三重県いなべ市が、“楽器寄附ふるさと納税”という国内初の試みを実施している。今年10月の受付開始からわずか2カ月で150の楽器寄附を達成するほどの反響をよんでおり、新しいふるさと納税スタイルとして注目されている。
受付開始から2カ月で150の楽器の寄附依頼
楽器寄附ふるさと納税は、三重県いなべ市と、ネット型リユース事業を行う株式会社マーケットエンタープライズが連携して実現した企画。使われなくなった不用楽器をいなべ市の教育機関及び音楽団体へ寄附すると、楽器の査定額が税金控除されるという国内初の取り組みだ。いなべ市が近年課題としていた「教育機関の楽器不足」という課題解消を期待して、今年10月10日に受付が開始された。
受付開始から約2カ月で、すでに150の楽器の寄附依頼が寄せられており、現在までにフルートやサックス、トランペットなど20もの楽器が学校に届けられている。寄附者からは、「もう奏でることのなかった楽器が、新たな演奏者の手でよみがえるなんて。こんなにうれしいことはありません」といった感謝の声が届いている。今後は、コントラバスやウィンドチャイム、カバサなど寄附を受け付ける楽器の種類を増やすことによって、さらなる楽器不足の解消を図っていく。また、寄附した楽器の音色を楽しめるように寄附者を演奏会に招待することも検討されているという。
本来のふるさと納税の趣旨に合った寄附の形を
このユニークな企画はどのように生まれたのか? マーケットエンタープライズに問い合わせたところ、いなべ市長・日沖靖氏の発案によるものらしい。いなべ市では、「生まれ育った町や応援したい町に寄附する」という本来のふるさと納税の趣旨に合った、見返りのない、つまり返礼品がない寄附の形を検討していた。同時期に市内の中学校の吹奏楽部において楽器不足問題が発生しており、購入予算の要望が校長から提出されていたものの、特定の部活のみに予算を認めることが難しい状況が続いていた。
そこで日沖市長が「家庭で眠っている楽器を寄附してもらえないか」とひらめいたそう。日沖市長のアイデアに共感したマーケットエンタープライズが、楽器の査定・引き取りなどを担当することが決定して、楽器寄附ふるさと納税が生まれた。
近年、ふるさと納税の返礼品の高額化が問題視されている。政府与党は来年より見直しを進める方針を掲げており、各自治体は、ふるさと納税の在り方を再考する必要が求められている。そんな状況だからこそ、「使わなくなった楽器を処分したい」と「楽器不足を解消したい」という両者の思いが見事にマッチした楽器寄附ふるさと納税は、今後あとに続く自治体も多そうだ。
国内初の取り組みに携わることになったマーケットエンタープライズは、「われわれはリユース企業として、『不用品の再活用』によって社会貢献を行うことができます。本来のふるさと納税の在り方が問われている現在、この観点から貢献できると考えております」とコメントしている。
(原田イチボ@HEW)