2023年5月、NTTデータの男性従業員・Aさん(当時27歳)が、勤務先と大口取引先であるキリンホールディングスとの合同駅伝大会に参加中、熱中症で倒れて救急搬送され、約2か月後に死亡した。
遺族である妻が4月22日付で東京簡易裁判所に民事調停を申し立て、NTTデータ、キリンホールディングスの2社に加え、両社の管理職4名と大会幹事4名の計10者を相手方とし、約1億1380万円の損害賠償を求めている。

代理人弁護士らと遺族が4月24日に記者会見を開き、申し立ての経緯と意義を説明した。

入社1年目、大学院卒の27歳が「断れなかった」駅伝

Aさんは大学院を修了後、NTTデータに入社。キリンホールディングスのシステムを担当していた。
駅伝大会は2023年5月20日に開催された。箱根駅伝のコースをなぞり、小田原方面まで駅伝方式で走った後、レクリエーション施設で入浴・懇親会を行う恒例行事だったとされる。参加者は約30人、7チーム前後。Aさんにとっては入社1年目で初めての参加だった。
Aさんは大学進学以降、継続的な運動習慣がまったくなく、社内にもその旨を伝えていたが、原則「最低10キロ」とされた走行距離を交渉の末5キロに短縮して出場した。倒れていたのは3.9キロ地点。発見時には意識障害、痙攣、多量の発汗が見られた。
搬送後、熱中症による多臓器不全で約2か月間闘病。腸管壊死に至り3度の手術を受けたが、一度も会話ができないまま、2023年7月15日に死亡した。

「行きたくないが、大事な取引先だから行かないと」

代理人の尾林芳匡(よしまさ)弁護士は、大会の性質について「接待ゴルフに近い。主要な取引先との親睦を図るための休日のスポーツイベント」と説明。
参加者は両社の社員に限られ、連絡には会社の業務用メールが使われ、役職付きの肩書も記載されていたと指摘した。
一方、NTTデータとキリンホールディングスはいずれも「会社としてのイベントではなく、まったく自主的な余暇活動」と説明しているという。
この日、会見に出席したAさんの妻は、Aさんが生前、次のように漏らしていたと明かした。
「行きたくないけど、主要な取引先との大事な行事なので、行かなければいけない」
遺族側は2024年11月25日付で労災申請を行ったが、労働基準監督署は2025年2月19日付で不支給処分とした。「業務ではない」という会社側の説明に沿った判断とみられ、遺族側は不服申請を継続している。

「夫の靴や服を今もそのままに」──遺族が語った喪失と怒り

Aさんは死亡時、27歳になったばかりで、結婚からわずか半年だった。会見で妻は以下のように振り返った。
「夫は明るく、元気で、困っている人がいれば手を差し伸べる優しい人でした。事故が起きた駅伝大会には、先輩に誘われたため、運動に不慣れであったにもかかわらず、快く参加しました。
夫を突然失い、当たり前の日常が一瞬で奪われました。私は絶望の中で、この悲しみを抱えて生きていくことが想像できず、自らの命を絶つことも何度も考えました。
夫がいつか元気に戻ってくるのではと思い、今でも夫の靴や服をそのままにしています。できることなら、優しい夫と代わってあげたかった。
いまでも、夫が闘病していた病室の様子が、フラッシュバックしてきます」
妻はさらに、会社側の対応への不信感を訴えた。
「これまで、この駅伝大会と業務との関係性について会社側に説明と対応を求めてきましたが、会社側は、本件はあくまで休日のレクリエーションであるとの説明をしており、納得のいく対応は得られていません。
なぜこのようなことが起きたのか、どこに問題があったのか。同じような被害が二度と繰り返されないためにも、誠意ある対応によって、明らかにしていただきたいです」

逸失利益など1億円超を請求

請求額は逸失利益約8350万円など約1億1380万円。調停の第1回期日は、GW連休を挟むため早くても6月から7月頃になる見通し。
弁護士JPニュース編集部ではNTTデータとキリンホールディングスの両社を取材。
NTTデータは取材に対し次のように回答した。
「当社は、亡くなられた社員のご冥福を心よりお祈り申し上げるとともに、ご遺族の皆さまに深くお悔やみ申し上げます。
現時点において、当該調停申立てに関する事実は当社として確認できておりませんので、本件に関するコメントは差し控えさせていただきます。
今後、内容が確認でき次第、適切に対応してまいります」
キリンホールディングスも「お亡くなりになられた方のご冥福を心よりお祈り申し上げるとともに、ご遺族の皆さまに深く哀悼の意を表します。現時点では、調停申立てに関する事実を確認できていないため、コメントは差し控えさせていただきます。内容を確認できましたら、関係先と連携し対応してまいります」としている。



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