文/椎名基樹
 ユーチューバーのヒカルの「タモリは面白くない」という発言が炎上している。彼曰く「タモリの番組を回す力は理解できる」。
しかし「島田紳助や松本人志のように、タモリは人を落とさない。いじる笑いが好きだから、その面白さが理解できない」とのことだ。

ヒカルが理解できなかった「タモリの凄み」…実は“最も毒が強い...の画像はこちら >>
「人を落とす笑い、いじる笑いが好き」という発言から、ヒカルの「面白いの基準」は、「毒があること」なのだと思った。ヒカルにとってタモリは「博識」が売りなだけで、毒によって笑いを生み出すコメディアンに見えないらしい。

 しかし、タモリは島田紳助よりも松本人志よりも、さらに「毒の笑い」の日本における始祖と言っていいだろう。ビートたけしよりも毒が強いコメディアンだと思う。

タモリは“毒が強いコメディアン”である理由

 島田紳助も松本人志もビートたけしも猛毒だ。彼らの作り出した笑いによって、大いに笑わせてもらったし、物の見方も教わった。しかし3人とも、その毒っ気の反面、ウェットな部分も多い。感動番組を作り「素敵やん」とつぶやく。芸人の生き様を哀切なメロディーで歌い上げる。著作で自らのお笑い観を語る。毒舌で世間を突き放す一方で、共感を求めずにはいられない。


 しかし、タモリはクールだ。共感など全く欲していないように見える。他人の理解などを求めない強さは、内なる毒の強さの表れだと、私は思う。一番悪ふざけが徹底されているのがタモリだ。

「イグアナ」に象徴される、タモリの異様な衝撃

 タモリを世に送り出した「密室芸」といわれたパフォーマンスも、毒に満ちている。ヒカルは「イグアナのものまねを子供の頃見たけど、面白さがわからなかった」と言う。タモリがイグアナを披露していたのは、1970年代の後半で、1991年生まれのヒカルが、子供の頃にイグアナをテレビで見ることはできない。きっと「お昼の顔のタモリ」が、インプットされた後、動画か何かで、ある程度の年齢になってから見たのだろう。

 そんなバイアスの中で「イグアナ」を見たとしたら、理解できないのも当然だ。最初に「イグアナ」をテレビで披露した頃、タモリは、海のものとも山のものともわからない存在だった。

 しかも、その風体は異様だった。ポマードでべったりとオールバックに髪を撫で付け、片目にアイパッチをしていた。これほどいかがわしいファッションをしたテレビタレントは、後にも先にもいないと思う。


 そんなテレビ画面から「浮いた」存在感の男が、忌み嫌われる「爬虫類」を演じるのだ。四つ足で歩きまわり、イジリー岡田のように、舌をちろちろと出しながら。めちゃくちゃ気持ち悪くて、世間に与えたインパクトは相当なものだった。思い返せば「気持ち悪すぎて笑ってしまう」という感性の笑いは、この「イグアナ」が嚆矢だったと思う。

タブーすら笑いに変えた「4カ国麻雀」の過激性

「4カ国麻雀」もかなり過激だ。でたらめな外国語で麻雀を打つこの芸は、さりげなく国民性を笑いの対象にしている。アメリカなどのスタンドアップコメディアンには、この「人種のものまね」をする人がいる。しかし、日本ではこんなデリケートな部分を笑いにしたコメディアンは、タモリくらいだ(中川礼二もちょっとやる)。

 プライベートで披露していた、この4カ国麻雀の初期バージョンは、毛沢東、ダグラス・マッカーサー、アドルフ・ヒトラー、昭和天皇が麻雀を打つという設定だったらしい。

 私がタモリのコメディアンとしての才能に感嘆するところは、イグアナのような「マイム」に秀でているところだ。日本では、バラエティー番組の性質上「言語表現」に重きが置かれるが、コメディアンの真骨頂は「身体表現」にあるように思える。

タモリもやっていた「他人を落とす笑い」

 一方で、ヒカルが好きな「言葉によって“他人を落とす”笑い」も、タモリは大いにやっている。ただタモリのそれは、非常にウィットに富んでいる。
タモリは「名古屋、オフコース、さだまさし」が嫌いだと公言した。「テレフォンショッキング」に小田和正が出演したときのピリピリ感は、かなりのものだった。

 私は子供の頃、この3つが嫌いという意味がわからなかった。しかし大人になって、それぞれの「タモリが嫌いと言ってる部分」が見えてきて、なるほどと膝を打った。まさにものの見方を教わった気持ちだった。

 ヒカルと同じように、私も若い時はタモリの面白さがわからなかった。何せビートたけしが大好きで「たけしのものの見方」に、頭を支配されていたからだ。私の世代は大抵そんな感じだと思う。当時はスタイリッシュすぎて気がつかなかったのだ。タモリの毒や過激さに気づいたのは、おそらく30歳を過ぎてからだったと思う。

【椎名基樹】
1968年生まれ。構成作家。
『電気グルーヴのオールナイトニッポン』をはじめ『ピエール瀧のしょんないTV』、週刊SPA!にて読者投稿コーナー『バカはサイレンで泣く』などを担当。KAMINOGEにて『自己投影観戦記~できれば強くなりたかった~』を連載中。Xアカウント @mo_shiina
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