛工学」が様々な悪影響を及ぼしているということは昨年の記事でも記載した通りです。

そこでも触れましたが、現状のナンパの悪質化を鑑みて、私は公共の場所でのナンパは原則禁止にするべきだと主張しています。路上でのキャッチセールスを迷惑防止条例違反の対象とする自治体は増えていますが、キャッチよりもナンパのほうが迷惑だと感じる人が半数を超えている状況なので、むしろナンパを規制する必要があると思うのです。当然、美術館のような場所も対象とするべきでしょう。

ちなみに、東京の新宿駅にある飲食店「新宿ベルク」ではナンパ禁止の貼り紙を出しています。
ナンパ行為を放置すれば女性客が離れてしまうのですから当然ですね。顧客を重視した適切な対応と言えるでしょう。全面禁煙にしたスターバックスが女性から圧倒的な支持を得たように、快適な空間を提供するためにナンパ禁止にすることは今後飲食店が取るべき一つの戦略ではないでしょうか?


セクハラには「キモい!」だけじゃダメ


一方で、今回の美術館ナンパ行為に対してネット上では「気持ち悪い!」との声が続出しましたが、批判の仕方も問題ありだと思っています。美術館ナンパは気持ち悪いからアウトなのではなく、マンスプレイニングやセクハラという「人権侵害行為」だからアウトなので、本来はそれをしっかりと指摘しなければなりません。

もちろん感情語で批判してはダメというわけではないですが、「人権を侵害するな!」ということを明確に言語化する批判が非常に少なかったのは、日本で人権に対する理解が広まっていないことの表れだと言えるでしょう。

会社のセクハラ研修等でもそうですが、「相手が不快だからいけない」ではなく、「人権侵害だからいけない」と伝えることが大事です。そうしないと彼らは「自分の問題ではなく相手の問題だ」と認識してしまい、自分の問題に目を向けることが無くなります。どうか、ハラスメントを無くすためにも、「被害者側の問題ではなくて、加害者側の問題だ」ということをしっかりと指摘して行きましょう。
(勝部元気)